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3章
怒りは敵と思うも慎むのは無理な話
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「い……いやいやいや、殿下、いやいや……!」
グウェンと結婚したい? 俺は混乱した。目の前の王女はニコニコと表情を崩さない。レイとルークもさすがに驚いたまま固まっていた。
「わたくし、グウェン様に運命を感じたのです」
「う、運命……」
「そうですわ。もうあの方しか有り得ませんの」
何を仰っているんだ。配偶者の前で、運命だから二股を許せと言っているのか? 俺は何をいえばいいのか答えが分からず、言葉に詰まった。
「殿下、聞いてもよろしいでしょうか?」
「レイ様、でしたかしら?ええ、構わないわ」
「ありがとう存じます。グウェンとはいつお会いになられたんですか?」
「……あの方とは最近お会い致しました…わたくし、王宮を1度でいいから出たいと思ってしまって。そしたらわたくしのことを探してくださっていたのがグウェン様でした。初めて外に出たものですから、すぐ疲れてしまって…座り込んでしまった所で、あの方は白馬に乗った王子様の如く現れたんですの!」
一息で話す王女の話にレイは我慢できず吹き出していた。恐らく白馬の王子を想像したのだろう。ルークも顔を逸らして震えている。
「そ、それで……結婚ですか……」
「ええ、なのでまずは先にご結婚なさっているノア様とお話した方が良いかと思いまして、お誘いしたんですの」
それは正々堂々やり合うためなのか?あまり俺を呼んだ意図が読めず、不思議に思う。
「で、ですが殿下。グウェンは既に私と婚姻しておりまして……もう陛下のお許しも頂いておりますので……」
なんとか王女に対抗すべく、事実のみを伝えた。普通の感覚なら諦めるのでは?と思ったが、ここは異世界で貴族だったことを忘れていたことに気付かされた。
「それは良いんですのよ」
「よ、良いとは……?」
「わたくしも王女です。側室の1人や2人居たってなんとも思いませんわ」
「そっ……!」
ルークとレイはまだ震えている。
あろう事かこの王女は正室……本妻の座を横からかっさらおうとしてきた。しかも宣言もして。
「側室も許さない心の狭いことは言いませんわ」
「……ちょ、ちょっと待ってください。そもそもグウェンの意思は聞いているのですか?」
「あの方もきっと思っていますわ。わたくしと一緒になりたいと」
どんな自信なんだ。そもそも会話もしたことない程度にしか思われていないことを言っていいものか。思わず叫び出したい衝動を理性で押さえつけた。
「ノア様、ちょっと言いたいことがありますの」
「え……?」
「ノア様は子爵家のお方でしょう?あの方は公爵家ですし……家格の程度が知れておりますわ」
ピキっと頭の血管がなる音が聞こえた。
「それに、貴族の嗜みとしてだけでなく、刺繍でお金のやり取りをなさっているんですって?少し卑しいと思いますわ」
握り拳をいつの間にか作っていることに気づいた。笑顔は崩さなかったが、王女が発言する度にどす黒い何かが湧き上がってくるのが分かる。
「ですけど、わたくしは寛大な心で全て飲み込みますわ。子爵家で刺繍を趣味や特技以上のものにしてる側室でも許しますの」
「よろしいでしょうか……?」
ほんと、なんなんだこいつ。まじで。
つい心の中の口調が荒くなる。口に出さないだけ偉いと思った。レイとルークはさっきまで笑いをこらえていたにも関わらず、今は落ち着け、と青い顔をしていた。
「なんです?」
「殿下の運命はグウェンということでよろしいでしょうか?」
「ええ、その通りよ」
「……ふふ、ではグウェンの運命は?」
「それはもちろんわたくしに決まっております」
違ぇに決まってんだろ!ここに!結婚までした配偶者が!目の前に!いるんだが!
