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フェルティングニードル・1

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羊毛の塊を針で刺して形を作る、フェルティングニードル。
根気の要る作業だけに、熱中すると根を詰めてしまいがちだ。少しずつ形が出来ていくというのも、なかなか達成感があっていい。ただしもちろん時間は掛かる。
「あの気位の高いお嬢様が、最後までできるもんかねえ」
「それは知りませんよ。ただああいう人は意外と無趣味ですよね。何か集中できる手仕事があると案外落ち着いたりしますから」
フードを脱いだ店主は意外に若い。先ほどの令嬢とさほど変わらないような、十代半ばか更に下くらいだ。まだ成長期に入ったばかりの子どもなのに、物言いや振る舞いは大人顔負けだ。本人もそれは気をつけている。
客の方は、同業者というか彼女の師匠的立ち位置だ。こちらは年相応、少なくともそう見える程度の老婆である。
老婆は魔法街に店を構えてはいるが、すぐ近くの森の奥に本来の住処があって、普段はこちらであやしい薬を煮詰めたり古い呪文が記された古文書をいじくり回したりしている、魔法街の顔役だ。
そもそも二人の出会いは、店主の少女が森に逃げ込んで魔女に拾われたことに始まる。

店主の名はヴィオラ、今年で15歳。生家は貴族としては貧しい部類の子爵家で家族は両親と双子の妹。
リリィという妹は、たいそう美しいが少し変わった子どもだった。幼い頃から日に当たることを嫌がり、髪の手入れに時間をかけ、高価な化粧品や洗髪剤を欲しがる。
貴族の端くれとは言え裕福でもない子爵家には相当な負担だったはずだが、両親は美しい妹娘を溺愛しており、彼女の願いをかなえるのに夢中だった。
淡い金髪と常にうるうるした水色の瞳、如何にも可憐で儚げなリリィは確かに誰からも愛される見た目だ。本人もそれに相応しい振る舞いを心得ている。
顔立ち自体はヴィオラも似ていたが、焦茶の髪とヘーゼルの瞳で印象はずいぶん違う。それにその当時はまだしも、既に分かたれた道故に、二人の人生は大きく隔たっていた。
ヴィオラも生まれてすぐからリリィの影に霞んでいた訳ではない。同じ日に一緒に母の胎から生まれ、乳を分け合って育っていた。

二人の人生が大きく動いたのは、4歳の頃。その頃はリリィも、むしろヴィオラより活発で外で遊ぶことが好きな普通の子どもだった。
だがその年。国内で危険な熱病が流行った。特に幼い子ども、3歳から5歳の子どもに爆発的に流行したその病は、その年頃の子どもがはっきり減るほどの被害をもたらした。
そしてヴィオラとリリィの姉妹もその病にかかった。この病は、高い熱が出る。特に幼い子どもは抵抗力もなく、体力を失って死に至ることが多かった。ヴィオラとリリィも寝込み……そしてヴィオラは高熱に魘されながら不思議な夢を見た。

    
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