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第三幕

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さて、もう一つの可能性は、彼女は確かに乳母だが私もしくは私の母に対して良い感情を持っていない、あるいはあの態度からして憎んでいるといってもいいかもしれないな。
その代わりと言ってもなんだが、父をとても好いているような雰囲気もある。
そして丁度、私とこの乳母以外の屋敷のものが全ていないか、とても少ないからこそ、日ごろの鬱憤を晴らすためにここにやってきた、という可能性。
屋敷のものがいない理由としては、何かしら大きな行事だと仕事も多くなるので人手が必要になり、必然的に動かせない赤子は置いていくしかないということになる。
我ながら、無理やり感が半端ないな。
まあ、頭をひねって考えていても、今のところは答えにはたどり着けないだろう。
今は考えることによって忘れ去られていた、この羞恥心と戦うことが重要だろう。

なんやかんやと、私の考えはほぼ当たっていた。
結局あのとき乳母(のような)は何もせずに部屋から出ていき、勿論いなくなってしまえば泣く意味もないので、私も泣くことをやめた。日付が変わった頃だと感じたとき、若い侍女服っぽい装いの女性がやってきて、私の身支度を整えにきた。
その時私はなんとなく狸寝入りをしていた。
そしてその侍女(仮)はこう言った。
寝ていることを考慮した小声である。
「お嬢様をお一人にしてしまい申し訳ございません。新年会の支度に皆出ていたので」
物凄く丁寧に謝ってくれた。
聞こえていない設定ではあるが。
何度も言うように、今現在の私の年齢は1歳児にもならない。
だが、私の出自からすれば、まだ言葉も分からぬ赤子であろうと、丁寧に接するのは当然とも思える。
あの、乳母のような態度のほうがやはりおかしいのだろう。
そして、私の予想がほぼ当たっていたことが判明した。
夜が明けると、薄めの銀髪に誰もがひれ伏してしまいそうな風格のある、神様の最高傑作かと思えるほどの美形が現れた。

私は、状況も忘れてぽかんとあほみたいに口を開けたままになった。
赤子の姿ではあほっぽくはならなかったようだが。
「ああ!愛しい俺の娘メリア会いたかった」
威厳のある姿であったのは数秒だけだった。
崩れた顔は言葉で言い表せない。
美形こと言葉の意味からして、私の父なのであろう、男は突進するように、いやあれはようなではなく突進しているとしか見えないほどの勢いだ。
この状況はあれだ、生後一年未満で死を覚悟するというのは、哀れと評価できてしまうのではなかろうか。
実際には父は寸前でその勢いを止め、私の寝台に寄って私に頬擦りをした。
髭があってじょりじょり痛いということはなかった。
この見た目でじょりじょり痛いはあったらあったで驚くが。
とりあえず、今目の前にいるこの、この世のものとは思えぬ美形の男が私の父親ということになるわけで。
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