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見切り処分・3

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フィールズ家に送られてきた請求書は、フィールズ子爵が卒倒する金額だった。
実に、リリィの通う学園の授業料1年分に相当する金額は、ただでさえ脆弱な子爵家の財政からは到底見込めない支出だ。
「な、何よこの金額!!」
もちろん当のリリィにとっても想定外の金額である。彼女にとっては『ビーズの指輪』などオモチャの類い、憧れの宝石類には比べる余地もない安物のはず。だが請求書に書かれた金額は、リリィが宝飾店の店先で何度も確認した本当の宝石類より高い。
「こんなのおかしいわ!金額誤魔化して、騙し盗ろうとしてるんじゃない!?」
わめきたてるリリィにおろおろと母親が言う。
「でもリリィ、この購入証明書は、正式なものだわ……金額を誤魔化すなんて、犯罪になるのよ」
「でも、たかがビーズよ?!なんでこんな値段なの!?」
「……リリィ、『ビーズ』は……最近新しく出来たばかりの、とても高価な品よ。今は王家からも注文されるという、最新の最高級品だわ」
「はぁ!?」
この世界での『ビーズ』は、前世の価値観から考えられないほどの高級品だ。(もちろん彼女の前世でも、それなりに高価なビーズまたはビーズ製品はあったのだが、その頃から視野の狭い彼女はそれを知らない)
少なくとも今現在のこの世界では、(ものによるが)天然の宝石より高価な貴重品であり、かつ金を積んでも手に入るとは限らないほど希少なものだ。
後でわかった話だが、相手の子爵令息は、今までこつこつ貯めた金を注ぎ込んで婚約者である子爵令嬢のためにその貴重な指輪を購ったのだそうだ。それくらい仲のよい想い合った婚約者同士として、学園内でも有名だったのだ。
ただでさえ金銭的余裕の無いフィールズ子爵家では、弁償などできるはずがない。かねてから接近してきている商会に頼み込んだのだが、さすがに相手も微妙な反応だ。
「それは、えぇと……」
会頭はそこそこ年のいった男性だが、恰幅よく簡単に言えば太めで、見た目も良くない。しかし忙しくしているようで、すがりつかれても隣国のフィールズ家を訪ねるのは大体本人ではなくその部下だ。
「ビーズ、というのは確か、流行りだしたばかりでなかなか人気の品と聞きますが」
「はい……その、私どもでは到底手の出ない高級品でございます」
母親は悩ましげに溜め息を吐く。
「我々も、人気の品と聞きまして伝を探していますが、……お嬢様が、弁償を兼ねて購入するのならば、融通はできるかもしれません」
商会側としては、この国で人気の品を手に入る絶好の機会ではある。
だが実のところ、子爵家への融資は焦げ付き気味で内輪でもそろそろ損切りを言い出す声も出てきていた。とりわけ娘の身の程を弁えない贅沢には非難も多い。
「何で私が、弁償とかしなきゃいけないのよ!?」
今も理不尽に声を荒げている、ぱっと見は可愛らしいがヒステリックな小娘、というのが商会側の見方だ。そして、どうやら精神系のスキルがあるらしい、と言うので商会の人間は対抗措置を取っている。その彼等からすると、ぎゃあぎゃあ騒ぐ小娘とそれに振り回される両親はいっそ滑稽だ。
ただ、商会の上の方……会頭やその補佐は、遣いどころがあると判断しているらしい。そして何より、会頭の長男がこの小娘を気に入って嫁にしようと画策しているのだ。会頭自身も、この国の貴族社会に食い込むには良さそうな話だと、そちらの方向で動いているのだが。こんな荒れ様を見ると、どうにも先行きは危ぶまれて仕方がない。
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