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second day *中編

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  ベッドに戻ればあとはなし崩しだ。


「ん……ん、、ん…ぅん」


  くちゅくちゅと音が耳に反響するようだった。彼の口付けが気持ちよくて舌を絡ませあってしまうし、彼から流れる唾液は、こくこくと飲み込んで、彼の一部として取り込んでしまう。
  彼は辛くない体勢を自分に取らせつつ、抱き込みながらキスをする。自分も彼に包まれていると途端に身体の力が抜けて抵抗できなくなる。何度も何度もキスをするが、彼は決して自分にこれ以上を求めたりしなかった。


「アルト…」


  瞳が少しギラつくと、彼はこの呼び方をしてくる。いつもの君付けは、多分素じゃないのだと気づき始めた。

  彼のことは半年経ってもよく知らない。もちろん侯爵家当主という身分とレイチェルの父親であり、奥方とは離婚したという基本的なことは知っている。あとお酒を集めるのが趣味だということも。しかしそれ以上の事は噂程度しか知らない。彼と会うのは決まってレイチェルが一緒であるし、レイチェルに隠れて会う時なんか話なんか出来やしない。会う度に教えられるのは、キスの気持ちよさと彼の香水の香りばかりだ。


「んぅ、っぷぁ……」

「苦しかった?」


  角度を変え、何度も何度もキスをされる度に下腹部がズンと重くなっていく。シャワーの際に挿入してくれなかったせいもあって、彼を望まんとあらぬ所がヒクヒクしているのが分かる。彼の着ているバスローブの裾を掴んで息継ぎをした。


「ら、ぃじょうぶ、です……」

「……そう。じゃあもう一回」

「んむっ、ふ……ぁ、んんっ、ん、ん……」


  ニコ、と笑ったかと思えば直ぐに彼はキスを再開した。ちゅくちゅくと口内を弄ばれ、酸欠になりかけている頭は深く考えるのを放棄してしまう。


「旦那様」


  コンコン、とノックの音の後に執事の声が聞こえた。彼は直ぐにキスを中断し、いやらしい唾液の糸をそのままに「なんだ」と不機嫌そうに答えた。自分はようやく口付けを離して貰えたので息切れを直そうと、はぁはぁと呼吸をする。
  そんな自分の前髪をサラ、と上げると、彼は額にキスを落とした。


「申し訳ありません。レイチェル様がやはり帰宅する、と」


  彼は顔を歪ませて思い切り舌打ちをした。穏やかな彼の苛立つ姿など初めて見たのでビク、と肩を震わせた。


「……理由は」

「友人と喧嘩した、と」


  扉の向こうへ聞こえるんじゃないかと思うほど、彼は大きなため息をついた。そして、「くだらない…」と心底嫌そうに吐き捨てる。


「あ、ああの……レイチェルが帰ってくるなら、僕……」

「……ジル。私は客人を持て成しているから絶対に部屋に近づくなと伝えておけ」

「畏まりました」


  執事が了承すると同時に、彼はまた自分に微笑んだ。先程の舌打ちや嫌悪を顕にした顔は見受けられない。

  レイチェルが帰宅する。すなわち自分はここに居てはならない。本来なら体調不良で自宅に帰っているはずなのだ。


「お義、父さん…、僕着替えて帰り」

「どうして?ここにレイチェルは来ない」

「で、でも」


  そもそもレイチェルが来なくたってこんなのおかしい。レイチェルは彼女で、彼はレイチェルの父親だ。こんな不貞、あってはならない。
  けれど彼はまた昨日と同じように顔の横で手を縫い付けるように恋人繋ぎをしてくる。更に自分の足の間に彼は入り込み、完全に立てなくなってしまう。この胸のドキドキはレイチェルへの罪悪感から来るのか、もしくは彼に対する気持ちなのか。

  彼はゆっくりと耳に顔を近づけ、そっと囁く。


「……それに、シャワーの続きがまだだよ」


  優しいのにどこか妖艶な瞳を見ながら、期待にゾクゾクと肌が粟立つのを感じていた。




「…っ、~~っっ!……ん、っ!」

「またイったね。ああ、こら。そんなに枕に顔を埋めたら息ができないだろう?」


  グチュッ、グチュッと彼が背後から自分を穿いている。優しい彼にそぐわない凶器のような剛直が自分の中を行き来する度に、必死に悲鳴のような喘ぎを我慢していた。

  自分は結局、彼の優しい誘惑に勝てなかった。昨日彼と自分の体液でシーツがぐちゃぐちゃになるほど交わったのに、彼も自分も際限なく求めるように昂った身体に身を寄せ合う。
  レイチェルは帰ってきているだろうか。友人というのはどこの友人だったのだろうか。自分は『行ってからのお楽しみよ』という言葉にそれ以上の追求はしなかったからよく知らない。もう帰っているとしたら、こんな自分を見られたら彼女はきっと失望する。汚いものを見るような目で蔑んでくる。それが余計に自分を興奮させる一材料になっていることに気づいた時、自分は彼の恋人繋ぎをしてくる手をほんの少し握り返していた。


「っはぁ……こら。可愛い鼻が潰れてしまうよ」

「っっ、や、…っふ、んんっ」

「レイチェルが帰ってきてるかもしれないせいかな…、昨日より締め付けが凄くて私もすぐイってしまいそうだよ」


  ツツ……と背骨に沿って指をなぞられ、ゾワゾワと感じてしまう。「ぁっ……!」とつい声を上げてしまうと、彼は後ろでくく、と笑った気がした。自分の中に埋まっている彼の剛直を、肉壁がキュンキュンと締め付けてしまうのが分かる。


「顔が見たいな。仰向けにしていいかい?」


  ブンブンと顔を枕に押し付けながら首を横に振る。腰だけ突き上げた情けない格好でそれはそれで恥ずかしいが、きっと自分はだらしない顔をしているし、とにかく声を抑えたかった。ちら、と彼の方を振り返ると、困ったような、悩んでいるような顔をしている。
  ズルズルと抜けそうになるほど剛直を引きずり出され、思わず声が出そうになるのを必死に堪えた。


「えいっ」

「っっっ?! あ!っ!」


  そしてそのまま貫かれると思い、衝撃に耐えようとしたが、彼は軽々と自分の体を反転させてきた。抱えていた枕を奪い取られ、彼と向き合う形にさせられた。中に挿入ったままぐるりと変えられたせいで変な声を上げてしまう。


「後ろからするのもいいんだけど、可愛い顔が見たい……」

「だ、だめ。ダメです、むり、むりぃ……声、出ちゃ……っ、ふ、っん!んん!~~~っっ!」


  自分の目から涙がポロポロと零れる。羞恥と期待と快感が一気に押し寄せ、どうにもならない感情が襲う。足を思い切り開かれ、彼は膝を抱え、一気に腰を打ち付けてきた。
  パンっパンっという乾いた腰が尻を叩く音とグッチョ、グッチョと彼の長大でグロテスクな一物が自分を苛む音が部屋の中を支配した。時折、我慢しきれなかった自分の「ぅ、ぐ、ふ……っ!! っっ!」といった呻き声が小さく響く。

  気持ちよくて仕方なかった。彼の与えてくる全てが気持ちよくて堪らない。彼の中性的で優しい香水の香りも、流れる汗の匂いも、優しげなのにケダモノのような瞳も、腰を掴む大きな手も、自分を穿つ恐ろしい剛直も、その全てに興奮した。


「アルト…っ」

「っ! ん、んんっ!ふっ、ぅん……!」


  名を呼ばれ、面白いまでに反応してしまう。中が彼を逃さんとばかりに収縮してしまう。グリグリと腰を押し付けられ、中の前立腺もゴリゴリと擦られた。極まってしまいそうになるギリギリが苦しくて彼の背に爪を立てた。


「お父様」


  ビクゥッ、と思い切り体が跳ねた。そして直ぐに全身の血の気が引いていくのを感じる。
  落ち着け。服は今この部屋には無いし、靴も行為が始まる前に彼が隠してくれている。


「……なんだ。レイチェル、近づくなと言ってあっただろう」

「すみません。どうしても伝えたいことがございまして」


  彼はしばらく逡巡した後にため息をついた。自分の中にあった剛直をゆっくりと引き抜く。ちゅ、と額にキスを落とし、上掛けを掛けて自分の姿を隠してくれた。
  彼はバスローブを着て扉の前に向かっていき、僅かに開いて対応しているようだった。


「なんだ」

「アルトが家に戻ってないらしいんですの。連絡したら、アルトの家の者がそうおっしゃって……」

「ああ。彼なら体調が悪いようだから一泊させていた。だから行き違いだろう」

「まぁ、そんなに体調が悪かったのですね……悪いことをしてしまいましたわ。お見舞いに行った方が良いかしら」

「元気になったら彼から連絡するように伝えてあるからそっとしておいてやれ。ただでさえレイチェルは友人のところに遊びに行ってたんだ。何してたんだと追求されたら面倒だ」


  レイチェルは確かに、と考え込むような声を落とし、はぁ。とため息をしているようだった。


「もういいか」

「え、ええ。申し訳ありません…ジルに近づかないようにキツく言われていましたのに。気が動転してしまいましたわ」

「大切な恋人の為だ。仕方あるまい。次からは気をつけなさい」

「はい……失礼しました、あ、お父様」


  レイチェルは思い出したかのように父親へ声を掛けた。彼はまた「なんだ」とレイチェルに尋ねた。姿は見えないが、彼も彼女も見目麗しい親子だし、絵画のような一面なんだろうな、と現実逃避したくなる。


「お客人とはどなたですの? 折角ですし、ご挨拶と謝罪を」


  ビク、と肩を震わし、ザーッと血の気が引いていく。一人でベッドに篭っているせいか心臓の早鐘の音がうるさいほど響く。
  どうして早く帰らなかったのか。レイチェルが帰ると連絡が来た時点で帰っていれば、たとえ一泊していたとしても何ら不審がられる行動ではなかったはず。自分の判断に後悔しか出てこない。レイチェルがこの部屋に入ればさすがに分かってしまう。彼と自分が何をどう過ごしていたか、なんて。


「必要ない。部屋に戻りなさい」

「ですが」

「大切で繊細な客人だ。突然会って君に手土産無しで来てしまったことをとても気にする。レイチェル、客人に恥をかかせたくなければ部屋に戻りなさい」


  父親にこうまで言われればレイチェルもさすがに引くしかないらしい。「……はい。失礼しました」と言って扉が閉じる音がした。
  ホッと息を吐いた。そろり、と上掛けから顔を出すと彼はまだ扉付近に居て、誰かを待っているようだった。すると直ぐに扉からノックがして、「旦那様」と声がかかる。


「ジル。レイチェルにちゃんと言っておけ」

「大変失礼致しました…、メイドにもキツく言っておきます」


  扉がもう一度閉まると、「娘にも困ったものだ……」と独り言のように呟きながら彼はベッドに戻ってきた。少しだけ出していた顔を見ると、ふわりと微笑み、先程までの冷たい雰囲気は消えていた。けれど何にも安心できなくて、カタカタと震え、上掛けを握る手は白くなるほど強く掴んでいた。


「あ、あああ……ぼ、僕、本当に、もう、帰り、ます……っ」

「今帰れば、レイチェルとかち合うだろうね」

「そ、れは……」


  ニコリ、と微笑んでいるのに言っていることは冷たかった。しかしどうにかして帰らなくては、ここに居続けては今度こそ本当にバレかねない。けれど帰ることすら出来ない。前にも後ろにも行けない袋小路に入り込んでしまったようだ。





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アルト
  悪い事出来ないし隠し事も苦手

レイチェル
  悪い事はしないけど隠し事は得意


  悪い事も隠し事も大得意
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