71 / 92
最終章
イカリソウ【旅立ち】
しおりを挟む
一頻り、意外にも勉学には真面目な兄であるレイにこってり絞られた後、俺は涙目になりながら反省した。
「もう、次してたらゲンコツだからね」
「は、はい……すみません」
「グウェンも!わかった?!」
「ああ、悪かった……すまない」
「本当、テオが見たら許さないんだからね!」
「はい、すみません……」
2人して顔色悪く謝罪するとようやくレイの気は収まったようだった。まったく、と言いながら溜息をついて、違う話題に切り替えられる。
「それでさ、今日僕が来た理由なんだけどさ」
「あ、うん。どうしてきたの?」
「テオがね。何だか魔力の反応が強い時がたまにあるって言うんだ」
テオとは、ここの隣の都市の侯爵家で、レイが推薦して入学させた男の子だ。レイが推薦するくらいで、テオは入学以来トップの成績を維持し続けている。
初めはそんなテオをまるで息子ように可愛がっているレイに驚いたが、テオは良くレイに懐いており、まるでルークと家族のような関係を築いていた。
だからこそレイはそんなテオが憂いなく学生生活を送れるようにしたいと考えているのだろう。わざわざレイが調べに来る必要はないはずの些細な魔力感知でも来るあたり、よっぽどである。
「テオもどこで強くなるのかよく分からなくなるらしいんだ。全教室回って探ってみようと思う」
「全教室? 一体幾つあると思ってる」
「でも、テオが気にするし。勉強に集中して欲しいからね」
グウェンがレイに数の多さを指摘するが、レイにとっては手間をかける大変さよりはテオの学校生活の方が大切のようだった。
「そんなんで、建物を把握してるノアに着いてきてもらおうと思って」
「ああ、分かった。行こう」
「…すまない、俺は騎士団に戻る」
そう言って、俺はレイと共に学園中の教室を回ることになり、グウェンは騎士団の方へと別れた。
レイはとりあえず俺の相談室から1番近い教室に入るなり、唸った。
「うーーーん…魔力を感じるような……感じないような」
「そんなに微弱なの?」
「うん。子供が試しに使ったのかな…でも、このくらいなら何も出来ないと思うんだよねぇ」
レイが言うには、魔力の残骸みたいなものがあり、まるで残り香のように微かではあるが感じ取れるようだ。しかし、この魔力を使って魔法を行使したとは思えないほど少ない魔力しかないようだった。
「時間が経ったから、微弱とかじゃないんだ」
「いやこれ、最近のやつだよ。そんなに時間経ってない」
「問題ありそう?」
俺がそう言うと、レイは腕を組んで考え込んでしまった。天才ですら困らせる微弱な魔力に一種の感動すら覚えた。
レイは一頻り考え込んだ後、教室の廊下側の壁に飾ってある花の絵に触れた。花の絵は、美術科の先生が描いたものだった。
「…これかな。ここに何かしようとした跡がある。でも、別に問題はなさそう」
「そっか。なら良かった」
「次の教室に行こう」
俺とレイは、全ての教室を午後の時間丸々使って調べた。
レイはちょくちょく教室に飾ってある絵に触れていた。たまに魔力を感じているが、どれも何も出来ないほど少ない残骸のようだった。
「……魔法を使ったあとなのかな、そんな感じもしないんだけど……」
「レイが悩むなんてよっぽどだね」
「うーん…さすがに微か過ぎて難しいね。何をしようとしたのかすら分からないよ」
レイは肩をすかしてみせた。
「やっぱり子供かなー…子供が絵にイタズラしようと思ってなんか魔法使ってるのかなー」
「…じゃあ、明日職員会議で注意してもらうように伝えておくよ」
「ありがと。魔法科の先生っているの?」
「ああ、いるよ。アラン先生だ」
魔法学校は別であるが、もし魔力が強い子がいた時のためにと、宰相補佐は1人配置を決めた。その時候補に上がったのがアラン先生だった。
アラン先生は小さな丸いメガネをかけた穏やかな人で生徒からも人気な先生だ。女子たちは優しい微笑みの美男子だと騒いでいるのを聞いたことがある。
「じゃ、その人にも話しとこうかな」
「今日はお休みだよ、来てない」
