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番外編
僕の優しい婚約者 ②
しおりを挟む涙を流して目が少し腫れたけど、祈里さんが冷やしてくれたおかげで何とか人前に出れた。その後、何とかお披露目の場は時間遅れで始まり、時間以外は失敗することなく終了することが出来た。
ホッと息を吐いて安心した。
「紬。こちらへ」
自室に戻って着替えようとしたのだがお母様に声を掛けられた。自分で気づかなかった失敗があったのかも、と少し怯えながらもお披露目の場から離れた部屋で二人で向かい合って正座をする。
「改めて、霜永家次代当主のお披露目、お疲れ様でした。とても立派でしたよ」
「あ…ありがとうございます」
「少し可愛すぎましたがね。それも紬らしくてとても良かったと思います」
可愛い?とは。お母様は微笑んでいたので怒っているわけではないようだった。
「早速、霜永家次代当主としてのお役目があります」
来た……!
ゴクリと唾を飲み込む。胃の痛みは辛うじて感じない。さっき祈里さんの前でたくさん泣いたからだろうか。二人のおかげで少し身体が軽くなった気がした。
「ああ、そんなに気を張らないでください。そういうのではありません。リラックスして考えて欲しいのです」
「リラックス、ですか?」
僕がこて、と首を傾げるとお母様は頷き、「そうです、リラックスです」と肯定した。ニコニコとしていて機嫌良さげにどこかルンルンである。
「霜永当主一番の大仕事と言っても過言ではありません。人生の大部分を占めるのですから」
「そ、そんな」
そんな大事なことをリラックスして考える…?どういうことなのか分からなくてますます首を傾げた。
お母様はコホン、と一度咳を払う。リラックスの様子はなくて、僕は益々身体を固くし、膝に置いた拳をギュッと握った。
そして、お母様はすぅ、と息を吸って突然立ち上がった。
「貴方に、たーくさん、お見合いの話が来ています!釣書の数を数えたら歴代最多数です! これぞまさしく霜永家のΩ! 祈里の時も多かったですが、ここまでの量ではありませんでした!! 紬、貴方はとっっっても素晴らしい!!」
お母様の常にないテンションに僕はポカンとした。お母様はどこから取り出したのか、僕の目の前にドサドサーッと音がするほどの釣書を落とし始めた。
何冊、いや、何十冊あるのだろうか。僕は目の前がクルクルして別の意味で胃が痛くなりそうだった。
釣書の何冊かを取り、お母様はくふくふと笑っている。ちょっと怖い。
「はー…やはり紬にお願いして良かったです。私と旦那様の目に狂いはありませんでした! 素晴らしい、素晴らしいです紬!」
ギューッと抱き締められ、ちょっと息が出来ない。でも何だかお母様が嬉しそうで僕もホッとしながら嬉しく思った。
「さささ! 私も旦那様も、祈里も慧さんも一緒に紬の最高の婚約者を探しますからね! 紬の魅力でαを誑し込みましょうね!!」
「は、はいぃ……」
僕は頭がクラクラしていたが、いつも厳格と言っていいほど規律や礼儀に厳しい霜永家当主は、釣書の数でおかしくなったのか悪い言葉を使っていることだけは理解したのだった。
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