74 / 92
最終章
ドクニンジン【あなたは私の命取り】
しおりを挟む
テオに手紙を渡してから、次の日。
レイの方でも色々調べてくれていたが、やはり多重魔法で痕跡があんなに薄くなるのは不可能のようだ、と先触れの魔法でアイリスを通して教えてもらった。違う方法があるか引き続き調べてくれるようだった。
女子生徒は、日に日に元気を取り戻していた。相変わらず授業中は眠くなってしまうようだったが、先生方の協力あって、夢は見ずに済んでいるようだった。
お昼になると、アラン先生がお茶を飲みに来た。俺はいつも通り準備をしてお菓子を一緒に食べながら談笑していた。
「ノア先生!!!いる!?!」
突然、ノックもせずに扉を開けたのは、手紙を渡した時にテオと一緒にいた友人だった。
走ってきたのだろうか、額からは汗が流れている。なのに、顔は真っ青だった。明らかに異常事態が起きているようだった。
「ど、どうしたの?突然……」
「きて!!はやく!!お願い!!!」
部屋に入るなり、俺の腕を引っ張り連れ出そうとした。俺は訳が分からないまま、アラン先生と共にその生徒の後をついて行くことに決めた。
「何があったの…?」
「テオが! テオが……っ! はやく!お願い!テオが死んじゃう!」
俺はその言葉で走り出した。生徒が案内してくれたのはテオの住む寮の部屋だった。既に人だかりが出来ていて、先生方が生徒を外に追い出そうとしていた。
「何があったんですか?!」
俺は、生徒に離れるように誘導している近くにいた美術科の先生に尋ねた。先生は、信じられないと言った表情をしながら言った。
「て、テオ君が……手首を……!」
俺は無理やり中に入った。静止するアラン先生の声も聞かず、生徒と先生をかき分けて、無理やり入った。
部屋の中のベッドに横たわるテオの手首から、赤く染った鮮血が流れ落ちていた。
床にポタポタと緩い赤い絵の具のように流れ落ちている。 近くの先生が回復魔法をかけようとするが、魔法の専門ではなく、血が止められないようだった。
「アラン先生!早く来てください!」
「一体何が……!……っこれは!」
アラン先生もようやく中に入れたようだった。凄惨な様子に驚いていたが、アラン先生は直ぐに回復をかけようとしてくれた。
「っ、私じゃ回復は難しいです!誰か!回復が得意なものは!?」
アラン先生も回復の専門ではなかったようだった。俺はもう、待てるわけがなかった。
「アラン先生! レイに!レイ=ローマンドに先触れを!!!」
アラン先生はすぐさま特急の先触れを出してくれた。俺は上腕部にタオルを巻いて縛った。なるべく血を出させないように手を上に向けた。
そして、直ぐにそれは現れた。
レイが転移魔法を使って現れた。先生方は初めて見る転移魔法にどよめいていたが、レイはテオの様子を見て直ぐに理解したようだった。
「ノア、そのまま持ってて」
レイも回復は得意じゃないと言っていたが、天才はそれでも関係ないとばかりに白い光を当ててテオの手首の傷を塞ぐことが出来た。
「っは……止まった…」
全員がホッとした。テオの脈も弱々しかったが、生きている。テオの顔は血を失ったせいで真っ青になっていた。レイの身体は小刻みに震えている。信じられない、とばかりに顔を歪ませていた。
「テオ……どうして……っこんな!」
レイは、横たわるテオに身体を埋めて涙を流していた。
「……そういえば、最近。私の教科の点数が思うように取れないと……落ち込んでいました」
ぽつりとアラン先生が言う。レイは勢いよく振り返る。アラン先生の格好を見て、理解したようだった。どう見てもレイに似た、魔法使いの格好だ。
「っ! そんなの……!っう、うううぅう!!!」
どうでもいい、とはレイは口にしなかった。テオが自殺まで思い込むほど悩んだ理由を、蔑むことが出来なかった。
レイの喉が焼け付くような泣き声が、部屋中に響き渡った。
テオの左手には、レイの手紙と枯れたタマスダレが握られていた。
「…テオは、しばらくローマンド家で引き取る。ノアありがとな」
「いや……俺も、気づかなくて」
「やめろ。悪いと思うなよ」
少しすると、騎士団からルークが急いで来た。ルークの腕にはテオが抱かれていた。レイはテオの手を握りながらずっと涙を静かに流していた。
「これは、こいつの問題だ。そして、俺らの問題だ。ノア、お前のせいじゃない」
「……ルーク…、2人を、よろしく」
「ああ、……帰るぞ。レイ」
レイは小さく頷くと、ルークの横を歩いて寮を後にした。
俺はあんなに泣いていた兄に、なんて声をかけていいのか分からないままだった。
俺はそのまま直帰でも良かったのだが、扉を施錠していなかったことを思い出して、相談室へ戻ることにした。
現実感のないまま、相談室に入って、細い全身鏡を見た。自分の服が、テオの血で汚れていることにやっと気がついた。そして、あれは現実だったんだと、思い知らされた。
テーブルの上の桃の花は、1つ枯れていて5つが満開だった。
