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3章
王は君臨すれども統制管理はしきれない※
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父の力を使うのはこれで何度目になるだろうか。今回の件を公爵家当主の父にすると、すぐに陛下と話せるように手筈を整えてくれた。
父は本当にノアやレイのことになると甘い。果たして自分の時はこんな風にしてくれるのか疑問に感じるくらいには手厚い保護をしている。
そもそも婚約を決めた理由も、父と母は本気でレイを心配したからだ。父と母は俺とは違い情に厚い所がある。ノアに変わった時もすぐに受け入れた。
ノアには言っていないが、刺繍を最初に買ったのは父だ。父はそのことが恥ずかしいのかノアに内緒にしている。
「ソフィアが、君の奥方に……?」
「はい。本日もどうやら先触れもなく来ているとの報告を受けました」
「はあああああ……」
まるでどこかの宰相を思い出すほど具合の悪そうに陛下は大きなため息をついた。陛下にとってもあの王女は頭痛の原因となっているようだった。
「私には直接仰らないのですが、どうやら妻には離縁を勧めているようで…」
「ああああ……」
玉座ではなく、応接間で話しているのは珍しい。陛下も身内の恥の話だと思い、応接間を選んでいるようだった。
「王が簡単に頭を下げてはならんことはよく分かっている。分かっているが……本当に申し訳ない…」
「本当に頭をお下げにならないでください!文句を言いたいわけではなく、出来れば言いたいことは妻に言わず、私に言って欲しいのです」
「……分かった。伝えておく……それと、貴族の礼儀もちゃんとしろと…」
陛下の心労が心配になるくらいにはため息が大きい。政治で悩むより重い悩みのようだ。
「そもそもソフィアの母も頭が痛い原因なのだよ」
「親子で……ご心中お察し致します」
「親は私がソフィアを認知したことで落ち着いたが、ソフィアはどうも甘やかされすぎていてな……私も会う時は厳しく言っているんだが、まるで聞いてないかのように理解してくれない……」
そういうとソフィアがどうしてあのようになったのか、経緯を説明しだした。おそらく陛下は誰かに聞いて欲しかったのだろう。身内の恥を吐き出したいほど辛いのかと思うと聞くしかなかった。
踊り子として活躍していたソフィアの母は、陛下と一夜だけ寝所を共にした。
しばらくして、ソフィアの母は妊娠が発覚。認知することをせがんできた。たった一夜共にしただけとはいえ、事実はある。陛下は渋々側室へ入れた。
側室に入ってからも、ソフィアの母は第1夫人よりも散財したり、礼儀を欠いたり問題行動が多かった。それなりに教育係も入れてみたが効果はなく、陛下も他の夫人を宥めるのが大変だったようだ。
そして、その娘のソフィアは母親の血を大きく受け継いだ。
パーティーの席で母親が踊り子だったことを揶揄されたら大暴れ、婚約者が決まったと引き合せると顔が気に入らないと魔法で相手の顔を変えようとしたり、他の王女の婚約者がいるのにパーティーを荒らしたり、あれが欲しい、これが欲しいと駄々を捏ねたり……
とにかく他の夫人たちやお子達もかかわり合いになりたくないとばかりにソフィアのことは見ないことに決めたらしい。
いじめがないのはいい事だが、それが余計に彼女の顔を大きくさせてしまった。
「あの子は多分、本気で君が離縁すれば、結婚できると思っているんだ……」
「……離縁しませんが、したとしても、結婚は……」
「ああ、そうだろう。もうアレを聞いてしまったらそうなるだろう!あああああ……」
話したのは陛下だが、それは言わないでおく。
「……というわけで、陛下も謝っていた」
「昨日の今日で陛下に会えたの?!」
寝室にてグウェンの報告を聞いて驚く。多忙な国王に会うのは普通は何日も前に許可がいる。公爵様の力を使ったからと言ってすぐさまとは行かないはず。
