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3、まるで嵐のような
しおりを挟む「ひぃ! じ、自分で洗います!!」
「大丈夫ですよ、お任せ下さい。 ふふ、こんな玉のような艶やかな肌を洗えるなんて光栄です。是非任せてください」
「ひえぇぇ!」
広大な浴室に連れていかれ、女性たちにひん剥かれながら抵抗する。
どうして妙齢の女性ばかりなのか。
せめてある程度ベテランの年齢の方にお願いしたい。
男だと思われていないのか。いや、ついているものは取ってないし、そんなはずは無い。これがこの人たちの仕事というものなのか。
羞恥心が僕を襲うが、侍女達に取り押さえられ、抵抗虚しく様々なところを磨かれてしまった。
「はぁ……」
抵抗し続けながら風呂に入ったため、出てきて着替えた頃には、ぐったりしてしまった。
「あら? 疲れちゃったの?ニーア」
「ソフィー…なに、これ。何が起きてるの…?」
「何って、準備よ。ニーアを嫁がせる準備」
「ほ、本気で言ってる? 僕は庶民なんだけど…」
庶民が貴族に召し上げられるなど、どこの童話なのか。
僕はネッツェル公爵家一家が考えていることが上手く理解できず、ずっと戸惑っていた。
「本気よ? お母様も礼儀を教える先生を雇うと言っていたし、何着か服も作るわ」
「僕そんなにお金ないから…」
「なんでニーアが払うのよ。アーサーが払うならまだしも。良いのよ、私たちが勝手にやってるんだから」
「ソフィー…」
ソフィーにビシビシ言われ、僕は諦めの境地に向かい始めていた。
まぁもし、上手くいかなかったとしても、ソフィーが満足してくれるなら良いかと思うことにした。
「絶対幸せにしてあげる。親友ソフィーが、ニーアを必ず」
ソフィーは僕の両手をギュッと包んで、額を合わせて静かに言葉にした。
(その気持ちだけで充分嬉しい)
僕は親友の心遣いに心を打たれ、涙を流しそうになった。
「ニーア! 君は一体何者だ!」
突然、後ろの扉が開くと同時にランベルト閣下が叫んだ。
ランベルト閣下は息切れを起こしていた。走って応接室まで来たようだった。
「お、お父様? どうされました?」
ソフィーは父親の慌てた姿に狼狽しながら尋ねる。
ランベルト閣下の表情は青く血の気が引いていた。
「ニーア! 何か私たちに隠し事はないか!? いや、会ったばかりだがソフィーからそんな話など1度も聞いたことがない! どういうことだ?!」
「ら、ランベルト閣下…?」
両肩をランベルト閣下に掴まれ、ガクガクと揺さぶられる。
ランベルト閣下の先程の自信満々の笑顔はどこかに消えてしまっていた。
「貴方、ニーアさんの目が回ってしまいますわ」
ハイデマリー夫人がランベルト閣下を止めるため声をかける。ランベルト閣下の揺さぶりがようやく止まると、ソフィーはもう一度父親に尋ねる。
「お父様? ニーアは庶民の子です。何者と言う言い方は…?」
「ほ、本当に庶民…? いや、では何故……!」
「どうしたのですか?貴方」
「ランベルト閣下?」
3人で不思議そうにランベルト閣下を見つめる。
すると、ランベルト閣下が信じられない言葉を発した。
「い、今からトバイアス王国第1王子が……ここに来ると」
その場にいた全員が言葉を失う。
全員、ランベルト閣下の言った意味を考えているようだった。
「貴方、それは…私に用があるからなのかしら?」
「ハイデマリー、違う」
ハイデマリー夫人は王族の血を引いている。
「お父様、ではなんの為に……」
ソフィーがもう一度尋ねると、ようやくランベルト閣下は理由を話した。
「ニーア=ステッドマンに婚姻を申し込むためだと……仰っている」
□■□
ネッツェル公爵家の使用人たちが1番広い応接室を慌ただしく準備し始めた。
先触れが魔法で届き、もうすぐ到着するようだ。
この国、トバイアス王国の第1王子が到着する。
ランベルト閣下の間違いの可能性も否定できない。 しかし、先触れで来た魔法は間違いなく王族しか使えない金の鳩だったらしい。
王族の血を引く妻がいたとしても、さすがに庶民に王子が会うとなればランベルト閣下もどうしていいか分からなくなって慌ててしまったようだった。
「ニーア、王子に会ったことあるの?」
「そ、そんな訳ないよ。そもそも僕は何度も言うように庶民だし…!」
「じゃあどうしてニーアに会いに来るのよ!わざわざ!」
「わかんないよー!」
僕はもう今日1日で脳のキャパシティがパンクしそうになって頭を抱えた。
(婚約破棄されて? ソフィーの実家に連れてこられて? 女の人達にひん剥かれて洗われて?その上庶民の僕に王子が婚姻を申し込む?)
頭がおかしくなったとしか思えない。
夢だ。きっとこれは夢だ。
現実逃避しかけながら、ソフィーにズルズルと玄関まで引きずられる。
「とにかく、しっかりしなさいニーア。どうするにしたって、ちゃんと話を聞きましょう!」
「そ、ソフィー…どうするって、僕に拒否権ってあるの……?」
「ある訳ないじゃない!」
ソフィーに現実を突きつけられて、僕は顔を真っ青にするしかなかった。
(父上、母上…親不孝で申し訳ありません)
僕は何故か死地に向かう戦士のような気分になってしまった。
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