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パッチワーク2
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アンリエッタの実家は貴族の中でも富裕な家だ。金の動かし方生かし方を心得た当主が多かった、とも言える。特にここのところ……アンリエッタの曾祖父・祖父・父といずれも吝嗇では無く必要なところにきちんと投資できる人物が続けて実権を握ってきた。
そのおかげで、今は王国内でも有数の資産家と言われている。もちろん良いことばかりでもない。
「お金があるからって、リックを縛りつけるなんて酷いわ!」
高い声を張り上げている少女は、アンリエッタも知っている。見目と家柄の良い男子学生にばかりまとわりつくと評判の、リリィ・フィールズ子爵令嬢だ。
見た目は可愛らしい少女だ、栗毛のふわふわした髪とぱっちりした明るい青の瞳。ふっくらした頬は薔薇色に色づき、華奢で小柄な体は庇護欲をそそる、らしい。
もっともアンリエッタや、彼女と親しい他の貴族令嬢から見ると、大声を出す上に異性にべたべた触る慎みのない子で、単純に礼儀がなっていない。彼女たちや教師が指導しても聞く耳を持たず、果ては「いじめられた」などと虚言を吐く始末だ。
指導や注意を、全て自分が嫉妬されていると認識しているらしい。ほとんどの場合は、彼女の振る舞いに対する苦言や呆れだ。悪意ある排除がない訳ではないが、それも概ね本人の自業自得だと見られている。
言い寄られる男子学生も、基本的には関わりを厭って近づかないが、稀に普通の令嬢とは違うリリィに興味本位でか接近を許している者もいる。
そしてアンリエッタにとって面倒なことに、彼女の婚約者もその悪趣味な一人なのだ。
「リック、というのはフェーム侯爵令息のことかしら?」
「そうよ!お金に明かせてリックと婚約なんて、酷い!」
「……私に言われても困りますわ。それなら、あちらのお父様に相談していただかなくては」
アンリエッタとフェーム侯爵令息リカルドの婚約は、貴族にありがちな政略結婚だ。互いに本人の意思はあまり問題にされない、家同士のつながりのための婚約。
しかし二人はそれなりに上手くやってきた。熱烈な恋愛関係ではないが、他の政略結婚の婚約者にも良くある程度。互いの誕生日に贈り物をし、お茶会で同席し、夜会でダンスのパートナーをつとめる。熱情はなくても好意はあるし、付き合いの長い分情も沸く。
リカルドは華やかな見た目と気さくな振る舞いで女の子にもモテるし、なかなかセンスが良い。アンリエッタにとっては、ドレスを仕立てる際に気の利いた助言をしてくれるのが一番役立つ男だ。
他はともかく、ファッションセンスだけは信用している。彼が監修したデザインは人気が出るし、アンリエッタの領地で産する布地もそれより合わせて需要も高まる。少なくともそのセンスだけは捨て難い。
だがどこでどう誤解したのか、リリィはアンリエッタが金にものを言わせてリカルドを束縛していると思ったらしい。先日から何度となく、同じように絡まれている。
当のリカルドは、この状況を知っているのかどうかはっきりしない。何しろ彼は今、領地の祖父が危篤で帰省しているのだ。リリィがその時機を見計らって騒ぎを起こしているのなら、思っていたより策士かもしれない。
そのおかげで、今は王国内でも有数の資産家と言われている。もちろん良いことばかりでもない。
「お金があるからって、リックを縛りつけるなんて酷いわ!」
高い声を張り上げている少女は、アンリエッタも知っている。見目と家柄の良い男子学生にばかりまとわりつくと評判の、リリィ・フィールズ子爵令嬢だ。
見た目は可愛らしい少女だ、栗毛のふわふわした髪とぱっちりした明るい青の瞳。ふっくらした頬は薔薇色に色づき、華奢で小柄な体は庇護欲をそそる、らしい。
もっともアンリエッタや、彼女と親しい他の貴族令嬢から見ると、大声を出す上に異性にべたべた触る慎みのない子で、単純に礼儀がなっていない。彼女たちや教師が指導しても聞く耳を持たず、果ては「いじめられた」などと虚言を吐く始末だ。
指導や注意を、全て自分が嫉妬されていると認識しているらしい。ほとんどの場合は、彼女の振る舞いに対する苦言や呆れだ。悪意ある排除がない訳ではないが、それも概ね本人の自業自得だと見られている。
言い寄られる男子学生も、基本的には関わりを厭って近づかないが、稀に普通の令嬢とは違うリリィに興味本位でか接近を許している者もいる。
そしてアンリエッタにとって面倒なことに、彼女の婚約者もその悪趣味な一人なのだ。
「リック、というのはフェーム侯爵令息のことかしら?」
「そうよ!お金に明かせてリックと婚約なんて、酷い!」
「……私に言われても困りますわ。それなら、あちらのお父様に相談していただかなくては」
アンリエッタとフェーム侯爵令息リカルドの婚約は、貴族にありがちな政略結婚だ。互いに本人の意思はあまり問題にされない、家同士のつながりのための婚約。
しかし二人はそれなりに上手くやってきた。熱烈な恋愛関係ではないが、他の政略結婚の婚約者にも良くある程度。互いの誕生日に贈り物をし、お茶会で同席し、夜会でダンスのパートナーをつとめる。熱情はなくても好意はあるし、付き合いの長い分情も沸く。
リカルドは華やかな見た目と気さくな振る舞いで女の子にもモテるし、なかなかセンスが良い。アンリエッタにとっては、ドレスを仕立てる際に気の利いた助言をしてくれるのが一番役立つ男だ。
他はともかく、ファッションセンスだけは信用している。彼が監修したデザインは人気が出るし、アンリエッタの領地で産する布地もそれより合わせて需要も高まる。少なくともそのセンスだけは捨て難い。
だがどこでどう誤解したのか、リリィはアンリエッタが金にものを言わせてリカルドを束縛していると思ったらしい。先日から何度となく、同じように絡まれている。
当のリカルドは、この状況を知っているのかどうかはっきりしない。何しろ彼は今、領地の祖父が危篤で帰省しているのだ。リリィがその時機を見計らって騒ぎを起こしているのなら、思っていたより策士かもしれない。
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