魔法科は授業がない日もあるため、俺と同じく毎日の出勤ではない。
「あ、そうなんだ。ここは主に文官と騎士だもんね…ノアから伝えといてもらっていい?」
「うん、分かった。気をつけるように伝えとくよ」
明日、職員会議にかけることだけが元引きこもりとしてはほんの少し憂鬱ではあるが、兄の憂いを払えるならば容易い事だ。
レイはテオに会ってから帰る、と言って別れた。本当にテオを息子のように可愛がっていて、ほんの少し寂しい気持ちになるのだった。
屋敷に帰宅し、グウェンにレイと話したことを説明した。俺もグウェンもお風呂上がりで夜着を着ている。最近は2人でソファに座って、寝酒を嗜むのがお決まりのパターンだった。
「それで、結局分からなかったということか」
「うん。レイでも分からないことがあるのがビックリだよ」
俺はグウェンの肩に凭れながら言う。ウイスキーを少しだけ口に含むと、氷がグラスと掠れてカラン、と音がした。
「確かにな。珍しい。……あの後は怒られなかったか」
「……だ、大丈夫だった…、本当に怖かった…」
2人して溜息をつく。悪いことをしたのは自分たちなので、反省しきりだ。
「……でも、あの時のノアは妖艶だったな」
「いっ、今思い出さないでよ!」
グウェンの言葉に俺は酒だけのせいじゃない顔の火照りを感じた。グウェンの顔はほんの少し意地悪そうな表情だった。
「中途半端だったからな。消化不良なんだ」
「ぁ…、俺ばっかだったね…ん、グウェン…」
グウェンはテーブルにまだ中身の残るグラスを置いた。俺のグラスもグウェンに取り上げられる。
グウェンは肩に凭れた俺の方に顔を向け、ゆっくり近づいてきた。グウェンの瞳は獰猛な獣のような情欲を感じさせる瞳だった。
吸い込まれるように瞳を見て、俺はグウェンがくれる淫靡な手に身を委ねた。
「もう、次してたらゲンコツだからね」
「は、はい……すみません」
「グウェンも!わかった?!」
「ああ、悪かった……すまない」
「本当、テオが見たら許さないんだからね!」
「はい、すみません……」
2人して顔色悪く謝罪するとようやくレイの気は収まったようだった。まったく、と言いながら溜息をついて、違う話題に切り替えられる。
「それでさ、今日僕が来た理由なんだけどさ」
「あ、うん。どうしてきたの?」
「テオがね。何だか魔力の反応が強い時がたまにあるって言うんだ」
テオとは、ここの隣の都市の侯爵家で、レイが推薦して入学させた男の子だ。レイが推薦するくらいで、テオは入学以来トップの成績を維持し続けている。
初めはそんなテオをまるで息子ように可愛がっているレイに驚いたが、テオは良くレイに懐いており、まるでルークと家族のような関係を築いていた。
だからこそレイはそんなテオが憂いなく学生生活を送れるようにしたいと考えているのだろう。わざわざレイが調べに来る必要はないはずの些細な魔力感知でも来るあたり、よっぽどである。
「テオもどこで強くなるのかよく分からなくなるらしいんだ。全教室回って探ってみようと思う」
「全教室? 一体幾つあると思ってる」
「でも、テオが気にするし。勉強に集中して欲しいからね」
グウェンがレイに数の多さを指摘するが、レイにとっては手間をかける大変さよりはテオの学校生活の方が大切のようだった。
「そんなんで、建物を把握してるノアに着いてきてもらおうと思って」
「ああ、分かった。行こう」
「…すまない、俺は騎士団に戻る」
そう言って、俺はレイと共に学園中の教室を回ることになり、グウェンは騎士団の方へと別れた。
レイはとりあえず俺の相談室から1番近い教室に入るなり、唸った。
「うーーーん…魔力を感じるような……感じないような」
「そんなに微弱なの?」
「うん。子供が試しに使ったのかな…でも、このくらいなら何も出来ないと思うんだよねぇ」
レイが言うには、魔力の残骸みたいなものがあり、まるで残り香のように微かではあるが感じ取れるようだ。しかし、この魔力を使って魔法を行使したとは思えないほど少ない魔力しかないようだった。