と叫びたいのを必死に抑えた。抑えて、なんとか話を続ける。
「グウェンは私と結婚したのです」
「ええ、そうね。どうして貴方なのか分からないですわ」
「……ぁ?頭沸いて」
「わー!ノア!ちょっと落ち着こ!落ち着いて!」
「いやー!すみません!殿下、ちょっと側室とかいきなり聞いたもんだからびっくりしちゃってんですよ!」
俺の不敬な発言をどうにか2人がフォローする。王女はよく分からなかったようで頭を傾けた。
「そう、どうして貴方なんですの? その隣にいらっしゃるレイ様のがお可愛らしいですのに。グウェン様ったら、少し毛色が変わった方が好きなのかしら」
俺は恐らく、頭の血管の寿命が3年は縮んだと思う。
「女性に向かって暴言を吐きそうになったのは初めてだ」
屋敷に戻って、机の上で拳を両手で作る。拳は怒りで震えていた。
レイとルークはもはや笑い事じゃなさそうだと思っているのか、まぁまぁ、と俺をどうにか落ち着かせようとしていた。
「いや、すげぇな。王女といえど、あれは敵が多そうだ」
「あ、僕聞いたことあるよ。なんだっけ……『翠髪の暴虐姫』って呼ばれてるんだよねぇ」
「ああ、あれがあの王女か」
「?なに?それ」
2人は王女の噂を知っているようで納得していた。俺はそもそも引きこもりだし、夜会なども出たことがなかったのでよく知らなかった。
「子供の頃に、踊り子の母親を馬鹿にされたと思ってパーティ会場で大暴れしたらしいんだよねぇ」
レイが言うには、第6王女は陛下の8番目の側室で、陛下が踊り子に一目惚れして子を成してしまったらしい。しまったというのは、陛下は子供を作る気はなかったらしい。
「とんでもなく傍若無人だって噂されてたけど、その通りの王女だったね」
「グウェンが愛人を作っていたのかと一瞬本気で思うくらいには自信満々だったぞ!」
「ノア落ち着けよ。いや、確かに、なんであんな自信満々なんだ?」
「知らないよ!うわー!もうなんなんだよー!」
頭をガシガシ掻き乱しながら、俺はむしゃくしゃした気持ちをどうすればいいのか分からなかった。
「どうしたんだ?」
原因が帰ってきた。
「浮気してん」
「ノア!落ち着いてノア!」
「お疲れ様です。いやー、グウェン様、今日来なくて正解でしたよ」
グウェンは訳が分からないと言った顔をしている。レイに口を押さえつけられてモゴモゴするしかできない中、ルークがお茶会の様子を説明した。グウェンはサァッと顔色が土黄色になった。
「なぜそんなことに……?」
「いやーやばかったですよ。ノアが頭沸いてんのかって言いかけた時はさすがにこっちの心臓が止まるかと思いましたよ」
「実際沸いてただろうが」
「ノア、どうどう」
俺の口の悪さが増してきている。しかし、あの王女に一言言ってやらないと気が済まないのも事実だ。
「なんか白馬の王子とか言ってたけど、グウェン、ホントなの?」
レイの疑問に、グウェンはうーん、と考え込む。思い出すのに少しの時間がかかり、あ、と声を出す。
「あれは確か……」
よく晴れた日だった。庭園の花はいつも通り綺麗に咲き誇っていた。今日は王宮へ討伐完了の報告をしに来たのだが、いつもより早く報告が終わり、少しだけ周りを見ていく余裕があった。
「ソフィア様、ソフィア様!」
侍女だろうか。あんな大きな声で探されて、周りのもの達はヒソヒソとしていた。
「ああ、どうしましょう……」
……なんで俺の前で立ち止まって泣くんだ?
