20 / 92
1章
グウェンside
しおりを挟む数刻前、魔獣討伐が終わってようやく家に向かう馬車に乗ることが出来た。馬車には同じく討伐に参加したレイが向かいに座っていた。肩口まで切りそろえられた髪は、艶やかな金色の絹糸で変わらず彼の魅力を引き立てるようだった。
「グウェンと討伐すると楽ができていいね、今日はとっても早く終わったよ」
「こちらもレイが居ると援護が的確で助かってる。あと士気が高まってるのが伝わるな」
「あはは、僕がフリーになったのがデカイね」
レイがいることで騎士たちの目の色が変わる。レイは俺がまだ婚約者であった頃からモテていたが、婚約破棄後は更に色んな所からアプローチが来ているようだった。
「ま、もうそろそろフリーじゃなくなるんだけどねぇ」
「…決めたのか」
「元々あの日から決めてたよ。何も言ってくれないから延びに延びてるけど」
レイからは討伐の度に被ることが多く、昔と同様よく話す。レイは気まずそうにしたりすることなく接してくれていた。最近は経営勉強のため、ヴァレンス侯爵家へ行っていることが多かったようだ。公爵家で学ぶようにも打診した。しかし元婚約者の家じゃなく、前を向きたいということだった。
「グウェン、ノアに会ってないでしょ」
「…休んでたツケが回ってきてる。ここ最近は寝顔しか見てない」
「そんなに忙しいの?もう忘れられちゃうよー?」
レイの言葉に、疲れていることもあり自分が酷く傷ついた。しかしレイの言うことはごもっともだ。3ヶ月もまともに会わない婚約者に、まだ俺に気持ちがあるか不安にもなる。不安を振り払いたい俺は話題を変えることにした。
「…レイ、誕生日パーティーの前で悪いが」
「…そろそろ決まった?あいつの判決」
レイは途端に冷たい目を窓に向ける。自らを傷つけようとし、ノアに手をかけた者に一切の同情は見受けられなかった。
「ああ、貴族殺しは王族と同様に重い。死刑が確定した」
「…あいつは、なんて言ったの」
レイとノアは裁判には参加させなかった。特にノアには裁判の日すら伝えなかった。公爵家とレイの総意だった。
「死ぬことはどうでもいい、最後にあの双子に会って話させろ…だそうだ」
「…そう」
レイは相変わらず冷淡な瞳を変えず、窓から外を見ていた。
「あいつに会うよ」
「! 別に言うことを聞く必要は無い!」
「…ノアには絶対に会わせない。あいつに会うのは僕だけだ」
俺に視線を向けると、冷淡な瞳に強い決意が見て取れた。
「ノアは、ずっと全部背負ってくれた。だから、これからは半分、僕が持つ。そう決めたんだ」
死刑囚と言葉を交わすことで、ある意味ノアよりも重いものを持つかもしれない。レイの覚悟が並々ならないものであると感じた。
「…君たち兄弟は、自分を追い込む天才だな」
「逃げたってどうにもならない。あいつと話したって何も変わらないだろうけど」
握った拳が白くなっている。
「でも、嘆いてばかりいられないから。僕が前を向くために、必要だと思う」
子供らしかったレイはもうどこにもいなかった。当主としての力強い言葉に、俺はレイを少し甘く見ていたと反省した。
「話せる日は追って連絡する」
「うん、ありがとう。…あ、馬車止まったね!ここから競走ね!」
レイは馬車を自ら開けて誰の手も借りず、飛び出して行った。俺は静かに先程感じた反省を取り消した。
0
お気に入りに追加
855
あなたにおすすめの小説
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる