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魔法使いの店

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王国で一番栄えて賑やかな町は、もちろんその国の中心、王宮のある首都だ。中央には壮麗な宮殿があり貴族達の邸宅がそれを取り巻き、にぎやかな商業地帯が広がり、裕福な町人の家がたち並ぶ。
そこから少しずつ市民達の居住地帯に移っていくが、それとは別の方向に。森へ向かう方角には、魔法街と呼ばれる区画があった。
魔法の道具や魔法書、或いはまじないや護符アミュレットなど、魔法に関わるものを商う地区だ。ちょっとばかり薄暗く、不気味な雰囲気を与える店構えが多い。
その更に一隅にごく小さな店がある。ほんの一間の店は、ぱっと見若い娘の好きそうな恋占いだの真実の愛のお守りだのといった、可愛らしい品が並べられ、他の店ほどおどろおどろしくはない。色彩もピンクやオレンジの、如何にも可愛らしいものだ。
ただ、それは表向き。店の奥には、ちょっとばかり薄暗い対面スペースがある。顧客と話し合うためのそこでの会話は外には漏れない。秘密の相談や懺悔のためのそんな場所は、魔法街の店ならありふれたものだ。

「貴女は、自分の気持ちを隠しがちですね。それでは、他の方もなかなか理解はできませんよ」
「それは、そうだけど……」
そのスペースで、二人の女が向かい合っている。一人は控えめではあるが上質なドレスの、おそらくお忍びらしいどこかのご令嬢だ。店内をうろついて商品を物色している若い娘は彼女の侍女だろう。
令嬢と話しているのは、声音だけでかろうじて女性とわかる。頭からすっぽりフードをかぶり、容姿も体型も全くわからない。声の張りから、そこまで老いてはいないと判断できる程度だ。
「貴女には、怒りがある。わかってくれない婚約者に、貴女の婚約者と知っていてすり寄る女性に、そしてそれを許してしまっている自分に」
淡々と告げられて令嬢は息を呑んだ。反論しようとしかけてぐっとそれを呑み込む。
この店主、いわば魔女はしかし決して彼女の敵ではない。少なくとも報酬は払う間は、相談にのって何らかの手立てを考えてくれるし、護符も霊験あらたかと評判だ。
「これを、お渡ししましょう」
魔女が差し出したのは小箱だった。令嬢の嗜みとして持っている針箱の半分ほどの、質素な紙箱である。仕草で示され、開けてみたものの中身もよくわからない。
「なあに、これ?」
入っていたのは、もこもこした綿のような塊と厚手のマット、そして長い針が幾本か。その針用らしい持ち手も一つ入っている。
「これで、貴女の人には言えない感情を込めてご覧なさい。……針で、毛の塊を刺すのです。言いたくて言えなかったこと、言うべきこと、そして自分の心を整理するために。……ただ指を刺さないように気をつけてくださいね」
「針で、って……刺したらどうなるの?」
「何度も刺していると毛が固まってきますので、できたら平べったく……硬貨みたいな形にしてみてください。もちろんならなくても構いません、それが目的ではないんですからね」
「え、えぇ……」
「あまり他の方の目に付かない方がいいでしょう。毎晩寝る前に少しだけでいいので、続けてご覧なさい」
「……わかったわ」

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