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番外編

アドルフの悲劇②※

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  あれは、アドルフがまだ新入りとなってまもない頃だ。
  慣れない仕事に毎日追われる中、コミュ障なのも相まって、仕事は上手くいってなかった。

  シュリと出会ってはいたが、確かあの頃はお互いまだ同性が好みと言うのを知らず、ただの同僚であった。

  そんな時だ。アドルフの直属の上司の男が、呑みに行こうと誘ってきたのは。

  コミュ障であるが故、断るという決断が出来ず、誘われるまま上司とのサシ飲みが始まってしまった。心の中は「早く帰らせてくれ」でいっぱいだった。しかし、上司は話し上手で、時間が経つにつれアドルフはそんな気持ちはどこかに霧散していった。

  今思えば、彼は随分と手慣れていた。部下を呑みに誘うのも、帰りたがる部下を帰らせないようにするやり方も、そして、そのままホテルに連れていくことも。

  アドルフは同性が平気であることは誰にも言っていなかったのだが、やはり同類には分かるものなのだろう。ホテルで今日のように酔っ払ってそのままアドルフは上司に食われた。
  少しある意識の中で、彼は「このまま付き合わないか」と言ってきた。アドルフはこういったことにこの時は慣れておらず、気がつけば小さく頷いていた。

  それから、何ヶ月かお付き合いがスタートした。職場恋愛だったせいもあり、周りの人間にバレないようにすることで燃え上がっていたようにも思えた。

  しかしある日突然、火は鎮火するものだ。

  「おめでとうございます」という言葉がフロア内に広がった。アドルフは何のことだろうと思い、人だかりに首を突っ込んだ。いつもならコミュ障なので自分の席から見てるだけなのだが、どうにも上司の近くで人だかりができていたので気になったのだ。

  「ありがとう」と言う言葉は明らかに上司のものだった。はにかんだ顔で花束を受け取っている。昇進でもしたのだろうか。そんなこと一言も言ってくれていない。急遽決まったのだろうか。

  けれど、周囲の同僚たちから恐ろしい言葉を聞いた。

「あの人も良い歳だし、妥当だよな。出世異動だろ?」
「そうそう、それに伯爵家の娘さんとの結婚も決まったらしいのよ」

  世界の時計が止まった感覚に陥った。同僚が一体、誰のことを話しているのかわからなかった。アドルフの恋人は、一体誰だったのか。あれは、あの時酔い潰した責任を取るように付き合い始めた男は。一体、誰だったのか。

  グラグラと揺れていると、同じくらいの背丈の男が肩を支えてくれた。


「…大丈夫?アドルフ」

「え、と…」

「シュリ=セレットだよ。アドルフ、あの上司と付き合ってたでしょ。…アイツ、いい噂聞かなくて。本当は止めようと思ったんだけど、アドルフがあまりにも幸せそうだったから、言い出せなくて…ごめん」


  シュリとの会話は、これが初めてだった。シュリが言うには、アドルフが付き合っていたと思っていた上司はどうやら相当手癖の悪い男だったらしい。
  シュリも一度目を付けられていたが、貴族同士はそういう噂が流れるのが早いらしく、丁重にお断りしたらしい。新人を何人も食いつぶし、アドルフのように捨てていって仕事を辞めていったと。

  アドルフはシュリが言った言葉をすぐに信用できたのは、今実際、目の前でアドルフが捨てられたのだと自覚したからだ。早くに言われても、きっと信用できなかった。シュリもそう思っていたらしく、なかなか言い出せなかったようだ。


「ねぇ。ちょっと呑みに行こうよ。僕もネコなんだ。アドルフもそうでしょ?そういうの抜きにしてさ、パーっと飲もうよ」


  そうして、シュリとの友人関係がスタートしたのだ。

  シュリは本当に良い奴だった。アドルフが手慣れた男がどうにも苦手になって、童貞を食べるようになってからも友人でいてくれた。少し呆れた顔をすることもあったが、昔のアドルフの表情を知っているせいか、あまり大きな声で止めようとはしなかった。本当はやめて欲しかったようだが。

  上司には、特に何もしなかった。したところでアドルフは貴族じゃないし、権力も後ろ盾もない。彼に何かすれば、制裁されるのはアドルフの方だ。だったら静かに、ただ穏やかに身を引いた方が良い。
  悔しくないわけではないが、死にたくもない。シュリにも、「貴族に手を出すのは止めといた方がいい。僕が言える立場じゃないけど、ヤバい奴はたくさんいる。…まだ平民の方がきっと優しいよ」そう言われた。

  シュリは貴族なのに、アドルフと友人でいてくれた。本当に楽しそうに呑んでくれるし、他のいけ好かない貴族とは大違いだった。
  争いごとが大嫌いだというシュリは、付き合った男が「好きな人ができた」と言ったらすぐに身を引く。シュリも「タイプだけど、性格は微妙だったんだよね」と言い放つ始末。

  そんなシュリに、ついに婚約者ができた。それも、シュリのどタイプど真ん中、性格も顔も良ければ身分も良い。
  嬉しかったが、シュリとどんどん離れていっていくようだった。

  寂しいのも仕方ない。シュリは貴族だし、アドルフは多少学があるだけの平民だ。シュリと友人になれただけでお釣りが来る。離れていってしまっても、それは元から決まっていたことである。恋仲、と言うわけではないが、それ以上に淋しいと思った。

  アドルフが荒れたのは、その後だ。

  とにかく、タイプだろうとタイプじゃなかろうと、童貞ならば食い漁った。
  いつもは少し止めてくれるシュリもいないし、アドルフはバーに行き、アドルフの噂を聞いた童貞から声が掛かればすぐに誘いに乗るようになった。まるでそれは、無法地帯だった。