「あの、先を急ぐんだが」
何となく厄介そうだったので俺は嘘をつくことにした。騎士にとって有るまじき行為かも知れないが、俺を狙ってチラチラしているので関わってはならないと思わされた。
「そんなこと言わないでくださいー! 第6王女のソフィア様が居なくなられたのです!探してください!」
「……」
理由なんか聞いていない。なぜこの侍女は勝手に話すんだ。一応目上のものだと分かるはずなんだが。
「お願い致します!」
「お、おい!」
侍女はそう言ってどこかに走っていってしまった。周りのものは皆目を逸らして関わりたくないというオーラが出ている。
「はぁ……」
とりあえず、周囲を探すがなんの手がかりもない。
仕方なしに馬に乗って更に範囲を広げた所、門の前に座り込んでいる王女らしき人物を見つけた。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけると、王女は目を潤ませながら見上げてきた。
「……はい、あの、お名前を……」
「いや、名乗るほどではない。従者が探しておいででしたよ。戻りましょう」
「……あの」
俺が馬を降りて歩こうとすると、王女はまた声をかけてきた。歩けないのだろうか。馬に乗せるしかないな、と思っていたら
「運命を信じてくださいますか?」
……なんだ?新手の宗教勧誘かなにかか……?いや、相手は王女だ。きっと本気で聞いているに違いない。
「……まぁ、そうですね。信じます」
ノアが運命か、と聞かれればイエスだ。初めてノアを見た時から離れたくないと思った。実際は婚約者は別で、落ち込んだが、紆余曲折あって結婚に至ったのは運命といって差し支えないだろう。
「!そうでございますか!」
そう言って、走り去ってしまった。
経緯を説明され、ドヨンと重い雲を背負うかの如く暗くなっていくのが分かる。
「それじゃん……」
「本当に少し話しただけだ!」
「てかグウェン白馬に乗ったの?想像だけでちょっと笑いそう」
「普通の軍馬だ!」
「すごい夢見がちな王女様だな…」
王女としてどうなのかというような行動と言動は夢みる乙女のフィルターがそうさせているのか。
「てか、公爵家で結婚する気なら側室じゃなくて愛人だよねぇ」
「え、あの女、俺に離婚しろって言ってたの」
「ノア、お前まじで口調ヤバいぞ」
ルークの窘める言葉も聞いていられないくらいイライラしているのは分かっている。
グウェンはうーんと困った顔をしていた。
そもそも、王女に何を言われようとも、こちらは陛下に許可を貰って婚姻関係を結んでいる。王女1人で陛下の決定を覆すことはできない。こちらから何か動く必要もあまり感じていないようだった。
「不倫される妻の気持ちが分かる気がする」
「いや、不倫はしてないでしょ」
「レイ、ごめん……」
「僕はなんとも思ってないけどねぇ」
過去、略奪した経緯がある自分は、レイに対する罪悪感が巻き戻ってきた。レイ自身はこともなげに返答してくる。
「今はノアが夫人なんだから、自信持って堂々としてればいいよ!」
「れ、レイ~~~……」
どこまでも優しい兄に泣き尽くすしか、俺が癒される方法はなかった。
グウェンと結婚したい? 俺は混乱した。目の前の王女はニコニコと表情を崩さない。レイとルークもさすがに驚いたまま固まっていた。
「わたくし、グウェン様に運命を感じたのです」
「う、運命……」
「そうですわ。もうあの方しか有り得ませんの」
何を仰っているんだ。配偶者の前で、運命だから二股を許せと言っているのか? 俺は何をいえばいいのか答えが分からず、言葉に詰まった。
「殿下、聞いてもよろしいでしょうか?」
「レイ様、でしたかしら?ええ、構わないわ」
「ありがとう存じます。グウェンとはいつお会いになられたんですか?」
「……あの方とは最近お会い致しました…わたくし、王宮を1度でいいから出たいと思ってしまって。そしたらわたくしのことを探してくださっていたのがグウェン様でした。初めて外に出たものですから、すぐ疲れてしまって…座り込んでしまった所で、あの方は白馬に乗った王子様の如く現れたんですの!」
一息で話す王女の話にレイは我慢できず吹き出していた。恐らく白馬の王子を想像したのだろう。ルークも顔を逸らして震えている。
「そ、それで……結婚ですか……」
「ええ、なのでまずは先にご結婚なさっているノア様とお話した方が良いかと思いまして、お誘いしたんですの」
それは正々堂々やり合うためなのか?あまり俺を呼んだ意図が読めず、不思議に思う。
「で、ですが殿下。グウェンは既に私と婚姻しておりまして……もう陛下のお許しも頂いておりますので……」
なんとか王女に対抗すべく、事実のみを伝えた。普通の感覚なら諦めるのでは?と思ったが、ここは異世界で貴族だったことを忘れていたことに気付かされた。
「それは良いんですのよ」
「よ、良いとは……?」
「わたくしも王女です。側室の1人や2人居たってなんとも思いませんわ」
「そっ……!」
ルークとレイはまだ震えている。
あろう事かこの王女は正室……本妻の座を横からかっさらおうとしてきた。しかも宣言もして。
「側室も許さない心の狭いことは言いませんわ」
「……ちょ、ちょっと待ってください。そもそもグウェンの意思は聞いているのですか?」
「あの方もきっと思っていますわ。わたくしと一緒になりたいと」
どんな自信なんだ。そもそも会話もしたことない程度にしか思われていないことを言っていいものか。思わず叫び出したい衝動を理性で押さえつけた。
「ノア様、ちょっと言いたいことがありますの」
「え……?」
「ノア様は子爵家のお方でしょう?あの方は公爵家ですし……家格の程度が知れておりますわ」
ピキっと頭の血管がなる音が聞こえた。
「それに、貴族の嗜みとしてだけでなく、刺繍でお金のやり取りをなさっているんですって?少し卑しいと思いますわ」
握り拳をいつの間にか作っていることに気づいた。笑顔は崩さなかったが、王女が発言する度にどす黒い何かが湧き上がってくるのが分かる。
「ですけど、わたくしは寛大な心で全て飲み込みますわ。子爵家で刺繍を趣味や特技以上のものにしてる側室でも許しますの」
「よろしいでしょうか……?」
ほんと、なんなんだこいつ。まじで。
つい心の中の口調が荒くなる。口に出さないだけ偉いと思った。レイとルークはさっきまで笑いをこらえていたにも関わらず、今は落ち着け、と青い顔をしていた。
「なんです?」
「殿下の運命はグウェンということでよろしいでしょうか?」
「ええ、その通りよ」
「……ふふ、ではグウェンの運命は?」
「それはもちろんわたくしに決まっております」
違ぇに決まってんだろ!ここに!結婚までした配偶者が!目の前に!いるんだが!
と叫びたいのを必死に抑えた。抑えて、なんとか話を続ける。
「グウェンは私と結婚したのです」
「ええ、そうね。どうして貴方なのか分からないですわ」
「……ぁ?頭沸いて」
「わー!ノア!ちょっと落ち着こ!落ち着いて!」
「いやー!すみません!殿下、ちょっと側室とかいきなり聞いたもんだからびっくりしちゃってんですよ!」
俺の不敬な発言をどうにか2人がフォローする。王女はよく分からなかったようで頭を傾けた。
「そう、どうして貴方なんですの? その隣にいらっしゃるレイ様のがお可愛らしいですのに。グウェン様ったら、少し毛色が変わった方が好きなのかしら」
俺は恐らく、頭の血管の寿命が3年は縮んだと思う。
「女性に向かって暴言を吐きそうになったのは初めてだ」
屋敷に戻って、机の上で拳を両手で作る。拳は怒りで震えていた。
レイとルークはもはや笑い事じゃなさそうだと思っているのか、まぁまぁ、と俺をどうにか落ち着かせようとしていた。
「いや、すげぇな。王女といえど、あれは敵が多そうだ」
「あ、僕聞いたことあるよ。なんだっけ……『翠髪の暴虐姫』って呼ばれてるんだよねぇ」
「ああ、あれがあの王女か」
「?なに?それ」
2人は王女の噂を知っているようで納得していた。俺はそもそも引きこもりだし、夜会なども出たことがなかったのでよく知らなかった。
「子供の頃に、踊り子の母親を馬鹿にされたと思ってパーティ会場で大暴れしたらしいんだよねぇ」
レイが言うには、第6王女は陛下の8番目の側室で、陛下が踊り子に一目惚れして子を成してしまったらしい。しまったというのは、陛下は子供を作る気はなかったらしい。
「とんでもなく傍若無人だって噂されてたけど、その通りの王女だったね」
「グウェンが愛人を作っていたのかと一瞬本気で思うくらいには自信満々だったぞ!」
「ノア落ち着けよ。いや、確かに、なんであんな自信満々なんだ?」
「知らないよ!うわー!もうなんなんだよー!」
頭をガシガシ掻き乱しながら、俺はむしゃくしゃした気持ちをどうすればいいのか分からなかった。
「どうしたんだ?」
原因が帰ってきた。
「浮気してん」
「ノア!落ち着いてノア!」
「お疲れ様です。いやー、グウェン様、今日来なくて正解でしたよ」
グウェンは訳が分からないと言った顔をしている。レイに口を押さえつけられてモゴモゴするしかできない中、ルークがお茶会の様子を説明した。グウェンはサァッと顔色が土黄色になった。
「なぜそんなことに……?」
「いやーやばかったですよ。ノアが頭沸いてんのかって言いかけた時はさすがにこっちの心臓が止まるかと思いましたよ」
「実際沸いてただろうが」
「ノア、どうどう」
俺の口の悪さが増してきている。しかし、あの王女に一言言ってやらないと気が済まないのも事実だ。
「なんか白馬の王子とか言ってたけど、グウェン、ホントなの?」
レイの疑問に、グウェンはうーん、と考え込む。思い出すのに少しの時間がかかり、あ、と声を出す。
「あれは確か……」
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「ソフィア様、ソフィア様!」
侍女だろうか。あんな大きな声で探されて、周りのもの達はヒソヒソとしていた。
「ああ、どうしましょう……」
……なんで俺の前で立ち止まって泣くんだ?
