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最終章
ラベンダー【不信感】
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目が覚めて、いつもの天蓋が目に入った。
「あ……」
「目が覚めたか」
横でグウェンの声がして向くと、レイも隣に座っていた。2人とも、心配そうにこちらを見ていた。
俺は混乱しているのか、どうしてレイもここにいるのか分からなかった。
「……思い出せないか」
「ど、どういう……? っ!」
どういう意味、と訊ねるつもりだった。けれど、まるで壊れたテレビのようにザーッと映像だけが頭によぎる。
花の絵
桃の花
相談に来た女子生徒
血だらけのテオ
3人の男子生徒
ゴボウの花
アラン先生
そして、淫らに腰を振る浅ましい自分
「あ、ああ、ああああ……」
俺は頭を抱えて俯いた。一気に襲い来る罪悪感に苛まれて頭が割れそうなほど痛くなった。
「ノア、もう大丈夫だから。もう、アイツはノアの前には現れないから」
レイが冷たい声で言い放つ。アイツとは、アラン先生の事だろうか。現れないとはどういう事なのか。
「…一介の魔術師が、侯爵家の息子と、公爵家の夫人へ魔法を行使して犯罪を犯したんだ。どうなるのかは想像つくだろう」
「僕が殺してやりたい!!!」
レイが、聞いたことも無い突然の怒鳴り声を上げる。俺は恐怖でビクッと肩が揺れた。
グウェンが息を切らすレイを落ち着かせるように肩を叩く。
「テオは無事に目を覚ましたようだ。女子生徒も不自然な眠気は無くなった。男子生徒は操られていたとはいえ、お咎めなしとはいかない。教師陣の判断で謹慎処分になっている」
これら全てがあの穏やかに微笑むアラン先生の犯行だと言うのか。俺にしたことがあるとは言え、1年見てきた彼の姿からは想像出来なかった。
「……俺は、あと何回人に騙されるの」
ポツリと、零した。
ゴードリックの時も、レデリート殿下の時も、今回のアラン先生の時も。何度も裏切られ、傷つけられる。
「ノア。……君は、少し静養した方が良いと思っている」
グウェンは静かに、俺が好きな黒い瞳を真っ直ぐ向けてそう言った。
「……? 静養……?」
「…この本邸ではなく、前に俺が君にプレゼントとして渡してしばらく住んだ屋敷があるだろう。しばらく、そこでゆっくり休むんだ」
最初は理解出来なかった。でも、すぐに理解した。
グウェンは、俺のあの姿を見ている。グウェンを好きだとのたまった、すぐ後に、他の男のものを嬉しそうに受け入れている自分を見ている。
グウェンが言いたいことが、分かる。
ここを出ていけと、そういう事かと。
「……グウェン、本当に」
「アイリスとスイレンにはノアと行ってもらう。2人にも承諾は得ている」
レイが何か言いかけているが、グウェンは遮る。
「おそらく君は今、誰も信用しないだろう。せめて、いつも君の傍らに居続けた2人だけは信じてくれ」
仕事で疲れている時も、グウェンに高級糸を貰って喜んでいる時も、ゴードリックやアラン先生で辛いことがあった時も、いつも傍にいてくれたアイリスとスイレン。その2人を、裏切った自分のために置いてくれる。
「……ノア。ノアはどうしたいの」
レイにそう言われる。どうしたいかなんて、俺が知りたい。俺が俯いていると、グウェンは小さくため息をついた。
「ノア。君が俺を信じてくれるようになるまで、ずっと待っている」
そう言ったグウェンの切なげな瞳が、瞼に焼き付いて剥がれないままだった。
「あ……」
「目が覚めたか」
横でグウェンの声がして向くと、レイも隣に座っていた。2人とも、心配そうにこちらを見ていた。
俺は混乱しているのか、どうしてレイもここにいるのか分からなかった。
「……思い出せないか」
「ど、どういう……? っ!」
どういう意味、と訊ねるつもりだった。けれど、まるで壊れたテレビのようにザーッと映像だけが頭によぎる。
花の絵
桃の花
相談に来た女子生徒
血だらけのテオ
3人の男子生徒
ゴボウの花
アラン先生
そして、淫らに腰を振る浅ましい自分
「あ、ああ、ああああ……」
俺は頭を抱えて俯いた。一気に襲い来る罪悪感に苛まれて頭が割れそうなほど痛くなった。
「ノア、もう大丈夫だから。もう、アイツはノアの前には現れないから」
レイが冷たい声で言い放つ。アイツとは、アラン先生の事だろうか。現れないとはどういう事なのか。
「…一介の魔術師が、侯爵家の息子と、公爵家の夫人へ魔法を行使して犯罪を犯したんだ。どうなるのかは想像つくだろう」
「僕が殺してやりたい!!!」
レイが、聞いたことも無い突然の怒鳴り声を上げる。俺は恐怖でビクッと肩が揺れた。
グウェンが息を切らすレイを落ち着かせるように肩を叩く。
「テオは無事に目を覚ましたようだ。女子生徒も不自然な眠気は無くなった。男子生徒は操られていたとはいえ、お咎めなしとはいかない。教師陣の判断で謹慎処分になっている」
これら全てがあの穏やかに微笑むアラン先生の犯行だと言うのか。俺にしたことがあるとは言え、1年見てきた彼の姿からは想像出来なかった。
「……俺は、あと何回人に騙されるの」
ポツリと、零した。
ゴードリックの時も、レデリート殿下の時も、今回のアラン先生の時も。何度も裏切られ、傷つけられる。
「ノア。……君は、少し静養した方が良いと思っている」
グウェンは静かに、俺が好きな黒い瞳を真っ直ぐ向けてそう言った。
「……? 静養……?」
「…この本邸ではなく、前に俺が君にプレゼントとして渡してしばらく住んだ屋敷があるだろう。しばらく、そこでゆっくり休むんだ」
最初は理解出来なかった。でも、すぐに理解した。
グウェンは、俺のあの姿を見ている。グウェンを好きだとのたまった、すぐ後に、他の男のものを嬉しそうに受け入れている自分を見ている。
グウェンが言いたいことが、分かる。
ここを出ていけと、そういう事かと。
「……グウェン、本当に」
「アイリスとスイレンにはノアと行ってもらう。2人にも承諾は得ている」
レイが何か言いかけているが、グウェンは遮る。
「おそらく君は今、誰も信用しないだろう。せめて、いつも君の傍らに居続けた2人だけは信じてくれ」
仕事で疲れている時も、グウェンに高級糸を貰って喜んでいる時も、ゴードリックやアラン先生で辛いことがあった時も、いつも傍にいてくれたアイリスとスイレン。その2人を、裏切った自分のために置いてくれる。
「……ノア。ノアはどうしたいの」
レイにそう言われる。どうしたいかなんて、俺が知りたい。俺が俯いていると、グウェンは小さくため息をついた。
「ノア。君が俺を信じてくれるようになるまで、ずっと待っている」
そう言ったグウェンの切なげな瞳が、瞼に焼き付いて剥がれないままだった。
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