  そして。今日に至る。


「んっ…ぁ、んん、あっ」


  フワフワと夢見心地の中、深い口づけが気持ちよくて、自分からも舌を絡めていく。ぴちゃぴちゃとした水音が耳の鼓膜を揺さぶった。気持ちよくて、もっと、と強請るように目の前の男に腕を回せば、男は答えるようにさらにアドルフの口内を蹂躙した。
  どちらともない唾液が、アドルフの口端から垂れていく。ベッドに身を投げていた足を、男の足に絡ませる。


「酔い方は慣れてねぇくせに誘い方は慣れてんな」

「ん…そりゃ、どうも…」


  そうだ、ヴァレリだ。目の前の男はヴァレリで。


「言っとくが、加減しねぇからな」


  明らかに手慣れたような男だ。ナンパの仕方も、話し方も、誘い方も、キスの仕方も。全部慣れていて、アドルフの好みではない。

  ヴァレリはもう一度アドルフに口づけをした。さっきと同様、口内が性感帯に変化したかのように気持ちが良くて自分からも積極的に舌を絡ませてしまう。酔っているせいもあって、酩酊している感覚も心地いい。
  口づけをしながらどんどんと服を剥がされていった。衣擦れの感覚すら快感に変わり、ピクピクと体が反応してしまう。


「ぁ、ん…や、ぁ…」


  全部の服を脱がされても、腕は鉛のように重く、足は重りが乗ったようになっていて、なんの抵抗もできない。そもそもキスだけで気持ち良すぎて抵抗する気にもなれない。
  胸を弄られ、吸われ、舌を全身に這わされベトベトにされる。全部が気持ちよくて、アドルフの中心に触られる頃には、もう息切れを起こしていた。


「あー、呑ませすぎたな」

「…?」


   ヴァレリが言っている意味が理解出来なくて下を見ると、首をもたげた自身の分身がそこにあった。先走りはトロトロと出ているのに、全く兆していない。


「童貞ばっか食ってるなら、あんまり中でイッたことねぇだろうし。ちょうどいいか」

「ぇ、あ…んんっ!あ、だめぇ…っ」


  ポヤポヤした頭の中で、近くにあった香油で濡らしたヴァレリの指が後孔をくるくるといじってくる感覚がする。ヌルヌルとした後孔に、つぷ…と小さく音を立ててアドルフの中に入り込んできた。ようやっと抵抗の言葉を発しても、ヴァレリにはなんの抵抗にもならなかった。

  あられもない嬌声を上げていると、ヴァレリは楽しそうに指を徐々に増やして拡張していった。拡張自体は慣れているからさほど手間でもないはず。しかし、ヴァレリはそれだけじゃなく拡張が終えた指を、クイ、と曲げてきた。


「あっ!やぁ!やだぁ!」

「…オイオイ。全然慣れてねぇな」


  アドルフは突然の電流に体をビクンと跳ね上がるように反応させた。ヴァレリはニヤ、と笑いながら舌なめずりをしていた。
  そこで快感を得るのは、自分のタイミングでしかない。相手に奔流されるように快感を得たことは、あの上司の時以来だ。
  止めて欲しくて手を伸ばしても、ヴァレリにはやはりなんの抵抗にもならない。むしろ楽しそうに同じところを何度も当ててくる。その度にアドルフは嬌声を上げてしまって、ついには気をやってしまった。
  ドロリと流れる精液が、アドルフの腹に伝っていく。
  ハァハァと息切れをしていると、ヴァレリが額にチュ、とキスを落とした。


「偉いな。もっと気持ちよくなろうな」


  今のでも相当気持ちいいし、なんならもう出したせいでちょっとスッキリしてる。頭も身体も。
  このまま寝たら相当気持ちいいだろうが、それで許す彼ではなかった。


「あっ!」


  イったばかりの後孔から指を引き抜かれ、思わず声を出す。代わりに、アドルフは今まで見たことも無いほど怒張した彼の分身があてがわれていることに気づいた。


「え、や、まっ…てぇ!!」


  ヴァレリはニヤ、と笑うと同時にこじ開けるようにアドルフに分身を突き刺した。一気に奥まで突き抜かれて、アドルフの頭の中でチカチカと星が舞っている。アドルフの分身はやはり萎えていて、ヴァレリが挿れたと同時にまた少しだけドロ、と精液が押し出された。

  しばらくの間、動かないで慣れるのを待ってくれていたが、アドルフの息が整った辺りから、抜き差しをし始めた。


「あっ、あっ、ん!あぁ!」

「アドルフ、お前、あれ以上あそこで童貞食ってたらヤバかったぞ?」

「ああっ、ン、や、ぁ、だめ…っ、あ、あああっ!」


  イイ所を的確に当てられながら、ずちゅずちゅと抜き差しされて翻弄されているアドルフはヴァレリが何を言ってるのか理解できていなかった。ヴァレリの分身はアドルフの肉をかき乱してくる。全く痛みはなくて、ただただ気持ち良い。なんならもう、また気をやってしまいそうだった。


「童貞共が探してるのはもちろんだがな、慣れた奴らが童貞のフリして食おうとしてたんだよ」

「ン、あんっ、は、もう…あ、くる…きちゃ」

「俺みたいにな」

「あ、あああっ!」


  ばちゅんっ、と思い切り抉るように突かれアドルフは脳天を突き抜かれるように達し、そのままフ、と意識を落としていったのだった。
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