上 下
2 / 19

いらっしゃいませ・2

しおりを挟む
そう言って腰を下ろした二人の前のテーブルに置いたのはどうやら菓子の類いを盛った鉢らしかった。らしい、というのはその中身が彼等には見慣れないものでおそらく菓子なのだろうと何となく推察される程度のものだったから。
 焼いた生地の中心に赤いジャムを置いたもの、白いクリーム様のものを挟んだものは甘く、十分に熱い茶と合わせて口にすると疲れが取れるようだった。
それに安堵して、今度は見慣れない菓子もつまんでみる。こちらも焼かれて硬く、けれど表面はつるりと光沢を帯びていた。香りも甘いとは言えずむしろ塩っぱい香ばしさ。
 口にしてみればその香りの通り塩っぱくて、けれどぱりっと砕けるその感触も快い。甘みはないがお茶や或いは軽い酒のつまみとしても良さそうだ。
 「……これは美味いな」
 「ええ。普通に売っているものとは違うようだけど、とても美味しい」
ぽつぽつとそれをつまみながら言葉を交わしている二人の前に、皿が出された。
 思わずその皿を見てそれから顔を見た店主は、その幼さを残す顔に笑みを浮かべて彼等を見返した。
 「それではこちら、ホットサンドです。熱いので、お気を付けて」
 置かれているのは焦げ色の三角形をした、どうやらパンの中身らしいものだ。普通のパンは皮が固くこんな風にはならない。
おそるおそる手に取ると確かに熱を持っていた。しかし「気をつけて」と言われるほどの熱さでは、と思いながらかぶりついたフレディは悲鳴を上げる。
 「熱っ」
 「ああ、中身。中身が熱いんで!」
 口にした途端、中から熱いものがあふれてきた。見ればチーズがそこからとろけている。
 「熱い……けれど、美味しいわ」
フレディの様子を教訓に用心しながら小さくかじりついたリアンナが感心する。そうしながら吹き冷まして熱心にかじっている様子を見ると、確かに味も気に入ったのだろう。
ずいぶんと柔らかいパンの中身はそのとろけるチーズと燻製肉ハム、少しばかりの野菜が入っている。熱くてとても美味しい。
 夢中になって殆ど無言のまま、二切れずつそれを食べ終えると人心地付いた気になった。
 「……ご馳走様。幾らだ?」
 「お二人で合わせて二百ポンです」
 問いに素早く切り替えされて頷く。安いとは言えないが高くもない。適正か、といえばむしろ思ったよりは安いくらいだ。
 「では、これで」
 「美味しかったわ、ありがとう。……あなた、一人でこの店を切り盛りしているの?」
フレディの置いた硬貨を受け取り、リアンナの問いに苦笑する。
 「ええ、そんなに忙しくはないですし。意外と村が近いんですよ。わざわざ寄るのは基本的に旅の人です」
 「……そう、なのか?」
その答えにはフレディが困惑した。
 「街道をもうちょっと行ったら村が見えますよ。一応ギルドの支部もあるし、宿屋もある」
 冒険者ギルドは、どんな辺境の村でも一応は置かれているしそれがある以上宿屋の一軒くらいはあるものだ。そこまで至らなければそこはまだ村ではなく集落にすぎないことになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

お妃さま誕生物語

すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。 小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...