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裏話その1
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「さてマリウスよ、どう思う」
王城の奥には、王族の私室がある。当たり前だが、国王の部屋はその中でも最も奥にあり厳重な警備が敷かれている。
だが中に入ってしまえば、豪華というより居心地良く整えられた空間だ。国王も、その妻たる王妃も、贅沢に慣れてもいるものの私的な場所でまで肩の凝る真似はごめん被る、という砕けた部分もある。
「どう、と仰いましても……聖女様は良くわかりませんね」
寛いだ格好の国王に向かい合ってソファに座っているマリウスは、先程までのずるずるしたローブは脱いでいる。さすがに彼の方が砕けた格好をする訳にはいかないが、王妃が直々淹れたお茶をご一緒するくらいの立場ではある。
「バルディログは、どうも人を見る目が無いのでな。あの『聖女』もなあ」
バルディログは正確には王子ではなく、王弟の息子だ。国王の弟だった彼の父は早くに亡くなり、母親も身分が低かったために城に引き取られて育った。見映えはともかく、頭も悪くないし剣の腕もまずまずだ。だが磐石な立場とは言えないし、それがわかっているからこそ、『聖女』の召喚等という手段に出たのだろう。
彼が何を目指しているか、国王はじめ王家の者も薄々気付いてはいてもあえて追及しないできた。
「そちらは陛下にお任せ出来ればと」
「ふむ、関わる気はないと?」
にこやかかつきっぱり答えるマリウスに、国王はちょっと眉をひそめたが、彼が笑顔を崩さず黙っている様子に溜息を吐いた。
「仕方がないか。……ではマリウス、あちらの女性を任せる」
「はい。……巻き込まれてこの世界に来た、いわば被害者ですから。丁重におもてなしさせていただきます」
公の場では臣下の立場を弁えた振る舞いを崩さない魔法使いだが。こうした私的な場所では、多少不遜に振る舞うくらいは許されている。はっきり言って王甥たるバルディログより地位は上だ。
もっとも本人、身分に付随する諸々を煩わしがって普段は一介の魔法使いとしては立場を崩さないので、案外その事実を知る者は少ないのだが。
王城の奥には、王族の私室がある。当たり前だが、国王の部屋はその中でも最も奥にあり厳重な警備が敷かれている。
だが中に入ってしまえば、豪華というより居心地良く整えられた空間だ。国王も、その妻たる王妃も、贅沢に慣れてもいるものの私的な場所でまで肩の凝る真似はごめん被る、という砕けた部分もある。
「どう、と仰いましても……聖女様は良くわかりませんね」
寛いだ格好の国王に向かい合ってソファに座っているマリウスは、先程までのずるずるしたローブは脱いでいる。さすがに彼の方が砕けた格好をする訳にはいかないが、王妃が直々淹れたお茶をご一緒するくらいの立場ではある。
「バルディログは、どうも人を見る目が無いのでな。あの『聖女』もなあ」
バルディログは正確には王子ではなく、王弟の息子だ。国王の弟だった彼の父は早くに亡くなり、母親も身分が低かったために城に引き取られて育った。見映えはともかく、頭も悪くないし剣の腕もまずまずだ。だが磐石な立場とは言えないし、それがわかっているからこそ、『聖女』の召喚等という手段に出たのだろう。
彼が何を目指しているか、国王はじめ王家の者も薄々気付いてはいてもあえて追及しないできた。
「そちらは陛下にお任せ出来ればと」
「ふむ、関わる気はないと?」
にこやかかつきっぱり答えるマリウスに、国王はちょっと眉をひそめたが、彼が笑顔を崩さず黙っている様子に溜息を吐いた。
「仕方がないか。……ではマリウス、あちらの女性を任せる」
「はい。……巻き込まれてこの世界に来た、いわば被害者ですから。丁重におもてなしさせていただきます」
公の場では臣下の立場を弁えた振る舞いを崩さない魔法使いだが。こうした私的な場所では、多少不遜に振る舞うくらいは許されている。はっきり言って王甥たるバルディログより地位は上だ。
もっとも本人、身分に付随する諸々を煩わしがって普段は一介の魔法使いとしては立場を崩さないので、案外その事実を知る者は少ないのだが。
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