【完結】泥中の蓮

七咲陸

文字の大きさ
上 下
69 / 92
side story -レイとルーク-②

蝶よ花よ⑦

しおりを挟む
午後、テオは目を覚ますと、レイの膝に座って本を読み始めた。本の内容は算術で、テオが寝ている間にレイが準備したものだった。


「レイ、ここ教えて」
「これはこの式を使うの、暗算なんて最初は無理なんだからいっぱい書き込みな」
「うん」


すっかり大人しく勉強をしているテオに俺は本当に驚いた。もしかしたら、テオはレイのように親身に叱ってくれる人が欲しかったのかもしれないな、と思う。

レイは勉強を教えながら、自分も本を読んでいた。俺は手持ち無沙汰になったので、食堂に行って2人のお茶の準備をすることにした。


「レイ殿がテオ坊ちゃんを手懐けたってあいつらが言ってたぞ」


振り返るとニルス団長がいた。ニルス団長とエンシーナ侯爵は仲が良いことで有名で、下手に危険の多い場所に行くよりはマシだからとテオの侵入を許していた。


「本気でハラハラしましたけどね」
「ははは、良い嫁を持ったな」
「本当に」


そう言ってニルス団長は笑いながら食堂を後にして行った。俺もお茶と軽食の準備が出来たので部屋に戻ることにした。

部屋に戻ると、2人共まだ勉強を続けていたが、軽食の匂いを嗅いだテオのお腹がなったのでテーブルで食事を摂ることにした。椅子に座る時は流石にレイの膝からは離れて1人で座るかと思ったが、テオは椅子に座ったレイの膝に乗っかった。


「おい、テオ降りろ」
「レイが降りろって言わないから良いんだ」
「早く食べなよ。今日であの本終わらすからね」
「うん」


レイは全く気にした様子もなく、テオのやることに文句は言わなかった。レイの教育は勉学だけに振り切っていて、礼節は無かった。

そういえば、この天才は招待状を送らないなど礼を欠いた行動をしょっちゅうしていたな、と思い出す。


「ルーク、もうちょっと上級の算術の本、侯爵家で貰ってきて」
「……分かった」


俺はなんとなく面白くなかったが、テオが大人しいため諦めるしかなかった。





だいぶ日も暮れた頃、初めてこんなに集中して勉強したからなのか、またテオはレイの膝の上で眠ってしまった。


「寝ちゃった」
「ほとんど勉強したことないんだ。疲れたんだろ」
「連れて帰る?」
「ああ、よっと」


俺はレイの膝にいるテオを抱っこした。テオは全く起きる気配がなかった。侯爵家に行く時に、レイも一緒に着いてきた。テオの勉強の本を選定したいようだった。


「明日もテオの面倒見る気か?」
「どうせ明日も討伐に行けないよ。この嵐だし」


騎士団と侯爵家を繋ぐ外廊下を歩きながら嵐を見る。もしかしたら夜中には収まるかもしれないが、周囲の安全が確認出来なければ出発は出来ないだろう。


「それにテオは覚えがいいよ。まぁ何も知らなかったからかもだけど、理解が早いね」
「天才のお墨付きか」
「ふふ、そうだよ。きっと秀才になるね」


侯爵家に到着し、侯爵閣下と奥方が出迎えてくれた。どうやらニルス団長から話を聞いていたらしく、初めて勉強をしてくれたと大喜びしていた。侯爵閣下はレイを教師として雇おうとし始めたが、レイは断った。討伐の間だけは面倒を見るのだけ了承をした。


翌日もテオはやってきた。きちんと本と筆記用具を持っていた。


「レイ!昨日の続きからやろう!」
「はいはい」


今日はテーブルでやり始めた。座席はまたしてもレイの膝の上だった。テオはまだ2日目なのに算術をみるみるうちに覚えはじめた。天才は教え方も天才のようだった。

俺は今日も護衛担当だったのだが、大人しくしてくれている分、とても楽だった。


「テオさ、学園に通う気ない?」
「ガクエン?」


レイはテオの顔を覗き込みながら提案した。

学園は今ノアが相談役として宰相補佐と創設しようとしている教育機関のことだ。将来騎士や文官の為の教育を早いうちから行おうとしている。


「そ、学園。色んな人達と勉強する場所。あと少しで完成するんだって」
「……レイは、いないの?」
「僕は別に学園の教師じゃないけど…まぁ学園の方が近いから会おうと思えば会えるよ」
「じゃあ行く」


こうしてテオは、学園の第1期生となるのだった。







次の日、レイはスタンピード発生地点を探し出して封印を施した。ニルス団長は、レイの発生地点を探し出すことと封印の早さに大きく口を開けて驚いていたとクレイグから報告された。

俺は翌日も護衛だったため、テオのところに向かうと真面目に勉強をしていた。歳の割には遅れていた勉学を取り戻そうとしているようだった。



そしてスタンピード封印は終わったため、レイは戻ることになった。


「レイ。起きろ」
「……ぅん」


昨夜の情事を思わせる気怠い雰囲気を身に纏って目を覚ます。残り2ヶ月の辞令を俺は乗り切れるのか不安になるほど、昨日はレイに夢中で貪り尽くしてしまった。レイの身体には、沢山の赤い斑点がついていた。

レイはまだ眠いのか、布団を顔まで被ってしまった。俺はもう一度起こそうと布団に触れようと手を伸ばした。


「……ルーク、早く帰ってきてね」


ボソリと、掠れたレイの声が俺に届いた。

俺は、不安なのは自分だけじゃないことに笑ってしまった。


「もぅ……笑わないでよ……」


布団から目だけ出して抗議するレイ。俺は額にキスを落とした。


「すぐ、帰るよ。レイの所に」
「……また手紙ちょうだい」
「ああ、花と一緒にな」
「ルークの香水もつけて」
「仰せのままに」


俺はもう一度レイの額にキスをして、残りの2ヶ月後も遠距離の手紙のやり取りで楽しむことに決めた。









-------

次章でラストです。
最後まで読んで下さると嬉しいです。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました

あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。 完結済みです。 7回BL大賞エントリーします。 表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...