【完結】泥中の蓮

七咲陸

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最終章

月下美人【艶やかな美人】※

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少し前の俺は、事件のせいで自分の気持ちが定まらなくて、離れた屋敷に数週間居た。

その間、グウェンは俺への気持ちを表す為に庭園を改造していた。アーチを薔薇で作ったり、魔法で月下美人を狂い咲きさせた。また、ここには咲かない蓮を違う国から探し出し、広大な池を作って蓮を育てていた。

俺はそれをテオ君から教えて貰って、屋敷を出る決意を2人のメイドに背中を押して貰って、見事な蓮の池を見つけてグウェンの元に帰ってきた。

そうして本邸に戻ってから数日が経った。


「ふぅ…」


アトリエで作業をしていた。していたのはいつもの刺繍ではない。糸や布の整理をしていただけだ。なんというか、最近は刺繍が出来なくなっていた。集中ができない。気を抜くと違うことを考えるようになってしまったのだ。

そろそろ夕食の時間で、2人のメイドのどちらかが呼びに来る。俺は集中しきれていない作業を終わらせようと思った。最後の布を仕舞うために抱えた時だ。

ドアがノックされる。俺は2人のメイドに呼ばれるのかと思って今行くよ、と返事をした。しかし、扉の向こうから現れた人物はメイドではなかった。

身体の全身がブワッと泡立つ。その人物を見ただけで全身が言うことをきかなくなって、動けなくなってしまう。

いつかのレイが言っていた。ルークだけがキラキラして、心がザワついて頭から離れなくなる感覚が襲ってくる、と。

俺は今まで、入り口に立つ人物を見て、そうはなっていなかった。初恋だし、最愛だし、婚約者で、夫であった。それでも、レイが言うことの1つも当てはまらなかった。

おそらく、当たり前だったからだ。夫に対して思う感情は、長年降り続いた雪のように積もり積もっていた。至極当然のこの感情は、もっと暖かくて優しいものだった。

けれど、今自分が感じているのは、全身から沸き立つような劣情だった。

この人物を見ていると、鼓動が早くなる。そして身体の中心から風邪をぶり返したように熱を持つ。そして顔はまるで沸騰直前の湯のように熱くなっていた。


「ノア、夕食だそうだ」


グウェンの声が耳をくすぐる。俺は返事をしようと思ったのに、震える唇はそれを上手くできなかった。

グウェンはゆっくり近づいていた。俺の所まで歩いてくる。俺は何とか動かない全身を必死に動かして片足を後ろに1歩だけ後退させた。


「……っ」


しかし、1歩後退させただけでは意味はなさない。グウェンはその何倍もの速度で近づいているのだから、逃げられないのは分かっていた。

グウェンは俺の眼前で止まった。俺は固まった石像のように布を抱えたまま止まっていた。グウェンはゆっくりと俺の左手を布から離させようと優しく触る。


「っ……!」


触られた手からまるで駆け巡る電流のように痺れていく。グウェンは少し震えるその手をグウェンの手と深く絡ませてきた。絡まった手から、グウェンの熱が伝染る。

ただそれだけなのに、全身が悦んでいる。手しか触られていないのに、腰が溶けるような感覚が蝕んでいく。


「ノア」
「ぁっ……」


名を呼ばれ、耳からも這いずるような快感が巡る。ついには足までもが快楽の虜になって力が入らなくなっていく。

グウェンは震える足に気づいたのか、絡んだ手とは逆の手で腰を支えてくれた。自分がビクリと身体を揺らし、咄嗟にグウェンの方を見上げた。


「んっ……!」


見上げたと同時に、グウェンに唇を奪われる。自分の口内に舌がぬるりと入り込み、縦横無尽にゆっくりと丁寧に掻き回される。

どこを掻き回されても痺れるような快感に襲われ、口内までもが性器になったかのようだった。グウェンに支えられていなければ、もうきっと立ってはいられない。手の力も抜け、布もパサリと音を立てて落ちていった。


「ん……っ、んん、ん……んっ」


グウェンは丁寧に歯列をなぞり、舌を絡ませたと思えば、上顎をなぞっていく。

上顎をなぞられると腹の奥底から、まるでありもしない子宮が締め付けられる感覚が襲いかかってきた。


「んっ、んっ、んんん!」


グウェンはそれを知ってか知らずか、上顎をなぞり続けた。ゾクゾクと全身が悦び、下腹部が我慢できないほどのキューっとした締めつけで、気がつけば腰はガクガクと震え、身体は静電気が当たっているかのようにビクついていた。


「あっ、ん……っ、ぁ……は、ぁ」
「……キスだけでイったのか」


自分は、まだ襲ってくる快楽の波に翻弄されていた。キスだけで達したことは言われるまで気づかなかった。


「グウェン……ぁ、あ!」


ポーっとグウェンを見ていると、すっかり立ち上がった自身の屹立をズボン越しに触られる。


「気づいてるか? 自分から俺に当ててきてるのに」


キスの最中も、今も、擦り付けるようにグウェンの腰に自分の浅ましい欲望の塊を押し付けていたことを指摘され、恥ずかしさで顔に熱を持つのが分かった。


「あ……」
「ノア、初めてした時のことを覚えてる?」


グウェンとまだ繋がる前のことだ。ソファーでふざけあっていた時に、お互いのモノを擦りあったことを思い出す。

こくん、と頷くとグウェンはズボンをずらし、俺の屹立を取り出した。


「夕食まで時間が無いから、散らすだけだ」
「んっ……」


グウェンの剛直も立ち上がりかけていて、俺の屹立にピタリと合わせる。あの時は利き腕を骨折していて、自由じゃなくて不自由で拙かった気がする。

俺は右手で2つのサイズ違いの陰茎を優しく握る。グウェンのモノが大きすぎて片手では包めない。グウェンは絡めた左手を離して、グウェンも右手で俺の手と一緒に陰茎を包む。グウェンの手は大きくて、暖かかった。


「んっ!あっ…あっ、んん、は」


お互いの陰茎を、お互いの手で包み一緒に擦り上げ始めた。先端からは涙が零れていて、擦り上げる度にじゅぷじゅぷといやらしい音が部屋に充満する。声は興奮しきりで我慢できない。


「ノア…」
「ん…っ!あ!あっ、あ!」


気持ちよくて身体がどうにかなってしまいそうだった。グウェンの陰茎を包む手から、剛直から、腰を支えてる手から電流が駆け巡り、頭が快感に支配される。


「あ! ダメ……っ、ん!あ、イクっ……!」
「……っ、は」


身体をビクビクと震わせながら俺が果てた後、グウェンは追いかけるように射精する。2人分の精液がお互いの腹部を汚していた。


「は、はぁ…はぁ」
「ノア、今夜は寝室へ行く」
「……っ」


呼吸を整えていると、グウェンは囁くように耳元で呟く。俺は言われた意味を瞬時に理解し、身体が歓喜に染まるのが分かった。

本邸に戻ってから数日、グウェンとは別で寝ていた。逃げていた訳でもなければ、避けていた訳でもない。ただ何となく、俺が恥ずかしがっていることにグウェンが気づいていて、別にしてくれていたのだ。

