38 / 92
side story -レイとルーク-
レイの恋煩い①
しおりを挟む
「はぁ……」
レイ=ローマンドは馬車の中で珍しくため息をついた。
僕は基本的にポジティブで楽天的で猪突猛進である。学生の頃は良く、『悩みなんてなさそう』と言われる程だった。実際、悩みなんて誰かに話す前に自分で解決してきたし、多分これからもそうなるだろうと思っていた。新しい魔法の研究でだって悩む前に行動し、成功させてきた。
なのに、今の自分はため息をつくほど悩んでいる。
それというのも、恋人であるルーク=ヴァレンスが原因だ。しかし彼自身に何か問題がある訳でも不満がある訳でもない。いや、多少の不満はあるかもしれないが、些事でありそこまで目くじらを立てるものはない。けれど、ルークが原因なのだ。
「はあぁ……」
こんなの自分らしくない、とは誰よりも自分が1番よく分かっている。けれど、考えれば考えるほど胸に何かがつかえてこびり付いて取れないのだ。これは僕にとって初めての感情で、グウェンの時だって感じたことがない。
元々グウェンへの気持ちは、それほどと言ってしまえばそれまで。好きという気持ちより、自分より年上の兄のような人への敬愛の方が強かった。けれど今は一体どこを尊敬していたのか分からないほどに、変態化してきてそれは目下弟の悩みとなっているらしい。
「なんでこんな……」
今更。そう。この現状を表現するならば今更という言葉が一番しっくりくる。かと言って人によっては今からでも、という言葉が後に続くかもしれない。別に誰からも責められることはない。
ルークへの恋を自覚したのだ
そこにたどり着くと、身体全体にブワッと熱が上がってくるのを感じる。悩んで、自覚して、恥ずかしくなってを繰り返す。さっきからずっとこんな調子だ。そしてこの気持ちはなんの罪もない。ルークは自分の恋人である。
「ううぅー…」
なのにどうしてか死にたくなってくるほど恥ずかしいのだ。気持ちに体がついていかない。
ルークは最近子爵家である自分の家に泊まることが多い。家には使用人以外はレイ本人しか居ないため、部屋は沢山あるし、愚痴相手として有難く居てもらっていた。
自分の中でのルークの立ち位置は、今まで恋人ではなかった。
いや、誕生日パーティでキスをされた時から恋人だったはずなのに、あれ以降そういう雰囲気にもならなかった。ルークも特にアプローチもしてこなかった。だから家にいてもドキドキもしなければ、恋人という括りになったことに多少の疑問も感じていた。
先の事件、最低最悪の状況で純潔を奪われた時に絶望した。色んなことが駆け巡った。
どうして僕が。
どうしてこんなことに。
こんな辛い思いをノアは今まで抱えていたのか。
ノアも助けたい。自分もノアと一緒に助かりたい。
助けて。
誰か。
ルーク
身体の自由を奪われ、頭が混乱している中で自分が1番強く求めたのは恋人だった。
純潔を奪われた事でルークが自分に対して拒否反応が出てしまったらどうしようか、と多少の思案はあったが、ルークは別段自分に対しての態度を変えることはなかった。自分にはそれがとてもありがたかった。変に気を使われても、触るのを嫌がられてもどちらも自分には耐え難いものだった。ルークにもそれが分かっていたのかもしれない。
だから、今日も普通だったのだ。
朝、多少寝ぼけながら朝食を取ろうと食堂に向かった。前を歩いているルークも同様に食堂に向かっているところだった。後ろから「おはよう」と声を掛けた。これはいつも通りで普通の事だ。
けれど、振り返ったルークが、窓から差し込む朝日でキラキラしていた。
いつもの事だ。なのに。動悸がした。整えてきたであろう髪に少しだけ寝癖がついているのも、グウェンほど筋肉質ではないが鍛え上げられたしなやかな筋肉も、いつもの意地悪そうではない恋人を見る瞳も、少しだけ口端を上げた微笑みも。全部全部。
身体が静止した。何が起きているのか自分でも理解出来なかった。ルークは自分が突然反応しなくなったせいか、心配そうに近づいてくる。
無理だ。
そう思って逃げた。ルークが引き留めようと手を伸ばしてきても、使用人が走っている自分に不思議そうにしているのも分かっていた。けれど無理なものは無理なのだ。
顔はこれ以上ないほど真っ赤だし、誰も追いかけてきてないことが分かって立ち止まったら身体が震えてくるし、立っていられなくてズルズル自分を抱えるように抱きしめて座り込んだ。
「なにこれぇ……」
なんとかフラフラしながら立ち上がって、たまたま御者がいたから馬車に乗り込んだ。
そして、冒頭に戻る。
レイ=ローマンドは馬車の中で珍しくため息をついた。
