【完結】泥中の蓮

七咲陸

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1章

グウェンside

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数刻前、魔獣討伐が終わってようやく家に向かう馬車に乗ることが出来た。馬車には同じく討伐に参加したレイが向かいに座っていた。肩口まで切りそろえられた髪は、艶やかな金色の絹糸で変わらず彼の魅力を引き立てるようだった。

「グウェンと討伐すると楽ができていいね、今日はとっても早く終わったよ」
「こちらもレイが居ると援護が的確で助かってる。あと士気が高まってるのが伝わるな」
「あはは、僕がフリーになったのがデカイね」

レイがいることで騎士たちの目の色が変わる。レイは俺がまだ婚約者であった頃からモテていたが、婚約破棄後は更に色んな所からアプローチが来ているようだった。

「ま、もうそろそろフリーじゃなくなるんだけどねぇ」
「…決めたのか」
「元々あの日から決めてたよ。何も言ってくれないから延びに延びてるけど」

レイからは討伐の度に被ることが多く、昔と同様よく話す。レイは気まずそうにしたりすることなく接してくれていた。最近は経営勉強のため、ヴァレンス侯爵家へ行っていることが多かったようだ。公爵家で学ぶようにも打診した。しかし元婚約者の家じゃなく、前を向きたいということだった。

「グウェン、ノアに会ってないでしょ」
「…休んでたツケが回ってきてる。ここ最近は寝顔しか見てない」
「そんなに忙しいの?もう忘れられちゃうよー?」

レイの言葉に、疲れていることもあり自分が酷く傷ついた。しかしレイの言うことはごもっともだ。3ヶ月もまともに会わない婚約者に、まだ俺に気持ちがあるか不安にもなる。不安を振り払いたい俺は話題を変えることにした。

「…レイ、誕生日パーティーの前で悪いが」
「…そろそろ決まった?あいつの判決」

レイは途端に冷たい目を窓に向ける。自らを傷つけようとし、ノアに手をかけた者に一切の同情は見受けられなかった。

「ああ、貴族殺しは王族と同様に重い。死刑が確定した」
「…あいつは、なんて言ったの」

レイとノアは裁判には参加させなかった。特にノアには裁判の日すら伝えなかった。公爵家とレイの総意だった。

「死ぬことはどうでもいい、最後にあの双子に会って話させろ…だそうだ」
「…そう」

レイは相変わらず冷淡な瞳を変えず、窓から外を見ていた。

「あいつに会うよ」
「! 別に言うことを聞く必要は無い!」
「…ノアには絶対に会わせない。あいつに会うのは僕だけだ」

俺に視線を向けると、冷淡な瞳に強い決意が見て取れた。

「ノアは、ずっと全部背負ってくれた。だから、これからは半分、僕が持つ。そう決めたんだ」

死刑囚と言葉を交わすことで、ある意味ノアよりも重いものを持つかもしれない。レイの覚悟が並々ならないものであると感じた。

「…君たち兄弟は、自分を追い込む天才だな」
「逃げたってどうにもならない。あいつと話したって何も変わらないだろうけど」

握った拳が白くなっている。

「でも、嘆いてばかりいられないから。僕が前を向くために、必要だと思う」

子供らしかったレイはもうどこにもいなかった。当主としての力強い言葉に、俺はレイを少し甘く見ていたと反省した。

「話せる日は追って連絡する」
「うん、ありがとう。…あ、馬車止まったね!ここから競走ね!」

レイは馬車を自ら開けて誰の手も借りず、飛び出して行った。俺は静かに先程感じた反省を取り消した。
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