【完結】泥中の蓮

七咲陸

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side story -レイとルーク-②

蝶よ花よ①

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「え、辞令…?」


情事の終わりに、寝転んでルークから水を受け取りながら聞いたのは、まさしく寝耳に水な話だった。

お互いに裸のまま、ルークはベッド端に腰掛けており溜息をついていた。


「つっても、3ヶ月くらいだけどな」
「普通最近結婚した人からは選ばなくない?」
「…グウェン様にはまだ返事はしてない」


隠居なさった公爵元当主様から、グウェンが騎士団統括に代替わりした矢先だった。

王城で勤めているのも随分エリートではあるが、今後の昇格はやはり経験を積むしかない。ルークとしてもこれはチャンスだと思っているに違いない。

もしかしたらグウェンは、ルークを右腕にしたいと考えているのかもしれない。

そうは言っても、配偶者がいる人間が選ばれるのは珍しい方だ。なおかつ、まだ婚姻関係を結んでからそんなに日は経っていない。


「俺的にはまぁ、ここで行っとけば今後楽になると思ってる」
「それは、そうかもだけど…」


ルークは騎士団は表向きで、裏では潜入やら情報操作やら、僕にもあまり言わない仕事をしていると聞いた。参加出来ていなかった演習や討伐などがあったに違いない。

グウェンや公爵元当主様は事情を知っているからルークの不参加は不問としていた。しかし、裏での働きを評価して昇格すれば、表しか知らない団員たちからは不満が出てくるのは必然だ。

やはり、昇格を望むのならば辞令に従う以外の選択肢はありえない。


「よく、グウェンが返事を待ってくれたね」
「…お前と良く相談しろってさ。こないだのノアとの喧嘩でグウェン様も身に染みたんだろ」


つい先日、ノアとグウェンはお互いが忙しくて気持ちがほんの少しズレて喧嘩した。あの時のグウェンは死にそうなほど落ち込んでいた。

そもそも、辞令など強制なのが普通だ。しかしルークの意思を尊重して返事を待つというのは少しばかり身内贔屓なのかもしれない。グウェンも情に厚くないと自分で言っているが、冷たい人間ではない。


「レイ、お前の考えは?」
「うーん…」


正直、行って欲しくはない。恋人からようやく書類上でもパートナーとなれて日も浅い。今が1番蜜月期と呼ばれる時期ではある。

かと言って、ルークの仕事を邪魔したい訳でもない。休みの日も自分の仕事の手伝いをしてくれたりいつも支えてくれている。そんなルークの邪魔をする事は本意ではない。

けれど、ルークの中ではもしかしたら、決定しているのかもしれない。ルークから受け取ったコップの水の波紋を見ながらそう思った。


「んー…」
「そんなに悩むか?」
「悩むよ。行って欲しいような、行って欲しくないような…」


するとルークはふ、と笑って寝転がっている自分の方に腰を屈めて、リップ音もしないような触れるだけのキスをしてきた。

離れる時のルークの表情は、嬉しそうな、でも少し寂しそうだった。


「…すぐ終わるよ」


ルークは小さくそう言った。やはり、ルークの中では決まっていた話だった。

自分の意見も聞いておいて、行かないでと言ったら説得するつもりだったのだ。この男は本当に狡猾だ。


「分かった。待ってる」


そう言うと、ルークは満足そうな中にも寂しそうな微笑みを見せながら、自分の頬に触れる。触れた手が気持ちよくて、自分からも手にすり寄せた。


「寂しいから、手紙くらいはちょうだい」
「ふ、花もつけてか?」
「当たり前でしょ」


水の入ったコップを取り上げられて、もう一度屈んだルークに今度は深い口付けをされ、ルークの愛欲を思わせる手の動きに身を委ねることにした。

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