39 / 43
番外編
愛の言葉 side アドルフ ③
しおりを挟むスタッフに誘導されながらテーブルにつく。少し奥まった場所で半個室のような場所にギョッとする。スタッフの目があれば浮気の心配もされないし、平気かも、なんてのは甘い考えだった。
カインの方が一枚も二枚も上手で自分の浅はかさに絶句するしかなかった。
とりあえずスタッフが椅子を引いてくれたので座ることにした。
カインは手馴れた様子でワインを頼んだ。そして食事ペースに合わせてコースが次々と運ばれてくる。
「で?なんで俺なんだよ。お貴族様には似合わないツレでみんなビックリしてるじゃねーか」
「そうでもないんじゃないですか? 今のアドルフ先輩、いい所のおぼっちゃまみたいな姿ですし」
「そりゃ、王城で働いてるから多少は…」
「んじゃ良いじゃないですか。てかそれにしては結構良い物着てますよねぇ?身につけてるそのピアスも。センスの良い恋人さんですね」
俺は問われた事を飲み込めず、ナイフとフォークを掴んだままキョトンとカインを見つめてしまう。
この服はいつも家事をしてくれているからとヴァレリが仕立ててくれたもので、ピアスだって付き合って二年目でくれた誕生日プレゼントだ。どちらも恋人からのプレゼントであり、褒められて、なんだかむず痒くなる。
「……うん」
「うっわー……やっぱプレゼントか。この人に物与えちゃうの分かるわー…」
「なんだよ。別にお前から貰ってるわけじゃないし、いいだろ」
「はは。今すぐその服破ってピアス捨てさせたいっすね」
ぶすくれた顔をそのまま凍らせる。さっきまでの陽気な気のいい後輩は一体どちらへ行ってしまわれたのか。
けれど顔を少しだけ振って気を取り直す。
「冗談、だよな?」
「さあ?」
相変わらずニコニコとしている後輩に、何か得体の知れないものを感じて背筋が冷たくなってくる。
童貞狩りしてた時も恐怖の瞬間は少なくともあった。そんな時は逃げるに限った。
「……もうそろそろ終わりだし、かえ」
「先輩。この上に部屋取ってますって言ったら、どうします?」
「ど、どうもしない。恋人いるって言ってるだろ……!」
「へぇ。あんな感じの人?」
どんな感じなのか気になり、カインが指差す方角を見る。
見なければいいものを、つい身体が動いてしまった。
半個室だが囲いだけなので少し身体をずらせばフロアを見渡せた。チラホラと残る客達。その一角、窓際の景色の良いテーブルに見覚えのある姿があった。
「え……? ヴァレリ?」
「ああ、やっぱり?向かいにいる女性は?」
やっぱりとは、と問いたいが、上手く頭が回らないせいで口が回らない。
あそこにいるのはヴァレリだ。出張といって、何日も帰ってきてない。いつもの事だと安心して送り出した。楽しそうに女性と笑って食事している。いや、でも、今回の出張を共にした仕事仲間かもしれない。そもそもヴァレリは自分からゲイだと公言していたし、女性とどうこうなるはずがない。だから、絶対に浮気じゃない。違う。絶対に違う。
だって、そう信じていないと、自分の、今までの。
「あーあ…見ちゃいましたねぇ。浮気じゃないと良いですね?」
「……お前、本当はすげーやな奴だな」
今までの七年間は一体なんだったんだと思ってしまう。
「そうですよ。俺はね」
カインはニッコリと微笑む。貴族らしいその麗しい微笑みに目を逸らせない。
カインは陽気で明るくて、先輩からも上司からも信頼されているムードメーカーのような男だ。人間誰しも裏があるとはいえ、カインには裏も表も変わらない性格をしているのではと勝手に思い込んでいた。多少強引で我儘な所だって、まぁお貴族様だし。平民の扱いはこんなものだろう、なんて甘く見ていた。
この男の根本は、そんな生温いものじゃない。
「欲しいって思ったものは絶対に手に入れるって決めてるんですよ」
アドルフは自分が一体今、どんな顔をしているのか分からなかった。
43
お気に入りに追加
2,026
あなたにおすすめの小説
飛竜誤誕顛末記
タクマ タク
BL
田舎の中学校で用務員として働いていた俺は、何故か仕事中に突然異世界の森に迷い込んでしまった。
そして、そこで出会ったのは傷を負った異国の大男ヴァルグィ。
言葉は通じないし、顔が怖い異人さんだけど、森を脱出するには地元民の手を借りるのが一番だ!
そんな訳で、森を出るまでの道案内をお願いする代わりに動けない彼を家まで運んでやることに。
竜や魔法が存在する世界で織りなす、堅物将軍様とお気楽青年の異世界トリップBL
年上攻め/体格差/年の差/執着愛/ハッピーエンド/ほのぼの/シリアス/無理矢理/異世界転移/異世界転生/
体格が良くお髭のおじさんが攻めです。
一つでも気になるワードがありましたら、是非ご笑覧ください!
第1章までは、日本語「」、異世界語『』
第2章以降は、日本語『』、異世界語「」になります。
*自サイトとムーンライトノベルズ様にて同時連載しています。
*モブ姦要素がある場面があります。
*今後の章でcp攻以外との性行為場面あります。
*メインcp内での無理矢理表現あります。
苦手な方はご注意ください。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
王道学園の副会長には愛しの彼氏がいるようで
春於
BL
【王道学園】腹黒ドS風紀委員長×真面目潔癖副会長
王道学園に王道転校生がやってきた
だけど、生徒会のメンバーは王道ではないようで…
【月見里学園】
生徒会
〈会長〉御宮司 忍 (おんぐうじ しのぶ)
〈副会長〉香月 絢人 (かづき あやと)
〈書記〉相園 莉央 (あいぞの りお)
〈会計〉柊 悠雅 (ひいらぎ ゆうが)
〈庶務〉一色 彩葉/日彩 (いっしき いろは/ひいろ)
風紀委員
〈風紀委員長〉伊武 征太郎 (いぶ せいたろう)
王道転校生
浅見翔大 (あさみ しょうた)
※他サイトにも掲載しています
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。
アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。
捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!!
承諾してしまった真名に
「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。
【R18】翡翠の鎖
環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる