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side story -レイとルーク-
レイの恋煩い②
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「それでここにそのまま来たの? 通りで服が軽装すぎると思ったら…」
逃げた先はグウェンとノアの屋敷だった。グウェンは本日は非番のようで2人して庭園で朝食後のお茶を飲んでいるところに潜り込ませてもらった。
あの事件から2ヶ月以上経っていた。ノアとグウェンは幸せそうに結婚して、僕は泣きながら弟を祝福したのが記憶に新しい。
ノアは自分の服装を見て、スイレンに目配せをした。スイレンは察して、自分にカーディガンを掛けてくれたのでお礼を言う。
「だって…よくわかんなくなっちゃったんだもん……」
「だから嫌だったんだよなぁ」
「ノア?」
「なんでもないよ」
ノアは小声でボソボソ言ってるようだったが聞き返したらニコッと微笑まれる。
「はぁ、帰りたくない……」
自分の家なのに、落ち着かなくなってしまった。家は子爵家といえど狭くはない。だからお互いのどちらかが、意志を持って会おうと思わないと会うことは無い。けれど家にいること自体意識している自分には、もはや家は安全地帯では無くなっていた。
「良いんじゃないかな?レイはここに居ても」
「おいノア、それじゃ…」
「ルークが困るかもって?構わないよ。ルークなんか困ればいい」
グウェンがルークに同情するように窘めるが、ノアはトゲトゲしい口調だった。
「レイが落ち着くまでここにいたらいいよ。ルークだって、戻った御者に居場所を聞けばここに居るって分かるだろうし、別に心配も要らないでしょ?」
「……俺は構わないが…」
「はい、決まり。アイリス、スイレン、ここにレイの朝食と部屋の準備して。あとルークに暫くここに来るなって連絡して」
珍しくもノアがグウェンを押している。メイドの2人は、「畏まりました」と言ってテキパキと仕事をこなし始めた。
「はぁ」
「……レイがそんな風に悩んでいるのは初めて見たな。俺と婚約者でいる時にはそんな顔見たこともなかった」
「どんな顔してるのさ……」
「…まぁ有り体に言えば恋してる顔だな……」
「ぶっ」
グウェンの口からそんな言葉が聞かれるとは思ってもなかった。思わず吹き出す。
ノアはニコニコと微笑んでいるが後ろに何となく黒いオーラが感じられた。
「7年婚約者だったが、レイからは親愛を感じても、愛慕のような感情は見られなかった。1年と経たず、レイをそんな風に変えたルークが少し羨ましい」
「な、なにそれ……」
「……そもそも」
グウェンの言葉にたじろいでいると、ノアが続ける
「ルークは最初からずっとレイのことをそういう意味で見ていたし。俺がグウェンと婚約した時からいつかはこうなるとは思ってたよ」
「最初から?!」
「婚約者がグウェンだって聞いて、諦めたんだよ。どう考えても公爵家で騎士団長で上司のグウェンに、侯爵家の8男で騎士団員部下の自分では勝てないってね」
からかわれていてばかりだった自分に、まさか最初から恋心を向けられていたとは思ってもみなかった。
グウェンと破談になった自分に多少の同情から好きになってくれたのだと思っていたからだ。
「まさかレイが恋煩いするとは思ってなかったけど」
「ううう……」
「レイのことだから、そもそもルークに対して今まで恋人って言うより愚痴を聞いてくれる家族くらいにしか思ってなかったでしょ」
「うっ」
「別に意識もしなかったし、良い雰囲気にもならないし」
「ううっ」
「このままズルズル結婚しちゃえば良いやーって感じでしょ」
「うううう……」
グサグサと刺すような指摘に、自分は傷つき、机に突っ伏した。ノアが言ってることはずばりで訂正も否定もできない。
「俺はね。それで良いって思ってたんだよ」
「?」
「そうすれば、レイはルークより弟の俺を優先してくれるしね」
「ノアは1番だよ……?」
「ふふ、そうかなぁ」
自分にとって、ノアは唯一無二だ。おそらくノアにとってもそうだ。それは番号にして表すと1番だ。ノアがいるから自分がいる。ノアがいなくては自分はもう成り立たない。
「交渉が終わって、レイの意識が覚醒したあの瞬間、俺もルークの隣にいたんだよ」
「…?」
「あの時レイはルークしか見てなかったよ」
「!」
「……レイ、俺は気づいたよ。あの時、レイの1番はルークになったんだって」
弟に恋心をこんなに赤裸々に分析されて、羞恥心で顔が紅潮してくる。ノアはお茶を口に含み、ティーカップをソーサーに起きながら「でも」と続ける
「レイは特に何もしなくて良いよ、ルークがちゃんとするまで待っていればいい」
「どういうこと……?」
「ひとつ屋根の下にずっといたにも関わらず、少しずつ少しずつほんっとーにちょっとずつ、レイに意識させてたんだよ。性格が悪すぎる」
「???」
「レイ本当に今まで気づいてなかったの?」
ノアが言っている意味があまりよく分からなかった。少しずつとは?