レイの方でも色々調べてくれていたが、やはり多重魔法で痕跡があんなに薄くなるのは不可能のようだ、と先触れの魔法でアイリスを通して教えてもらった。違う方法があるか引き続き調べてくれるようだった。
女子生徒は、日に日に元気を取り戻していた。相変わらず授業中は眠くなってしまうようだったが、先生方の協力あって、夢は見ずに済んでいるようだった。
お昼になると、アラン先生がお茶を飲みに来た。俺はいつも通り準備をしてお菓子を一緒に食べながら談笑していた。
「ノア先生!!!いる!?!」
突然、ノックもせずに扉を開けたのは、手紙を渡した時にテオと一緒にいた友人だった。
走ってきたのだろうか、額からは汗が流れている。なのに、顔は真っ青だった。明らかに異常事態が起きているようだった。
「ど、どうしたの?突然……」
「きて!!はやく!!お願い!!!」
部屋に入るなり、俺の腕を引っ張り連れ出そうとした。俺は訳が分からないまま、アラン先生と共にその生徒の後をついて行くことに決めた。
「何があったの…?」
「テオが! テオが……っ! はやく!お願い!テオが死んじゃう!」
俺はその言葉で走り出した。生徒が案内してくれたのはテオの住む寮の部屋だった。既に人だかりが出来ていて、先生方が生徒を外に追い出そうとしていた。
「何があったんですか?!」
俺は、生徒に離れるように誘導している近くにいた美術科の先生に尋ねた。先生は、信じられないと言った表情をしながら言った。
「て、テオ君が……手首を……!」
俺は無理やり中に入った。静止するアラン先生の声も聞かず、生徒と先生をかき分けて、無理やり入った。
部屋の中のベッドに横たわるテオの手首から、赤く染った鮮血が流れ落ちていた。
床にポタポタと緩い赤い絵の具のように流れ落ちている。 近くの先生が回復魔法をかけようとするが、魔法の専門ではなく、血が止められないようだった。
「アラン先生!早く来てください!」
「一体何が……!……っこれは!」
アラン先生もようやく中に入れたようだった。凄惨な様子に驚いていたが、アラン先生は直ぐに回復をかけようとしてくれた。
「っ、私じゃ回復は難しいです!誰か!回復が得意なものは!?」
アラン先生も回復の専門ではなかったようだった。俺はもう、待てるわけがなかった。
「アラン先生! レイに!レイ=ローマンドに先触れを!!!」
アラン先生はすぐさま特急の先触れを出してくれた。俺は上腕部にタオルを巻いて縛った。なるべく血を出させないように手を上に向けた。
そして、直ぐにそれは現れた。
レイが転移魔法を使って現れた。先生方は初めて見る転移魔法にどよめいていたが、レイはテオの様子を見て直ぐに理解したようだった。
「ノア、そのまま持ってて」
レイも回復は得意じゃないと言っていたが、天才はそれでも関係ないとばかりに白い光を当ててテオの手首の傷を塞ぐことが出来た。
「っは……止まった…」
全員がホッとした。テオの脈も弱々しかったが、生きている。テオの顔は血を失ったせいで真っ青になっていた。レイの身体は小刻みに震えている。信じられない、とばかりに顔を歪ませていた。
「テオ……どうして……っこんな!」
レイは、横たわるテオに身体を埋めて涙を流していた。
「……そういえば、最近。私の教科の点数が思うように取れないと……落ち込んでいました」
ぽつりとアラン先生が言う。レイは勢いよく振り返る。アラン先生の格好を見て、理解したようだった。どう見てもレイに似た、魔法使いの格好だ。
「っ! そんなの……!っう、うううぅう!!!」
どうでもいい、とはレイは口にしなかった。テオが自殺まで思い込むほど悩んだ理由を、蔑むことが出来なかった。
レイの喉が焼け付くような泣き声が、部屋中に響き渡った。
テオの左手には、レイの手紙と枯れたタマスダレが握られていた。
「…テオは、しばらくローマンド家で引き取る。ノアありがとな」
「いや……俺も、気づかなくて」
「やめろ。悪いと思うなよ」
少しすると、騎士団からルークが急いで来た。ルークの腕にはテオが抱かれていた。レイはテオの手を握りながらずっと涙を静かに流していた。
「これは、こいつの問題だ。そして、俺らの問題だ。ノア、お前のせいじゃない」
「……ルーク…、2人を、よろしく」
「ああ、……帰るぞ。レイ」
レイは小さく頷くと、ルークの横を歩いて寮を後にした。
俺はあんなに泣いていた兄に、なんて声をかけていいのか分からないままだった。
俺はそのまま直帰でも良かったのだが、扉を施錠していなかったことを思い出して、相談室へ戻ることにした。
現実感のないまま、相談室に入って、細い全身鏡を見た。自分の服が、テオの血で汚れていることにやっと気がついた。そして、あれは現実だったんだと、思い知らされた。
テーブルの上の桃の花は、1つ枯れていて5つが満開だった。
0
お気に入りに追加
855
あなたにおすすめの小説
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる