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B品・3
しおりを挟むリリィは、前世の記憶持ちだが。自分では、今の世界を自分が愛されるための舞台だと思っている。
前世の彼女は、あまり幸せとは言い難かった。父母は不仲で親戚も少なく、友人は多くなかった。中学にあがる頃から異性と付き合うようになったが、その相手もろくでなしばかりいわば筋金入りのダメ人間揃い。
当時のリリィは男運が悪いと嘆いていたが、そもそもちょっと見た目が良い男にすり寄っては体から付き合い出す彼女は、要は「体だけのオンナ」と認識され、まともな恋愛対象にはされなかったのだ。
興味本位で手を出した恋愛ゲーム『ラブラブスイート魔法学園(はぁと)♡』は、現実の恋愛には役立たなかったが。色々なタイプのイケメンにちやほやされるのは、ゲームの中でも気持ちよかった。中でも、いちいち突っかかってくる取り澄ました『お嬢様』がイケメンの婚約者に捨てられて泣きすがるのが、見ていてすっきりした。
だからこそ、この覚えがある『世界』でも同じようにしようと思ったのだ。
幼いうちは良かった。両親はリリィに甘く、ちょっと甘えれば何でも言うことを聞いてくれた。双子の姉が自分よりいい扱いを受けているように思えてそのことを訴えたら姉はさっさと屋根裏かどこか、目立たない部屋に移された。
甘え倒していろいろ欲しいものをねだり、うるさいメイドやら何やらは両親に言いつけて追い出し、好き勝手に振る舞っていたら、ある日。深刻な顔をした父親がその深刻さのまま言うには、『金が無い』と。
リリィは、自分自身や自分の周りを飾るのは好きだが、それ以外には全く興味関心がなかった。貴族に生まれたんだし、贅沢して当たり前、程度にしか思っていなかったが、実は生家は裕福とは言い難い、むしろ貧乏な方だった。食うに困るほどではないが、リリィの際限ない欲求を叶えていたら行き詰まるくらいには収入も少なく、元々の資産もない。この時点で、使用人を殆ど解雇して何とかやりくりしていたが、それももう限界だという。
正直なところ、そんな泣き言を言われてもリリィには何の関係もない、と思っていたのだが。
「このままでは、我が家は食べることさえできなくなる」
「はあぁぁー?!」
父の泣き言は、リリィの想像を超えていた。
リリィは、自分の欲しがったドレスやアクセサリー、或いは化粧品や洗髪料は相当に高価な品であることを知らなかった。本来貧乏貴族のフィールズ家には不相応なもので、そうした贅沢品が、元々経済基盤の脆弱な子爵家には重い負担になっていたのだ。
それを諌めるべき両親は完璧に彼女の思うまま、好き勝手に浪費を続けて財政を悪化させてきた。殆どその自覚もなかったのだが、日々の生活の糧にも事欠くようになり、金を借りにいった相手に素っ気なくあしらわれてやっとのことで危機感を抱いた。
「何とかして」、と泣き騒ぐリリィにあおられた子爵が、か細い伝手を辿ってどうにか借金できそうな相手を見つけてきた、のだが。
「私どもは、この国で商売を進めたいのですよ」
その相手は、隣国の商会でこの国にはあまり馴染みのない者たちだった。しかし隣国ではなかなか手広く商いを営み、資金も豊かだという。子爵家を養うくらいさして荷でもないらしい。ただし、そのかたは取る辺り、如何にも商売人らしくはある。
「お金をお貸しする代わり、うちの紹介する使用人を雇ってください。もちろん賃金はこちらが持ちます。……それと、もし良ければそちらのお嬢様にうちの息子を婿入りさせていただけませんか」
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