僕は基本的にポジティブで楽天的で猪突猛進である。学生の頃は良く、『悩みなんてなさそう』と言われる程だった。実際、悩みなんて誰かに話す前に自分で解決してきたし、多分これからもそうなるだろうと思っていた。新しい魔法の研究でだって悩む前に行動し、成功させてきた。
なのに、今の自分はため息をつくほど悩んでいる。
それというのも、恋人であるルーク=ヴァレンスが原因だ。しかし彼自身に何か問題がある訳でも不満がある訳でもない。いや、多少の不満はあるかもしれないが、些事でありそこまで目くじらを立てるものはない。けれど、ルークが原因なのだ。
「はあぁ……」
こんなの自分らしくない、とは誰よりも自分が1番よく分かっている。けれど、考えれば考えるほど胸に何かがつかえてこびり付いて取れないのだ。これは僕にとって初めての感情で、グウェンの時だって感じたことがない。
元々グウェンへの気持ちは、それほどと言ってしまえばそれまで。好きという気持ちより、自分より年上の兄のような人への敬愛の方が強かった。けれど今は一体どこを尊敬していたのか分からないほどに、変態化してきてそれは目下弟の悩みとなっているらしい。
「なんでこんな……」
今更。そう。この現状を表現するならば今更という言葉が一番しっくりくる。かと言って人によっては今からでも、という言葉が後に続くかもしれない。別に誰からも責められることはない。
ルークへの恋を自覚したのだ
そこにたどり着くと、身体全体にブワッと熱が上がってくるのを感じる。悩んで、自覚して、恥ずかしくなってを繰り返す。さっきからずっとこんな調子だ。そしてこの気持ちはなんの罪もない。ルークは自分の恋人である。
「ううぅー…」
なのにどうしてか死にたくなってくるほど恥ずかしいのだ。気持ちに体がついていかない。
ルークは最近子爵家である自分の家に泊まることが多い。家には使用人以外はレイ本人しか居ないため、部屋は沢山あるし、愚痴相手として有難く居てもらっていた。
自分の中でのルークの立ち位置は、今まで恋人ではなかった。
いや、誕生日パーティでキスをされた時から恋人だったはずなのに、あれ以降そういう雰囲気にもならなかった。ルークも特にアプローチもしてこなかった。だから家にいてもドキドキもしなければ、恋人という括りになったことに多少の疑問も感じていた。
先の事件、最低最悪の状況で純潔を奪われた時に絶望した。色んなことが駆け巡った。
どうして僕が。
どうしてこんなことに。
こんな辛い思いをノアは今まで抱えていたのか。
ノアも助けたい。自分もノアと一緒に助かりたい。
助けて。
誰か。
ルーク
身体の自由を奪われ、頭が混乱している中で自分が1番強く求めたのは恋人だった。
純潔を奪われた事でルークが自分に対して拒否反応が出てしまったらどうしようか、と多少の思案はあったが、ルークは別段自分に対しての態度を変えることはなかった。自分にはそれがとてもありがたかった。変に気を使われても、触るのを嫌がられてもどちらも自分には耐え難いものだった。ルークにもそれが分かっていたのかもしれない。
だから、今日も普通だったのだ。
朝、多少寝ぼけながら朝食を取ろうと食堂に向かった。前を歩いているルークも同様に食堂に向かっているところだった。後ろから「おはよう」と声を掛けた。これはいつも通りで普通の事だ。
けれど、振り返ったルークが、窓から差し込む朝日でキラキラしていた。
いつもの事だ。なのに。動悸がした。整えてきたであろう髪に少しだけ寝癖がついているのも、グウェンほど筋肉質ではないが鍛え上げられたしなやかな筋肉も、いつもの意地悪そうではない恋人を見る瞳も、少しだけ口端を上げた微笑みも。全部全部。
身体が静止した。何が起きているのか自分でも理解出来なかった。ルークは自分が突然反応しなくなったせいか、心配そうに近づいてくる。
無理だ。
そう思って逃げた。ルークが引き留めようと手を伸ばしてきても、使用人が走っている自分に不思議そうにしているのも分かっていた。けれど無理なものは無理なのだ。
顔はこれ以上ないほど真っ赤だし、誰も追いかけてきてないことが分かって立ち止まったら身体が震えてくるし、立っていられなくてズルズル自分を抱えるように抱きしめて座り込んだ。
「なにこれぇ……」
なんとかフラフラしながら立ち上がって、たまたま御者がいたから馬車に乗り込んだ。
そして、冒頭に戻る。
1
お気に入りに追加
855
あなたにおすすめの小説
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる