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8、帰ってきました

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ぱち、と音がするくらいに勢いよく目を覚ました。見渡せばあまり馴染みのない景色に驚き、離れだと気づく。
そして早送りのように一気に流れ込む映像が脳裏に映し出された。


『起きた?まだ発情してるだろう?』
『慧さ、んっ、あっあん!あ!もっと、もっとぉ……!』
『ああ、たくさん気持ちよくしてあげるよ』

『慧さん!お願い、もっと、慧さんの、ちょぉだい……!』
『はは。エッロ。初めては私のを挿れたいから指で我慢して?大丈夫。祈里は良い子だから、指で上手にイけるな?』

『あー、可愛い。イキすぎて腰がガクガクしてるし、もう水みたいな精液しか出ないな。そろそろ打ち止めかな。空イキしそう』
『……っ、…っ! はっ、ぁ、……っ!!』
『あ、イったね。もう出ないね。はは、すんごいだらしない顔。かわい』


「っ!~~~~っ!!ごほ、ごほっ!」

思い出したここ何日かの出来事に叫ぼうとしたが喉が掠れて上手く叫べなかった。痛みで咳をすると、自分が寝ていた枕の隣にメモが置いてあることに気がついた。
そこには『祈里へ』と記載があった。

「『発情はだいぶ収まったようだから一旦帰ります。起きるまで居てやれなくてごめん』……っ、はぁああぁあ……」

どんな顔して合えばいいのか分からない。大きくため息をついてそう思った。

乱れに乱れきった記憶は曖昧にだがある。全然無いと思っていた性欲が爆発してずっと彼に強請った覚えもある。とにかく、はしたない。はしたない己の痴態をこれでもかとさらけ出した。

「ううううううぅう゛……」

枕に顔を埋めて唸る。恥ずかしさで穴を掘って埋まりたい。
彼は口では意地悪な所もあったが、手つきは優しさそのものであった。全身を撫ぜる手や僕の雄を擦る時も中をかき混ぜる指も全てが愛しいものを触る様だった。
あんなのずるい。あんな心地よい触れ方、忘れられるはずがない。

「はぁ……今日、一体何日目なんだろ。学校……」

のそのそと起き上がり、寝乱れた布団を整理して夜着を整えて本家にある自分の部屋にヨタヨタと向かった。



「行ってきます」

翌日、僕は発情期もきっちり終わって学校に向かった。結局四日も休んでしまったらしい。つまり、発情期で慧さんと三日間過ごしたわけだ。

あんなだらしない格好で彼にたくさん強請った。自分があんなに我儘だとは思いもしなかった。
欲のままに彼を欲した。今までの欲の無さは一体なんだったのだろうかと思うほどに。

恥ずかしくてブンブンと首を振って赤む自分の頬を押さえながら玄関を出て、庭を横切り家の門をくぐり抜けた。

「祈里!」
「……姉様……?!」

門の横には伊織が立っていた。相変わらず美しくて華奢なかわいい女の子だと思った。しかしその顔は明らかに疲労を宿し、艶のない肌と髪はいつもの美しさ半減させていた。

「どうして…いや、どこに行ってたの?!」
「そんなのどうでも良いじゃない!祈里に会いに来たのよ!」
「僕に? それより、なんでそんなに窶れてるの?」
「聞いてよ!私騙されたの!アイツ、『二人で一緒に暮らしていくなら、君も働いて欲しい』って言ってきたのよ?! そんなのおかしいじゃない!」

一気に捲し立てる伊織にやや引きながらも話を聞き続けた。門の前でする話じゃないと思い、仕方なく伊織を門の内側に引き入れる。

「働くとか、全然意味分かんない! そもそも私、あんな貧乏な暮らしするつもりなんてなかったのに!」
「何言って…そんなの予想出来たじゃないか。あの使用人が霜永家の使用人を辞めたらお給料だって無くなるし、大変なのは目に見えて分かるよ」
「だから!騙されたのよ!」

髪を振り乱しながら叫ぶ姉を落ち着かせようと背中を摩る。

「とにかく…母様と父様はカンカンに怒ってるんだ。戻ってくるならちゃんと誠心誠意謝って……」
「謝る?!なんでよ!騙されたって言ってるじゃない!なんで分かんないのよこのグズ!」

ヒートアップしている伊織を宥めるのは困難だった。こんなに騒いでいたら伊織が戻って来たことはすぐに伝わるだろう。それに、さっき近くにいた庭師が中に向かっていったのが見えた。母と父に知らせに行ったのだ。

「落ち着いて姉様。母様と父様とは僕が話してくるから、姉様は僕の部屋に……」
「何故その人間を霜永家の敷地に入れてるのですか」

低く、冷たい声が聞こえてきた。母の声だとすぐに気づいた。マズイ、とは思ったが伊織はそんな僕の思いに気づくことなく母に縋り着いた。

「お母様!私騙されたの!あの男が『こんな家に一生居ては不幸になる、飼い殺しだ』なんて言うから一緒に飛び出したの!なのにあの男、我儘だの働けだの、全然幸せになんか…っっ!」

パンッと言う乾いた音が庭に響き渡る。伊織は何が起こったのか一瞬分からなかった様だが、頬の赤みが痛みを表現していて頬を押さえた伊織もすぐに理解した。

「な……にするのよ!お母様!痛いじゃない!」
「痛くしたのだから当然です!今更帰ってきて何を言っているのですか!どれだけの人間が迷惑したと思っているのですか!お前の行動一つで本来ならば霜永家の大多数の人間が路頭に迷うところだったのですよ!!」
「は…」
「祈里がお前の代わりに皇家に嫁いでくれると言ってくれなかったら……!霜永家は終わっていたでしょう!どうして逃げたりしたのですか!お前が少しでも不自由ないようにと旦那様がどれだけ皇家に頭を下げて契約したと思っているのですか!」
「な、なに」
「逃げたりせず!不満だったなら不満と言えば良かったではないですか! お前が『皇家くらい経済界にも政界にも名高い家じゃないと嫁ぎたくない』というから……!」

母が一気にまくし立て、はぁはぁと息を切らして伊織を見下ろしていた。

「お前にはほとほと愛想が尽きました……!二度と顔を見せないでください!」

気丈な母が泣いている姿を見たのはこれが二回目だった。伊織は母を見上げ、呆然としているだけだった。
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