「時間が経ったから、微弱とかじゃないんだ」
「いやこれ、最近のやつだよ。そんなに時間経ってない」
「問題ありそう?」
俺がそう言うと、レイは腕を組んで考え込んでしまった。天才ですら困らせる微弱な魔力に一種の感動すら覚えた。
レイは一頻り考え込んだ後、教室の廊下側の壁に飾ってある花の絵に触れた。花の絵は、美術科の先生が描いたものだった。
「…これかな。ここに何かしようとした跡がある。でも、別に問題はなさそう」
「そっか。なら良かった」
「次の教室に行こう」
俺とレイは、全ての教室を午後の時間丸々使って調べた。
レイはちょくちょく教室に飾ってある絵に触れていた。たまに魔力を感じているが、どれも何も出来ないほど少ない残骸のようだった。
「……魔法を使ったあとなのかな、そんな感じもしないんだけど……」
「レイが悩むなんてよっぽどだね」
「うーん…さすがに微か過ぎて難しいね。何をしようとしたのかすら分からないよ」
レイは肩をすかしてみせた。
「やっぱり子供かなー…子供が絵にイタズラしようと思ってなんか魔法使ってるのかなー」
「…じゃあ、明日職員会議で注意してもらうように伝えておくよ」
「ありがと。魔法科の先生っているの?」
「ああ、いるよ。アラン先生だ」
魔法学校は別であるが、もし魔力が強い子がいた時のためにと、宰相補佐は1人配置を決めた。その時候補に上がったのがアラン先生だった。
アラン先生は小さな丸いメガネをかけた穏やかな人で生徒からも人気な先生だ。女子たちは優しい微笑みの美男子だと騒いでいるのを聞いたことがある。
「じゃ、その人にも話しとこうかな」
「今日はお休みだよ、来てない」
魔法科は授業がない日もあるため、俺と同じく毎日の出勤ではない。
「あ、そうなんだ。ここは主に文官と騎士だもんね…ノアから伝えといてもらっていい?」
「うん、分かった。気をつけるように伝えとくよ」
明日、職員会議にかけることだけが元引きこもりとしてはほんの少し憂鬱ではあるが、兄の憂いを払えるならば容易い事だ。
レイはテオに会ってから帰る、と言って別れた。本当にテオを息子のように可愛がっていて、ほんの少し寂しい気持ちになるのだった。
屋敷に帰宅し、グウェンにレイと話したことを説明した。俺もグウェンもお風呂上がりで夜着を着ている。最近は2人でソファに座って、寝酒を嗜むのがお決まりのパターンだった。
「それで、結局分からなかったということか」
「うん。レイでも分からないことがあるのがビックリだよ」
俺はグウェンの肩に凭れながら言う。ウイスキーを少しだけ口に含むと、氷がグラスと掠れてカラン、と音がした。
「確かにな。珍しい。……あの後は怒られなかったか」
「……だ、大丈夫だった…、本当に怖かった…」
2人して溜息をつく。悪いことをしたのは自分たちなので、反省しきりだ。
「……でも、あの時のノアは妖艶だったな」
「いっ、今思い出さないでよ!」
グウェンの言葉に俺は酒だけのせいじゃない顔の火照りを感じた。グウェンの顔はほんの少し意地悪そうな表情だった。
「中途半端だったからな。消化不良なんだ」
「ぁ…、俺ばっかだったね…ん、グウェン…」
グウェンはテーブルにまだ中身の残るグラスを置いた。俺のグラスもグウェンに取り上げられる。
グウェンは肩に凭れた俺の方に顔を向け、ゆっくり近づいてきた。グウェンの瞳は獰猛な獣のような情欲を感じさせる瞳だった。
吸い込まれるように瞳を見て、俺はグウェンがくれる淫靡な手に身を委ねた。
0
お気に入りに追加
849
あなたにおすすめの小説
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~
槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。
最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者
R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる