上 下
27 / 42

美味しいご飯は色々効く

しおりを挟む
「こ、これはっ……」
「改良型1号です。ソース(仮)、かな。塩胡椒に加えると一気に美味しくなりますね」
薬師達にも、何にどう使うものか、実践でわかってもらった方がいい、という紗江の意見はマリウス達には意外だったらしい。
魔法使いは基本的に国の管轄だが薬師は民間の仕事、という認識のようなのだ。公務員と自営業、という様子で接点は殆ど無いらしい。
そのせいか、薬師達は魔法使いより年齢の幅が広く、また女性も多い。特にかなりの年齢の、紗江の世界ならお婆さんと言われる年代が意外に活動している。
「ほう、この何に使うのやら、今一つわからなんだ薬がこんな味になるとはねえ」
「味濃いですけど、野菜炒めや粉ものに使うと美味しいんですよ」
話しながら葉物野菜やその他の野菜を刻み、小麦粉と卵を混ぜて焼く。上に豚肉っぽい薄切り肉を乗せ、ひっくり返して更にしっかり火を入れれば、肉の焼ける匂いが食欲をそそる。更にソース(仮)をかけると、いっそう堪らない。つまりお好み焼きだ。
さすがに鰹節は無いが、青海苔っぽい海藻の粉、そしてマヨネーズはお好みで試してもらう。
このマヨネーズも(仮)が付くが、割と早く品質が安定した。酢もやはり薬師達の持つレシピにあり、今まで殆ど顧みられることが無いもののそれなりに知られた物だったらしい。
ソース(仮)が垂れて鉄板に滴り、ジュワワワ、と音をたてる。同時に広がる、香ばしく胃の腑を刺激する……実に腹の減る匂いだ。既に枯れたようなしわくちゃの老薬師も、こくんと唾を呑む程の威力がある。
「味見をしてください、まだまだ改良の余地はあるんですが、どういう方向を目指すのか知っておいていただきたいのです」
紗江が一口大に切って差し出すと、四方八方からフォークが伸びてきた。躊躇いもなく口に放り込んでいくのに、慌てて注意する。
「あの、焼きたてだから熱いですよ、って」
「あつ、あつつ」
「あふあふ」
ちょっと注意は遅かった。はふはふ熱を逃がしながら、それでも皆真剣な様子でそれを味わっている。
「うん、味は濃いけど複雑で美味いね」
「そうかぁ、単体じゃ濃すぎてとても口にできなかったが……こうやって味を付けるのに使えばいいんだな」
「焼いたお肉やお魚に付けるのもお薦めです」
ソースは味が濃いだけに好みが別れるかとも思ったのだが、味自体に忌避は感じないようだ。むしろこの先これをどう生かすか、更に発展させるにはどうすればいいか、とそちらに話は広がっていく。
「かなり味が濃いから、使う量は少しでいいかな」
「食べる人が好みで掛けるのもいいかも」
「食欲が無い時でも食べ易そうだね」
「癖のある肉にもいいかもしれん。臭みを取ってくれそうだ」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい

咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。 新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。 「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」 イルザは悪びれず私に言い放った。 でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ? ※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

偽物の女神と陥れられ国を追われることになった聖女が、ざまぁのために虎視眈々と策略を練りながら、辺境の地でゆったり楽しく領地開拓ライフ!!

銀灰
ファンタジー
生まれたときからこの身に宿した聖女の力をもって、私はこの国を守り続けてきた。 人々は、私を女神の代理と呼ぶ。 だが――ふとした拍子に転落する様は、ただの人間と何も変わらないようだ。 ある日、私は悪女ルイーンの陰謀に陥れられ、偽物の女神という烙印を押されて国を追いやられることとなった。 ……まあ、いいんだがな。 私が困ることではないのだから。 しかしせっかくだ、辺境の地を切り開いて、のんびりゆったりとするか。 今まで、そういった機会もなかったしな。 ……だが、そうだな。 陥れられたこの借りは、返すことにするか。 女神などと呼ばれてはいるが、私も一人の人間だ。 企みの一つも、考えてみたりするさ。 さて、どうなるか――。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~

銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。 少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。 ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。 陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。 その結果――?

処理中です...