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1章
報い※
しおりを挟む夜の帳の中、眠れないと思い庭園に出た。レイはずっとくっついて食事もトイレも風呂も監視され、今日抜け出すことは出来ないと判断した。やっとレイが眠ったところで、まだ目が冴えている俺だけ外に出て散歩することにした。
これから、公爵家に居続けることは出来ない。公爵様や奥方、グウェンにすらゴードリックが何をしてくるか分からない。公爵家に被害が出ることはレイに被害が出る。もう少しで魔法学校を卒業出来るところまで来ているのだ。レイの努力を無駄にするわけにはいかない。それに、最も居てはならない理由は分かっている。
「ノア!どこへ行くつもりだ!」
後ろから、彼が叫ぶ声が聞こえて振り返る。真夜中で静寂の中だったから余計に響いた。
「グウェン様、…眠れなかっただけです。こんな格好でどこも行きませんよ」
くすくすと笑いながら、今の自分の着ている夜着を広げて見せた。月明かりが、グウェンの黒髪の艶を引き立たせていた。
「レイなら部屋にいますよ。俺がずっと居たから入れませんでしたね。この後は客室かどこかを使いますので…っ」
過去の忌々しい話をした時と同じように、グウェンは俺を強く抱きしめてくる。グウェンの体格では俺はすっぽり入って、全部が包まれているようだった。
「そんなことはどうでもいい!…どこにも行かないでくれ」
「……本当に、狡い人ですね」
俺は、本当にここに居てはならない。さよならしなくては、ならない。レイのためにも、彼のためにも、優しかった両親のためにも。だけど、今日少しだけ許して欲しい。ゆっくりと彼の背中に手を回して、少しだけ暖かい雨が頬を流れるのを感じた。
「…ノア、グウェン……うそ…」
テラスから庭を見下ろしながら、呟いた声は抱き合っている2人には遠くて聞こえるはずもなかった。
「レイ、起きないの?もうご飯だよ」
布団で蓑虫になっている兄にため息をつく。こうなると口だけでは起きないことは知っている。
「そういうレイには、こうだ!」
蓑虫に覆いかぶさり、布団の間からレイの身体に手を這わす。脇を掴むと丁寧に優しくくすぐってやった。
「ぎゃー! 降参!降参するからやめてー!」
レイは息を切らしながら布団から顔を出した。
「もう、俺は食べちゃったからね。レイも早く食べないと片付けできなくて困っちゃうよ」
「はぁい…」
「…俺はちょっと出掛けてくるから」
「! なんで!」
布団を勢いよく投げて起き出す。 行かせまいとレイは俺を力強く抱きしめた。
「誰にも言わずに出てくことになるからね、ルークに挨拶くらいしないと」
「…そんなの、しなくていいもん…」
「そんなわけにいかないよ、わざわざ俺の生存確認をしてくれてた優しいやつなんだから」
「……そしたら絶対帰ってくる?」
しょぼくれたレイの声に、背中をとんとんと優しく叩いて答える。
「うん、帰ってくるよ。…どこにも行かないよ」
昨日までの自分の家が、まるで他人の家のように感じた。まるで何も変わらない子爵家の門が、別物のようだった。
「……ごめんね、レイ。……グウェン様」
喉はカラカラなのに、唾を飲み込んで、門を開けた。
家の中の使用人はほとんど入れ替わっているようだった。レイ付きだったメイドのハイネも見当たらない。家の中を歩いていても追い出されないということは、俺が来ることは全員想定済みだったということだ。
「ノア様でいらっしゃいますね。お待ち申し上げておりました。ご当主さまはこちらです」
初老の男性は、父の時からの執事だった。彼はレイには優しかったが俺には特段目をかけることはなかった。けれど大っぴらに差別をするような人ではなかった。俺に声をかけた後、勝手知ったる家の中を案内し始めた。父と母の寝室だった。ドアが開く前に尋ねる。
「…この部屋、掃除してありますか」
「いえ、当主様よりベッドメイキング以外は手をつけるなと仰せつかっております」
「……下衆が」
「…旦那様、失礼致します」
部屋を開かれると、父と母の肖像画や俺とレイの成長過程の写真が置かれていた。母のお気に入りだった宝石箱や椅子にかかった父のネクタイ、前世で覚えていた俺とレイで作った鶴の折り紙もそのままだった。未だ2人の気配が感じるこの部屋が、これから汚されていくのが許せなかった。執事は俺が部屋に入ったのを確認し、出ていった。
「昨日は来てくれなかったな。ずっと待っていたんだが」
嫌悪の声が聞こえる。ゴードリックはガウンのまま昼間からワインを片手にベッドに横になっていた。
「そんなわけないでしょう。大方、メイドのどなたかに手を出してますね」
「はは、お前が来てくれないからだろう?1晩お前が相手をしないせいで使用人が1人キズ物になったじゃないか」
「…貴方のシモ事情の責任を転嫁しないでください」
「随分憎たらしい口聞くようになったもんだ。お前は昔から変わらねぇな。小さい頃からまるで大人を抱いてるような気分にさせてきやがった」
ワインをサイドテーブルに置き、ゴードリックはベッドから降りて立ち上がる。俺の方を向いて、ガウンを脱いで全身の裸を露わにした。
「舐めろ」
「……」
断ることは出来ない。ここに来た時点で覚悟していた。地獄を味わう準備は、昨日の夜にグウェンがしてくれた。ゴードリックの前に膝をついて、治ったばかりの右手で陰茎に触れる。意を決して、それを口に含んだ。口いっぱいに広がる棒が、まるで暴力のように口内を犯してくる。含んだだけで唾液が出て、潤滑剤のように滑りを良くした。手や口を前後に動かし、昂った陰茎を擦る
「それじゃいつまで経っても終わらねぇ、ぞっ」
「んんん!!~~~っ」
頭を掴まれ、思い切り喉奥にぶち抜かれる。苦しくてむせているのに頭を掴まれ離すことが出来ない。呼吸も出来ていない。何度か前後に振られると、ゴードリックの自身がさらに怒張し、次の瞬間に白濁とした液が喉と口内を襲った。
「っゲホ!ゴホッ!……はぁはぁ」
「あー吐くなよなー。まぁ今回は許してやる。次から飲め」
涙目になっているのが自分でも分かる。苦しくて呼吸を整えていると、腕を捕まれ、ベッドに投げ出された。ゴードリックがゆっくりこちらへ乗りかかってくる。
「じゃあ、これから楽しもうぜ。ノア」
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