【完結】泥中の蓮

七咲陸

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1章

レイside

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遅い、遅すぎる。レイは腕組みをして時計と睨めっこをした。公爵家とアトリエは遠く離れているものの、馬車で1時間とかからない場所にある。朝早く出て、もう夕方に差し掛かっているのはおかしい。買い物にでも行っているのか…こんな時に限ってグウェンは騎士団に仕事に行っている。

「…なんか、胸騒ぎがする」

双子の勘なのか、レイに行動を起こさせた。
アトリエに到着すると、鍵はかかっておらず、もぬけの殻だった。荷物は全て昨日のうちに公爵家に運んだせいもあるが、ノアが居ない。すれ違ってしまったのだろうか。けれど、もし、そうじゃなかったら。

「ルーク!いるの!?いるんでしょ!!」

隣のドアをドンドンと無遠慮に叩く。しばらく騒いでいると、頭を掻きながら部屋着の家主が姿を現した。

「うるせぇ、聞こえてるよ。なんだよレイ」
「ねぇ!ノアは!ノアに会ったでしょ?!」
「はあ? なんだよ、せっかく俺に会いに来たと思ったら。いい加減弟離れした方がー」
「そんなことどうでもいいよ! ノアに会ってないの?!」

切羽詰まったレイの様子を見て、冗談を言えないほどただ事ではないと判断した。

「レイ、落ち着け。いいか、俺はここに今日ずっと居たがノアは来てない。隣の物音すら聞いてないんだ」
「そ、そんな…じゃあ一体…」
「ここへ来るって言ったのか?」
「う、うん…勝手に出ていっちゃったからルークに挨拶しに行くって…」

うーん、とルークが悩む仕草をする。とにかく落ち着けとレイを部屋に招き、レイをベッドに座らせ、ルークは向かいの椅子に座った。

「あいつは嘘をつくのがそこそこ上手い。だからもともとここへ来る予定ではなかったと思う」
「…途中でどこかに連れ去られたってことじゃないってこと?」
「……まぁ絶対そうとも限らないが、ノアの事だ。レイには息をするように嘘をつく」
「え、そんなに僕嘘つかれてるの?」

17年間の弟の真実を知って傷つく。気づいていなかった自分のアホさ加減に落ち込んだ。

「落ち込んでる場合じゃない。ここ以外でノアが行きそうな場所はレイ、お前の所くらいだ」
「で、でも帰ってこなかった…」
「昨日親父に聞いたんだが……お前の両親亡くなったって…レイは今どこに住んでるんだ」
「ライオット公爵家にいる…あいつが帰ってきたから…だから絶対ノアは子爵家に戻ったりしない!」

ルークはあいつ、という言葉で察した。理由は詳しく知らないが双子が忌み嫌う叔父のことだと。レイは強く否定したが、ルークは想像する。家から追い出される程のことをした叔父が、子爵家を逆恨みしているとすれば……帰ってきて1番にすることを。

「…いや、やっぱりいるな。子爵家に」
「な、どうしてそんなこといえるの!」
「レイ、叔父が追い出された理由は知らんが…それで恨んでいるとしたら、俺ならまず何の力も後ろ盾もないノアから狙う」
「あ…僕は、公爵家に嫁ぐから…」
「そう、簡単には手が出せないけど、ノアなら楽だ。レイに危害を加えると脅すだけでいい」

そんな…と真っ青になったレイの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。レイはそんなことを気にしないほど動かない。

「まだ、予想だ。ほら立て、行くぞ」
「……っ、うん!」

2人は馬車に乗り込み、急いでレイの自宅だった子爵家へ向かっていった。







「お引き取り下さい」

子爵家にたどり着くものの、2人は門番に門を開けてもらうことすら出来なかった。

「こ、ここにノアがいるの!僕はここの家族なのは分かってるでしょ、いいから開けてよ!」
「レイ様は既に公爵家の者であると聞いております。招待もなしに入場するのはレイ様といえどお断りさせていただきます」
「ノアは来てんだろ?」
「……来ておりません」
「来てないなら、親戚が入るくらいいいだろ?確認できたらこんな騒いでるちっこいのが帰るだけだ」

な?と門番に眼光鋭く睨むと門番は少しだけ怯む。直ぐに持ち直し咳払いをする。

「これ以上は警備隊を呼ばせていただきます、お引き取り下さい」
「そんな…!ちょっとまっ」
「あー分かりました。出直します、お疲れさんです」

レイの口を塞ぎ、ズルズルと引きずりながらルークは門から離れた。レイは口を塞がれながら唸っていた。

「落ち着けって、ここで俺らが捕まったらなんの連絡手段もしばらく取れなくなっちまう。どんどん後手に回るだけだ」
「でも!」
「聞け。おそらくほぼ確定でノアはここにいる。お前が入れなかったのが根拠だ」
「どうして?」
「叔父は魔法絶対主義なんだろ?アポがないとは言え、天才と呼ばれてるお前が入れないなんておかしい。ってことは、お前に知られたくないものがあるってことだ。けど、俺やお前が単体で行ったとこで門前払いされちまうなら」

ルークの落ち着いた声に、レイも少しずつ冷静になる。ノアがすぐ近くにいる。分かっていても入れないならば、

「権力で炙り出すしかねぇよ」





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