久しぶりの同衾の誘いに、歓喜に染まった身体はグウェンを見るだけでまた顔が熱くなるのを感じる。けれど俺は、それでもなんとか1度だけ首を、こくん、と傾けた。


「……拭いたら夕食に行こう。歩けるか?」
「……ぅん……」


グウェンに支えられながら、フラフラと夕食に向かった。俺は、シェフに失礼ながらも、味が全く分からないまま食べることになった。







「ノア様、そんな風に爪を弄ってはいけません」
「…うん」


アイリスに指摘され、爪を弄っていることに気がついた。無意識に弄っていた爪は、ほんの少しだけ削れていた。

アイリスは爪ヤスリで整え、透明なネイルを塗り始めた。俺は爪を弄られる気持ちよさに有り難さを感じた。


「ノア様、寝てはダメですよ」


スイレンはそう言って、魔法で髪を乾かしてくれていた。乾かしたら髪にツヤを出すオイルをつけられ、髪を丁寧に整えられる心地良さにも眠気を感じてしまった。

味がしなかった夕食後、アイリスとスイレンに連れられて湯船に浸かった。湯船に浸かるのはほとんど毎日ではあるのだが、爪まで細かくされるのは久しぶりの事だった。


「ノア様、終わりました。これで2人とも本日はお暇させていただきます」
「ん…ありがとう。おやすみ」
「はい、おやすみなさいませ」
「おやすみなさいませ、ノア様」


2人は俺の支度が終わると、部屋を退室していった。





俺はベッドの端に座って、今夜来ると言った夫のグウェンを少し待った。しかし落ち着かない。さっきアトリエであんなことをしたにも関わらず、ソワソワしてしまう。

おかしい。俺は19歳であるが、前世を合わせれば、30歳をとうに過ぎているはずなのだ。グウェンよりも年上なのだ。だから今まではこういう雰囲気になったとしても、ドキドキはしても、こんなに落ち着かないことはなかった。

どうにも落ち着かない心と身体を、少しでも落ち着かせようと、テーブルに準備してくれたデカンタに入った水をコップに入れて喉を潤した。


「……はぁ」


やっぱり落ち着かない。緊張とはまた違う、まるで心そのものをくすぐられ続けている感覚に翻弄されている。

仕方なしに、厨房へ行って何かお酒でも貰おうと、ベッドから立ち上がり扉を開けた。


「どこへ行くんだ」


またしても身体中がブワッと泡立つ感覚が駆け巡った。落ち着かない原因が目の前で、自分と同じガウン姿で立っていたからだ。

身体が微かに震える中、なんとか口を開いた。


「……お酒、貰いに行こうと……」
「そうか」


そう言うやいなや、グウェンは俺の顎をクイッと持ち上げ、深く口付けをした。


「んっ、んん……ん」


いつの間にか腰を支えられ、俺はグウェンに捕まっていた。お酒を飲みたくなった気持ちは、グウェンの舌技で霧散する。すでに自分は口内を蹂躙する舌とどちらのか分からない唾液で酔いが回っていた。


「んっ……」


気持ちよくて、俺は自らグウェンの舌に巻き付くように絡ませた。首の後ろに手を回し、グウェンにもっととせがんでいるようだった。


「ノア、持ち上げるぞ」
「わっ……」


俺は首に手を回したまま、グウェンは俺の膝裏に手を入れて軽々と持ち上げた。横抱きにされ、ソファにそのままグウェンの膝の上に座らされる。


「んっ…ふ、ぁ……んん」


グウェンの膝の上でキスをされ、ガウンの紐を解いて肌蹴られる。覗く肌から冷たい空気を感じて少しだけ震える。ゆっくりとグウェンの手が俺の肌に滑らせる。


「……綺麗だ」
「っ!」


普段あまりそういうことを言わない方のグウェンから、直接的に言われ顔から湯気が出そうだった。グウェンの手が鎖骨をなぞる。自分の身体は勝手にピクピクと反応してしまう。


「んぁっ! あ、……ん!」


グウェンの手が胸の頂きに到達する。キュッと抓られ、嬌声をあげた。グウェンは反応を楽しんでいるようで、抓ったり押したり、優しく意地悪に乳首を弄んだ。


「あっ、だめ……っ、ん!」


胸の頂きを弄ばれ、身体がビクビクと快楽に反応する。俺は首に回したままの腕に力が入る。グウェンはそれがまるでキスをせがんでいるように思ったのか口付けをしてくれる。


「んっ、んん……」


口内と乳首を蹂躙され、ヒクヒクと腰が動いているのが自分でも分かる。グウェンがくれる全てが快感に変わる。

グウェンはゆっくりと手をまた下に滑らせ、後孔に指が届く。


「あっ!」


ビクッと一際大きく反応を示すと、グウェンは楽しそうに口端を上げる。


「…準備までして、そんなに楽しみだったか?」
「んっ…グウェン…!」


アイリスとスイレンが出ていった後、全く落ち着かず、俺は1人で準備していた。それでも落ち着かずソワソワしていたのだが。

俺は早く、グウェンと繋がりたくて仕方なかった。目の前に好物があるのに、もどかしくてどうしようもない。

俺は自分から体勢を変えて、グウェンの膝の上に座り込み、対面座位の姿勢をとった。

あの時、グウェンにショックを与えたであろう体勢だ。けれどもグウェンは受け入れてそのまま座ったままでいてくれる。


「は……グウェン…」


自分から、グウェンの剛直を準備した自分の後孔に当てる。

グウェンからはいやらしい自分が映っているに違いない。その証拠に、グウェンの瞳に映った自分の顔は、もうグウェンが欲しくて我慢ができない、浅ましい自分が映っていた。


「……っ、あ!ん……」


俺はゆっくり腰を下ろす。途中、良い所を当てたのか声が勝手に出てくる。ズブズブと挿れていき、グウェンの剛直を飲み込んでいく。1番太い所の手前まで来たところで息が切れて止まってしまった。


「は、はぁ。はぁ……」
「悪いが、待てない」
「っあああ!」


ぐちゅん、と奥まで思い切り押し込むように、グウェンは俺の腰を掴んで挿れた。

挿れられた衝撃で、星が見える。まるで剛直が脳天まで突き刺された感覚だった。仰け反るように快感を感じていたが、グウェンが下から揺らして来て無理やり戻される。


「っぁ! ああ! あん! あっあっ!」
「……は、凄いな…中が凄い締まってるぞ」
「あっ、んん、は、グウェ、ン、あっ!」


首に手を回し、グウェンに抱きつく。どうしようもないほどの快楽に溺れながら、俺は生理的でない涙が流れているのに気づいた。


「っ、グウェン…!好き、好きだ…ん!あん!」
「ああ、ノア。俺もだ…」


ぐちゅぐちゅと後孔から音を立てながら、グウェンは俺の涙を親指で拭う。

アランに心まで奪われて、溺れさせられた快楽とは違う、多幸感を感じていた。


「はぁ、ん!あっ!ダメ…!イクっ…!~~~っ!」
「……っ」


最後に思い切り突き上げられ、ばちゅんっ、という音とともに追い上げられ果てた。 遅れてグウェンの精液が中に流れてくるのを感じた。


「はぁ、は……ぁ、グウェン……」

息を整え、グウェンの唇を自分から貪るように奪う。口付けも気持ちよくていつまでもしていたい。グウェンの舌に自分から絡ませる。口内からくちゅくちゅと耳に響く。

また快楽の波に溺れたいと思っていたが、グウェンが口付けを離した。


「んっ…ぁ……」


名残惜しくてグウェンを見ていると、グウェンは口端をあげるように微笑み、剛直を俺から抜いた。


「あっ!……わっ」


急に引き抜かれ、声が出る。グウェンはお構い無しに、俺をまた横抱きにして持ち上げた。


「…? ど、どこに行くの……?」
「テラスだ」


グウェンは俺が着てたガウンを上からかけてくれ、そのままテラスに歩き出した。


「えっ! ちょ!」
「外ではやらんから、安心しろ」


まさか、と思って暴れようとするが否定され、ホッとしてそのままグウェンの首に手を回したままにした。


「…ここからが1番見やすいんだ」
「? …あ」


それは庭園だった。グウェンが俺のために作ってくれた蓮池が上から見渡せる位置だった。

今日はちょうど満月だった。 


「さすがに、蝶はいないが…刺繍とだいぶ似ているだろう」
「……うん、綺麗だ」


月明かりに照らされた蓮池や月下美人たちが、幻想的な雰囲気で息を飲むほどに美しかった。


「グウェン、ありがとう…」


グウェンは庭園を見つめる俺に、顔を近づけ、ひとつになった。
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