【完結】泥中の蓮

七咲陸

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1章

地獄※

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「お前ほんと女顔だけど下ついてんのかよ」
「見てみりゃいいだろ、ほらよっと」

汗と埃の匂いがする体育倉庫の中で、ゲスな笑い声が重なる。合図と共に制服は無理やり開かれ、平らな胸が露わになる。ズボンも一気に脱がされ、身体は後ろから羽交い締めにされて身動きは取れない。

「顔が良いし、男でもヤレるなー」
「妊娠することも無いしな」
「生はやめろよ、病気こええし」

嫌だ、やめろ、といくら叫んでもコイツらにはニヤニヤと下卑た顔をさせるだけだった。恐ろしくて身体は震えていた。これからされることを思えば、殴られたり、蹴られた方がマシだ。一人の男が自分のズボンのチャックを開けて、屹立した男根を出してくる。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。

「アハハ、お前もうそんなかよ、やべぇな」
「俺レイプもの好きなんだよなー。今めっちゃ興奮してる。俺1番な」

暴れて蹴りあげる足を押さえつけられる。自分の唯一の穴に向かって屹立した男根が容赦なく突き立てられた。

「ああああああああぁぁぁ、ぁぐっ」

痛い。痛みで叫び声を上げた。叫んだと同じに右頬に鈍い痛みを感じた。正面の男とは別の男が拳を握っていた。

「うるせぇなー、だまって喘げよ」
「いやいや声聞いたら萎えるって」
「顔は殴るの止めろよなー」
「いいから、楽しもうぜ」

どのくらい経っただろうか、ゴムは途中で無くなったようだった。精液と血で濡れているそこは痛みも感じなくなるほどに使い込まれた。涙も枯れ果てた虚ろな瞳をしていた。

「はー、結構楽しんだな」
「いや俺まだヤルわ。変われよ」
「おい!なにをしている!開けなさい!」
「やべぇ!! 誰か来た!」

ドアは無理やりこじ開けられた。悲惨な状況に教師陣は一瞬言葉を失っていた。

もう思い出したくもない記憶だ。
なのに、憶えている。心も身体も。
記憶が、恐怖が蘇る。





月人つきひと、もうあの人達は退学になったの。あなたももう少ししたら違う学校に行きましょう。行った先は知ってるから絶対に被ったりしないわ。お母さんと勇気をだして外に出ましょう。貴方ならきっと大丈夫、今はつらいかもしれないけど一緒に頑張りましょう」
「うるさい!!!」

自分の部屋の前で母親の声がする。母親の励ましのエールは今1番聞きたくなかった。
惨めで、恐怖で外界を拒絶した。何ヶ月部屋に閉じこもっているだろうか。排泄の時だけ部屋からでて、それ以外は自分の部屋にいた。いわゆる引きこもりにというやつだ。

「お母さん待ってるからね」
「うるせえって言ってんだろくそばばあ!!!」

しばらくするとドアの外からパタパタと遠ざかるスリッパの音がした。この怒りを、悲しみを、辛さを、痛さを。母に全て浴びせた。母は根気よく毎日話しかけてきた。けれど、話される度に自分の惨めさが増していく気がした。だから、母を貶めた。

「おねがい、月人。顔だけでも見たいの」
「うるせぇ鏡見ろよ!最悪なことにお前とそっくりなんだからな!!お前がこんな顔で産んだから俺は……!」
「……そんな」

母は、その日以降話しかけてこなくなった。何日か経った後、またドアの前から話しかけてきた。

「月人。母さんが死んだ」

静かな父の声だった。

「…遺書があった。お前にごめんなさいって書いてある。…お前をそんな風に産んだのは俺たちかもしれないが、死なせるほどだったか…?俺と母さんがどれだけお前を育てることを頑張って来たのかわかるのか?お前が暴行を受けたあとも、俺と母さんは学校に毎日行って相手に重い罰が下るように努めていた。……お前のことを愛していたのに」

父の声は微かに上擦っていた。けれど無理やり押さえつけたような怒気も感じられる。

「そんな人を、お前は殺したんだ」

手近にあった紐を掴んだ。それを掴んだら後は止まらなかった。ドアノブに括り、自分の首にかけた所までが、自分にあった記憶だった。これが、俺の1度目の地獄だった。
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