「あの、先を急ぐんだが」
何となく厄介そうだったので俺は嘘をつくことにした。騎士にとって有るまじき行為かも知れないが、俺を狙ってチラチラしているので関わってはならないと思わされた。
「そんなこと言わないでくださいー! 第6王女のソフィア様が居なくなられたのです!探してください!」
「……」
理由なんか聞いていない。なぜこの侍女は勝手に話すんだ。一応目上のものだと分かるはずなんだが。
「お願い致します!」
「お、おい!」
侍女はそう言ってどこかに走っていってしまった。周りのものは皆目を逸らして関わりたくないというオーラが出ている。
「はぁ……」
とりあえず、周囲を探すがなんの手がかりもない。
仕方なしに馬に乗って更に範囲を広げた所、門の前に座り込んでいる王女らしき人物を見つけた。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけると、王女は目を潤ませながら見上げてきた。
「……はい、あの、お名前を……」
「いや、名乗るほどではない。従者が探しておいででしたよ。戻りましょう」
「……あの」
俺が馬を降りて歩こうとすると、王女はまた声をかけてきた。歩けないのだろうか。馬に乗せるしかないな、と思っていたら
「運命を信じてくださいますか?」
……なんだ?新手の宗教勧誘かなにかか……?いや、相手は王女だ。きっと本気で聞いているに違いない。
「……まぁ、そうですね。信じます」
ノアが運命か、と聞かれればイエスだ。初めてノアを見た時から離れたくないと思った。実際は婚約者は別で、落ち込んだが、紆余曲折あって結婚に至ったのは運命といって差し支えないだろう。
「!そうでございますか!」
そう言って、走り去ってしまった。
経緯を説明され、ドヨンと重い雲を背負うかの如く暗くなっていくのが分かる。
「それじゃん……」
「本当に少し話しただけだ!」
「てかグウェン白馬に乗ったの?想像だけでちょっと笑いそう」
「普通の軍馬だ!」
「すごい夢見がちな王女様だな…」
王女としてどうなのかというような行動と言動は夢みる乙女のフィルターがそうさせているのか。
「てか、公爵家で結婚する気なら側室じゃなくて愛人だよねぇ」
「え、あの女、俺に離婚しろって言ってたの」
「ノア、お前まじで口調ヤバいぞ」
ルークの窘める言葉も聞いていられないくらいイライラしているのは分かっている。
グウェンはうーんと困った顔をしていた。
そもそも、王女に何を言われようとも、こちらは陛下に許可を貰って婚姻関係を結んでいる。王女1人で陛下の決定を覆すことはできない。こちらから何か動く必要もあまり感じていないようだった。
「不倫される妻の気持ちが分かる気がする」
「いや、不倫はしてないでしょ」
「レイ、ごめん……」
「僕はなんとも思ってないけどねぇ」
過去、略奪した経緯がある自分は、レイに対する罪悪感が巻き戻ってきた。レイ自身はこともなげに返答してくる。
「今はノアが夫人なんだから、自信持って堂々としてればいいよ!」
「れ、レイ~~~……」
どこまでも優しい兄に泣き尽くすしか、俺が癒される方法はなかった。
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