別にいつも普通だった。おはようと言えば微笑んでくれて、疲れたといえば美味しいお茶を準備してくれて、眠いといえばおやすみとつむじ辺りに軽いキスをされて、仕事中いつの間にか眠っていたら毛布をかけてくれて……
「別に、普通じゃ……」
「…レイはそれはもう、ものすごく献身的に尽くされてるでしょ?」
「……」
「歴代の彼女達にもそういうことをして、意識させて、夢中にさせてるんだ。本当に性格が悪い! 自分からはハマらない主義とか抜かしてる!」
今までの自分が思っていた普通のことは、ルークの打算的な感情からくるものだったと分かり、少しだけゾッとした。
「恋人になって、浮かれてるんだよ。恋人なら対等で在るべきだ。反省させた方がいいんだよ」
「で、でも別に変なこととかされてないし……」
「レイ?まだ分からない?」
「ひっ」
ノアの顔が今まで見たこともないくらいどす黒く微笑んでいる。
「レイが自分の手の中に1ミリずつ落ちてくるのを待ってたんだよ。それはもう蜘蛛のごとく!自分の巣に蝶がかかるのをずーーーーっと待ってるんだ」
「ひぇ…」
「そんな風に夢中にさせられた歴代の彼女たちはどうなるかって、『どんな無茶な要求も頼めばやるようになる、優しく優しく言えば絶対に断らなくなる』そういうセックスが最高に楽しいって言ってね!友人ながらドン引きしたね!」
なにをされたんだろう……歴代の彼女たちは。次は自分の番かと思うと恐怖が少しづつ自分の頭をよぎる。
「つまり、もうレイはルークのどんなお願いも全部聞いてしまうような精神状態にされてるんだよ!」
「…………まさかぁ」
ノアが自分を指しながら叫ぶ。いつになく熱くなるノアに、ちょっと自分は信じられなかった。まさかそんな、そこまでじゃないはずだ。ルークの事が例え好きでも、さすがに嫌なことは嫌と言える。
「僕、そもそも自分でも自覚してるくらいワガママなとこあるし」
「俺はそこが可愛いと思ってるから別にいい」
「人の言うこと聞かないし」
「……確かに」
「ちゃんと自分の意見は言えるよ?」
「……そうだね」
自分の言葉に全て肯定されるのもどうなのか。
ノアはうんうんと頷く。するとノアの勢いに押されていたグウェンがうーん、と悩みながら言う。
「まぁ……ルークも最初から無茶な要求はしないんじゃないか…?」
「……そうだといいけどね」
ノアは納得していないようだった。
逃げた先はグウェンとノアの屋敷だった。グウェンは本日は非番のようで2人して庭園で朝食後のお茶を飲んでいるところに潜り込ませてもらった。
あの事件から2ヶ月以上経っていた。ノアとグウェンは幸せそうに結婚して、僕は泣きながら弟を祝福したのが記憶に新しい。
ノアは自分の服装を見て、スイレンに目配せをした。スイレンは察して、自分にカーディガンを掛けてくれたのでお礼を言う。
「だって…よくわかんなくなっちゃったんだもん……」
「だから嫌だったんだよなぁ」
「ノア?」
「なんでもないよ」
ノアは小声でボソボソ言ってるようだったが聞き返したらニコッと微笑まれる。
「はぁ、帰りたくない……」
自分の家なのに、落ち着かなくなってしまった。家は子爵家といえど狭くはない。だからお互いのどちらかが、意志を持って会おうと思わないと会うことは無い。けれど家にいること自体意識している自分には、もはや家は安全地帯では無くなっていた。
「良いんじゃないかな?レイはここに居ても」
「おいノア、それじゃ…」
「ルークが困るかもって?構わないよ。ルークなんか困ればいい」
グウェンがルークに同情するように窘めるが、ノアはトゲトゲしい口調だった。
「レイが落ち着くまでここにいたらいいよ。ルークだって、戻った御者に居場所を聞けばここに居るって分かるだろうし、別に心配も要らないでしょ?」
「……俺は構わないが…」
「はい、決まり。アイリス、スイレン、ここにレイの朝食と部屋の準備して。あとルークに暫くここに来るなって連絡して」
珍しくもノアがグウェンを押している。メイドの2人は、「畏まりました」と言ってテキパキと仕事をこなし始めた。
「はぁ」
「……レイがそんな風に悩んでいるのは初めて見たな。俺と婚約者でいる時にはそんな顔見たこともなかった」
「どんな顔してるのさ……」
「…まぁ有り体に言えば恋してる顔だな……」
「ぶっ」
グウェンの口からそんな言葉が聞かれるとは思ってもなかった。思わず吹き出す。
ノアはニコニコと微笑んでいるが後ろに何となく黒いオーラが感じられた。
「7年婚約者だったが、レイからは親愛を感じても、愛慕のような感情は見られなかった。1年と経たず、レイをそんな風に変えたルークが少し羨ましい」
「な、なにそれ……」
「……そもそも」
グウェンの言葉にたじろいでいると、ノアが続ける
「ルークは最初からずっとレイのことをそういう意味で見ていたし。俺がグウェンと婚約した時からいつかはこうなるとは思ってたよ」
「最初から?!」
「婚約者がグウェンだって聞いて、諦めたんだよ。どう考えても公爵家で騎士団長で上司のグウェンに、侯爵家の8男で騎士団員部下の自分では勝てないってね」
からかわれていてばかりだった自分に、まさか最初から恋心を向けられていたとは思ってもみなかった。
グウェンと破談になった自分に多少の同情から好きになってくれたのだと思っていたからだ。
「まさかレイが恋煩いするとは思ってなかったけど」
「ううう……」
「レイのことだから、そもそもルークに対して今まで恋人って言うより愚痴を聞いてくれる家族くらいにしか思ってなかったでしょ」
「うっ」
「別に意識もしなかったし、良い雰囲気にもならないし」
「ううっ」
「このままズルズル結婚しちゃえば良いやーって感じでしょ」
「うううう……」
グサグサと刺すような指摘に、自分は傷つき、机に突っ伏した。ノアが言ってることはずばりで訂正も否定もできない。
「俺はね。それで良いって思ってたんだよ」
「?」
「そうすれば、レイはルークより弟の俺を優先してくれるしね」
「ノアは1番だよ……?」
「ふふ、そうかなぁ」
自分にとって、ノアは唯一無二だ。おそらくノアにとってもそうだ。それは番号にして表すと1番だ。ノアがいるから自分がいる。ノアがいなくては自分はもう成り立たない。
「交渉が終わって、レイの意識が覚醒したあの瞬間、俺もルークの隣にいたんだよ」
「…?」
「あの時レイはルークしか見てなかったよ」
「!」
「……レイ、俺は気づいたよ。あの時、レイの1番はルークになったんだって」
弟に恋心をこんなに赤裸々に分析されて、羞恥心で顔が紅潮してくる。ノアはお茶を口に含み、ティーカップをソーサーに起きながら「でも」と続ける
「レイは特に何もしなくて良いよ、ルークがちゃんとするまで待っていればいい」
「どういうこと……?」
「ひとつ屋根の下にずっといたにも関わらず、少しずつ少しずつほんっとーにちょっとずつ、レイに意識させてたんだよ。性格が悪すぎる」
「???」
「レイ本当に今まで気づいてなかったの?」
ノアが言っている意味があまりよく分からなかった。少しずつとは?
別にいつも普通だった。おはようと言えば微笑んでくれて、疲れたといえば美味しいお茶を準備してくれて、眠いといえばおやすみとつむじ辺りに軽いキスをされて、仕事中いつの間にか眠っていたら毛布をかけてくれて……
「別に、普通じゃ……」
「…レイはそれはもう、ものすごく献身的に尽くされてるでしょ?」
「……」
「歴代の彼女達にもそういうことをして、意識させて、夢中にさせてるんだ。本当に性格が悪い! 自分からはハマらない主義とか抜かしてる!」
今までの自分が思っていた普通のことは、ルークの打算的な感情からくるものだったと分かり、少しだけゾッとした。
「恋人になって、浮かれてるんだよ。恋人なら対等で在るべきだ。反省させた方がいいんだよ」
「で、でも別に変なこととかされてないし……」
「レイ?まだ分からない?」
「ひっ」
ノアの顔が今まで見たこともないくらいどす黒く微笑んでいる。
「レイが自分の手の中に1ミリずつ落ちてくるのを待ってたんだよ。それはもう蜘蛛のごとく!自分の巣に蝶がかかるのをずーーーーっと待ってるんだ」
「ひぇ…」
「そんな風に夢中にさせられた歴代の彼女たちはどうなるかって、『どんな無茶な要求も頼めばやるようになる、優しく優しく言えば絶対に断らなくなる』そういうセックスが最高に楽しいって言ってね!友人ながらドン引きしたね!」
なにをされたんだろう……歴代の彼女たちは。次は自分の番かと思うと恐怖が少しづつ自分の頭をよぎる。
「つまり、もうレイはルークのどんなお願いも全部聞いてしまうような精神状態にされてるんだよ!」
「…………まさかぁ」
ノアが自分を指しながら叫ぶ。いつになく熱くなるノアに、ちょっと自分は信じられなかった。まさかそんな、そこまでじゃないはずだ。ルークの事が例え好きでも、さすがに嫌なことは嫌と言える。
「僕、そもそも自分でも自覚してるくらいワガママなとこあるし」
「俺はそこが可愛いと思ってるから別にいい」
「人の言うこと聞かないし」
「……確かに」
「ちゃんと自分の意見は言えるよ?」
「……そうだね」
自分の言葉に全て肯定されるのもどうなのか。
ノアはうんうんと頷く。するとノアの勢いに押されていたグウェンがうーん、と悩みながら言う。
「まぁ……ルークも最初から無茶な要求はしないんじゃないか…?」
「……そうだといいけどね」
ノアは納得していないようだった。
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