「……陛下は相当頭を抱えてらっしゃるようで、ソフィア王女の名前を出した途端に会ってくださったよ」
「…す、すごいね……」
「王女に何か言われたか?」
グウェンには、今日王女ともう一度会っていることが報告されている。心配そうな顔つきで俺を見ていた。
「うん、色々言われたけど…なんか、レイやアイリスが怒ってくれたらスッキリした」
「…そうか。ノア、君に味方が沢山いて良かった」
「うん。……グウェンも、ありがとう、本当に陛下に言ってくれて」
グウェンは俺に誠意を尽くしてくれた。本当ならばほっといていい案件だ。後継者に関しては養子をとる事で、陛下に認められて婚姻関係を結んでいる。これ以上ひっくり返される事ではない。それでもグウェンは、俺のために出来ることをしてくれたのだ。
グウェンにギュッと抱きつくと、グウェンも腕を背中に回してくれた。包まれた体温が心地よくて、目を瞑って鼓動を感じた。
「今度来ても、もう対応しなくていい。アイリスとスイレンにも中に入れるなと伝えておく」
「……ふふ、グウェンに俺、囲いこまれるの?」
「そうだ、深窓の麗人だ」
「深窓の麗人って…ふふ。ふっ…」
思わず笑ってしまった。そんな言うほどでもないことは自分が1番わかっている。けれどグウェンにそう言われるのは悪くない気分だ。
「ところで」
「?」
「そろそろ君を可愛がりたいんだが、今日のご機嫌はどうだ?」
「…ふ、ふふ……なにそれ、気にしてたの?」
前に手を振り払われたことがよっぽどショックだったらしい。
「あんな断られ方されてみろ、トラウマだぞ」
「ごめんって」
「謝罪はいらない。君自身が慰めてくれ」
「……仰せのままに」
グウェンの方を見上げると、黒い瞳が切なげに欲を持って揺れている。俺は吸い込まれるように唇を重ねた。
寝室から見える月が好きだ。月の優雅な様は俺の心を良く穏やかにしてくれる。
相対するように、彼の瞳が好きだ。どこまでも漆黒なのに、黒の中にも見える煌めいた光に夢中にさせられる。
次に作る刺繍は、夜と月が良いな、と思う。
「っは、余所見とは、余裕だな」
「んっ……っあん!」
目の前の男の瞳が、飢えた獣のように情欲の増した色を帯びた。何故自分が他のことを考えたことがわかるのだろう。考えたと言っても、結局は自分とグウェンの事しか考えていないも同然の考え事をぼんやり思っていただけだが。
「……ん、グウェンの、瞳……ぁっ! 好きだなって」
あられも無い姿で揺さぶられ、剛直を貫かれながらたどたどしく答える。グウェンの瞳が嬉しそうに揺れていた。
「眼だけか?」
「っあ! んっ…グウェンのこの太くて長いのも、好きっん!」
結合している部分からグウェンの剛直に触れると、自分の中で更に増してくるのを感じた。じゅぷじゅぷと卑猥な水音が、まるで自分のイヤらしさを表現するように部屋全体に響いている。
「今日は素直だな」
「んっ、んっ! グウェンの事、好きだなぁって、思ったから、ぁ!」
「機嫌取りか?」
「ん、それもちょっと、ぁ、あるけど……っん! はぁ、グウェンとこうなってから、自分はつくづく幸せだって感じたんだ」
グウェンがいて、レイがいて、ルークもいる。アイリスやスイレンもメイドの領分を越えるように思ってくれている。執事も、本当は自分の事で後悔するくらい思ってくれていた。王女に何を言われようが、大切な人達が自分を思ってくれていることが嬉しくてたまらなかった。
グウェンの動きが止まる。俺の髪を撫でながら、切なそうに俺の事を見る。
「俺は、いつも君が傷ついている時に間に合わない。自分の不甲斐なさを痛感させられる」
「……傷がついても、癒してくれてる」
ゴードリックの時も、レデリート殿下の時もグウェンはずっと抱きしめてくれた。
今回の王女の件でも、俺が傷ついているのが分かって、陛下にまで進言してくれている。それがどんなに大変なことか、俺でも分からない訳では無い。
「そんなのは当たり前だ。だが本当ならば傷ついて欲しくない」
