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21、シュリ=エルネストの欠点

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  あれから三年の月日が流れた。


「シュリ、行こうか」


  そう言って神々しいまでに光のオーラを纏い微笑むのはシュリの夫、メア=エルネスト公爵当主であった。

  メアは家督を継ぎ、公爵当主となった今も変わらずしがない伯爵家三男だったシュリを愛していた。


「はい、メア」


  そしてそんなシュリも、夫メアに極上の微笑みを見せながら腕を組んで王城のパーティーに入城していくのだ。


「それにしても……フリーダ=ケッセルシュラガー侯爵令嬢はクリステン第二皇子殿下をよく許しましたね」


  今日のパーティーは、クリステン殿下とフリーダの婚約パーティーであった。

  クリステン殿下と言えば、最初リリー子爵令嬢に惑わされ、夫メアを婚約破棄させた過去を持つ。

  更にクリステン殿下は何を血迷ったか、婚約中であったフリーダを捨て、リリーと婚約を結んだのだった。

  しかしリリーはメアのことを諦めてはいなかった。

  だが、クリステン殿下やメアへの度重なる暴言により、クリステン殿下は目が覚めたようでリリーとの婚約を破棄した。

  その後、クリステン殿下はフリーダへもう一度誠心誠意謝罪と愛の言葉を繰り返し囁き、三年かけて口説き落としたのだ。


「フリーダ侯爵令嬢の懐が深いのか、クリステン殿下の執念が実を結んだのか。どちらだろうね」

「……なんだかどっちもな気がします。それにこのパーティーによく僕達を招待してくれましたね」

「リリーと結婚しなくて済んだシュリへのお礼と、リリーと婚約破棄させてしまった私への謝罪も兼ねているんだろう。これを機にエルネスト家との仲の修復を見せつけたいのもあるだろうな」


  シュリはお礼を言われるようなことをしたのかは甚だ謎だった。

  シュリにとってあれは、夫と結ばれるきっかけでもありつつも黒歴史の面も持ち合わせており表裏一体だ。


  シュリにはただ一つ、欠点がある。


「……僕、今日のパーティーは気をつけますから」

「気にしなくていいんだよ?久しぶりにカッコ良いシュリが見たいんだけどなぁ」

「あれをカッコ良いというのはメアだけですからね!」

「さ、ほら会場に着いたから一緒に入ろう」


  ニッコリと後光差し込む光を感じながらシュリはなんだか納得しきれないまま会場入りをした。

  公爵当主、夫人ともなれば色々な人から声をかけられる。シュリはこの三年でようやくそれに慣れ始めた。
  最初のうちは高位貴族に声をかけられることに慣れず、失敗を繰り返していたか、なんとかそつなくこなせるようになってきた。

  それも、メアが色々とフォローしてくれているからなのだけども。


「ふぅ…」

「シュリ、疲れた? 少し休もうか」


  メアは心配そうに眉を下げながらシュリの顔を覗き込む。
  神と等しいレベルの端正な顔立ちで見つめられ、シュリの顔は自然と熱くなるのを感じる。


「メア……」


  三年経ってもシュリは夫の顔を見飽きることは無かった。
  むしろもっと好きになっていて困っていた。

  何とかたじろぎながらシュリは返事をした。


「い、いえ、大丈夫で」


「どうしてこんなパーティーを開いているんですか!?!?」


  耳元でキーンと高い声が会場に響き渡った。


  シュリの隣にいるのは、言わずもがな、リリー子爵令嬢に間違いはなかった。


「第二皇子は私のことをお好きだったではありませんか!私と婚約して結婚しようって言ってくれたではありませんか!」


  リリーは劈くような声で叫び続ける。


「どうしてよりによって元の婚約者と結婚されるのですか?! 私のことをまだ愛してらっしゃるはずなのに!!」


  メアとシュリは呆然と隣にいるリリーを見ていた。


「……メア、ちょっとリリーさん……太りました?」

「私も驚いた。顔のパーツはリリー子爵令嬢だが……全体的に丸くなってしまったな……」


  あんなに可憐だったリリー子爵令嬢は、昔の面影をパーツに残し、体型だけは見る影も無くなっていた。


「リリー。そなたはメア公爵が好きだったと言ったでは無いか。この私と婚約するつもりがなかったと」


  キーキー叫ぶリリーに応えたのは、当事者であるクリステン殿下であった。


「そんなの! クリステン殿下に嫉妬して欲しかったからです! どうしてみんな分かって下さらないの?!」

「リリー、もう君とは終わったんだ。招待もしていない。私はフリーダただ一人を愛すると誓ったんだ」


  クリステン殿下は公の場で恥ずかしがる様子もなく真剣にフリーダへの愛を伝えた。
  隣にいるフリーダ侯爵令嬢はとても嬉しそうにクリステン殿下を見つめていた。


「う、嘘よ、うそ……そんなはず……」


  リリーがフラ……と体勢を崩すと、隣にいたシュリはついに目が合ってしまった。

  あ、と思った時にはもう遅かった。

  シュリの手首はリリーによって捕縛され、太ったからなのか前よりパワーアップした強い力で引き寄せられた。


「あ、あんたのせいで……!あんたのせいで全部めちゃくちゃよ! 」

「い、痛いです。離してください……!」

「リリー子爵令嬢!私の妻の手を離せ!」


  シュリの手首に圧がかけられていく。痛みに顔を歪ませれば、メアの珍しく怒りに満ちた声が聞こえてきた。


「こんなはずなかった!メア様と私は幸せに暮らすはずだったのよ?! なのにあんたがしゃしゃり出てきたせいで!」

「いや僕のせいじゃ……いたたた!」


  反抗したせいか、手首に更なる力が籠る。
  ミシ……ッと骨の軋む音がシュリの手首から聞こえてくる。

  シュリはリリーの話の通じなさに、徐々にイライラしてくるのをシュリは感じていく。


「男のくせにメア様と結婚なんかしやがって!許せない! 今すぐ離婚しなさいよ!」


  そして、シュリの悪癖が顔を出す。



「うるせえ雌豚」



  ピタ、と前よりも太ったリリーは止まった。

  そもそも会場の誰もがシン、と静まり返っていたのでシュリの声は小さくても低く暗くともよくよく響いた。



「毎度毎度懲りずに養豚場からわざわざお出ましとは、ずいぶんこの雌豚は暇なんだな」



  隣でリリーの手を引き剥がそうとするメアは、嬉しそうにニンマリと微笑んでいる。



「誰がキーキーうるせえ豚と結婚するかよ! 殿下もメアもお前のモノじゃねえ!自分から切り離しといて愛してくれ!?離婚しろ?!どんだけ傲慢なんだこの雌豚が!」



  シュリは会場中に響き渡らせて叫ぶ。



「メアを幸せにするのはこのシュリ=エルネストなんだよ!!黙って引っ込んでろ雌豚!!!」



    そうして、ビッと勢いよく立てた中指にリリーやメアだけでなく会場の誰もが釘付けになったのだ。




  後に、逆上の公爵夫人というあだ名が流れることは、また別の話。














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ここまで読んでくださってありがとうございました。

また次のお話でお会いできますように。

七咲陸
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