「ふふ、だから、深窓の麗人?」
「そうだ。後のことは俺が何とかする。俺を信じて待っててくれ」
「……うん……じゃあ今は、癒して?」
「……お易い御用だ」
夜と月がひとつになって、融ける。
父は本当にノアやレイのことになると甘い。果たして自分の時はこんな風にしてくれるのか疑問に感じるくらいには手厚い保護をしている。
そもそも婚約を決めた理由も、父と母は本気でレイを心配したからだ。父と母は俺とは違い情に厚い所がある。ノアに変わった時もすぐに受け入れた。
ノアには言っていないが、刺繍を最初に買ったのは父だ。父はそのことが恥ずかしいのかノアに内緒にしている。
「ソフィアが、君の奥方に……?」
「はい。本日もどうやら先触れもなく来ているとの報告を受けました」
「はあああああ……」
まるでどこかの宰相を思い出すほど具合の悪そうに陛下は大きなため息をついた。陛下にとってもあの王女は頭痛の原因となっているようだった。
「私には直接仰らないのですが、どうやら妻には離縁を勧めているようで…」
「ああああ……」
玉座ではなく、応接間で話しているのは珍しい。陛下も身内の恥の話だと思い、応接間を選んでいるようだった。
「王が簡単に頭を下げてはならんことはよく分かっている。分かっているが……本当に申し訳ない…」
「本当に頭をお下げにならないでください!文句を言いたいわけではなく、出来れば言いたいことは妻に言わず、私に言って欲しいのです」
「……分かった。伝えておく……それと、貴族の礼儀もちゃんとしろと…」
陛下の心労が心配になるくらいにはため息が大きい。政治で悩むより重い悩みのようだ。
「そもそもソフィアの母も頭が痛い原因なのだよ」
「親子で……ご心中お察し致します」
「親は私がソフィアを認知したことで落ち着いたが、ソフィアはどうも甘やかされすぎていてな……私も会う時は厳しく言っているんだが、まるで聞いてないかのように理解してくれない……」
そういうとソフィアがどうしてあのようになったのか、経緯を説明しだした。おそらく陛下は誰かに聞いて欲しかったのだろう。身内の恥を吐き出したいほど辛いのかと思うと聞くしかなかった。
踊り子として活躍していたソフィアの母は、陛下と一夜だけ寝所を共にした。
しばらくして、ソフィアの母は妊娠が発覚。認知することをせがんできた。たった一夜共にしただけとはいえ、事実はある。陛下は渋々側室へ入れた。
側室に入ってからも、ソフィアの母は第1夫人よりも散財したり、礼儀を欠いたり問題行動が多かった。それなりに教育係も入れてみたが効果はなく、陛下も他の夫人を宥めるのが大変だったようだ。
そして、その娘のソフィアは母親の血を大きく受け継いだ。
パーティーの席で母親が踊り子だったことを揶揄されたら大暴れ、婚約者が決まったと引き合せると顔が気に入らないと魔法で相手の顔を変えようとしたり、他の王女の婚約者がいるのにパーティーを荒らしたり、あれが欲しい、これが欲しいと駄々を捏ねたり……
とにかく他の夫人たちやお子達もかかわり合いになりたくないとばかりにソフィアのことは見ないことに決めたらしい。
いじめがないのはいい事だが、それが余計に彼女の顔を大きくさせてしまった。
「あの子は多分、本気で君が離縁すれば、結婚できると思っているんだ……」
「……離縁しませんが、したとしても、結婚は……」
「ああ、そうだろう。もうアレを聞いてしまったらそうなるだろう!あああああ……」
話したのは陛下だが、それは言わないでおく。
「……というわけで、陛下も謝っていた」
「昨日の今日で陛下に会えたの?!」
寝室にてグウェンの報告を聞いて驚く。多忙な国王に会うのは普通は何日も前に許可がいる。公爵様の力を使ったからと言ってすぐさまとは行かないはず。
「……陛下は相当頭を抱えてらっしゃるようで、ソフィア王女の名前を出した途端に会ってくださったよ」
「…す、すごいね……」
「王女に何か言われたか?」
グウェンには、今日王女ともう一度会っていることが報告されている。心配そうな顔つきで俺を見ていた。
「うん、色々言われたけど…なんか、レイやアイリスが怒ってくれたらスッキリした」
「…そうか。ノア、君に味方が沢山いて良かった」
「うん。……グウェンも、ありがとう、本当に陛下に言ってくれて」
グウェンは俺に誠意を尽くしてくれた。本当ならばほっといていい案件だ。後継者に関しては養子をとる事で、陛下に認められて婚姻関係を結んでいる。これ以上ひっくり返される事ではない。それでもグウェンは、俺のために出来ることをしてくれたのだ。
グウェンにギュッと抱きつくと、グウェンも腕を背中に回してくれた。包まれた体温が心地よくて、目を瞑って鼓動を感じた。
「今度来ても、もう対応しなくていい。アイリスとスイレンにも中に入れるなと伝えておく」
「……ふふ、グウェンに俺、囲いこまれるの?」
「そうだ、深窓の麗人だ」
「深窓の麗人って…ふふ。ふっ…」
思わず笑ってしまった。そんな言うほどでもないことは自分が1番わかっている。けれどグウェンにそう言われるのは悪くない気分だ。
「ところで」
「?」
「そろそろ君を可愛がりたいんだが、今日のご機嫌はどうだ?」
「…ふ、ふふ……なにそれ、気にしてたの?」
前に手を振り払われたことがよっぽどショックだったらしい。
「あんな断られ方されてみろ、トラウマだぞ」
「ごめんって」
「謝罪はいらない。君自身が慰めてくれ」
「……仰せのままに」
グウェンの方を見上げると、黒い瞳が切なげに欲を持って揺れている。俺は吸い込まれるように唇を重ねた。
寝室から見える月が好きだ。月の優雅な様は俺の心を良く穏やかにしてくれる。
相対するように、彼の瞳が好きだ。どこまでも漆黒なのに、黒の中にも見える煌めいた光に夢中にさせられる。
次に作る刺繍は、夜と月が良いな、と思う。
「っは、余所見とは、余裕だな」
「んっ……っあん!」
目の前の男の瞳が、飢えた獣のように情欲の増した色を帯びた。何故自分が他のことを考えたことがわかるのだろう。考えたと言っても、結局は自分とグウェンの事しか考えていないも同然の考え事をぼんやり思っていただけだが。
「……ん、グウェンの、瞳……ぁっ! 好きだなって」
あられも無い姿で揺さぶられ、剛直を貫かれながらたどたどしく答える。グウェンの瞳が嬉しそうに揺れていた。
「眼だけか?」
「っあ! んっ…グウェンのこの太くて長いのも、好きっん!」
結合している部分からグウェンの剛直に触れると、自分の中で更に増してくるのを感じた。じゅぷじゅぷと卑猥な水音が、まるで自分のイヤらしさを表現するように部屋全体に響いている。
「今日は素直だな」
「んっ、んっ! グウェンの事、好きだなぁって、思ったから、ぁ!」
「機嫌取りか?」
「ん、それもちょっと、ぁ、あるけど……っん! はぁ、グウェンとこうなってから、自分はつくづく幸せだって感じたんだ」
グウェンがいて、レイがいて、ルークもいる。アイリスやスイレンもメイドの領分を越えるように思ってくれている。執事も、本当は自分の事で後悔するくらい思ってくれていた。王女に何を言われようが、大切な人達が自分を思ってくれていることが嬉しくてたまらなかった。
グウェンの動きが止まる。俺の髪を撫でながら、切なそうに俺の事を見る。
「俺は、いつも君が傷ついている時に間に合わない。自分の不甲斐なさを痛感させられる」
「……傷がついても、癒してくれてる」
ゴードリックの時も、レデリート殿下の時もグウェンはずっと抱きしめてくれた。
今回の王女の件でも、俺が傷ついているのが分かって、陛下にまで進言してくれている。それがどんなに大変なことか、俺でも分からない訳では無い。
「そんなのは当たり前だ。だが本当ならば傷ついて欲しくない」
「ふふ、だから、深窓の麗人?」
「そうだ。後のことは俺が何とかする。俺を信じて待っててくれ」
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