18 / 43
18、メア=エルネストの深い後悔
しおりを挟む静かだった執務室にバキッ!という何とも似合わない音が響き渡った。
「……どういうこと? もう1回言って貰っていいかな、ヴァレリ」
メアは執務中使っていたペンをへし折ったのだ。
ヴァレリはなんとか無理やり冷静を保とうとするメアの姿を見て、『想像通りだな…』と思っていた。
「……だから、シュリは『男の自分と結婚なんか公爵家当主のメアがする訳ない。婚約破棄しないのはメアが優しいからであって、このまま自然消滅で構わない、むしろ抱いてくれてラッキー。あの最高の夜を思い出して一生一人で生きていく。もし婚約破棄するなら最後にご尊顔が拝めるし思い残すことは何もない』って思ってんだって」
メアの顔にピクピクと青筋が立つ。
あのホテルに泊まって以来、忙しすぎて寝る間も惜しんで執務をしていたせいで連絡も取っていなかった事がこんなことになるとは、流石のメアでも予想がつかなかった。
もしかしたらシュリは、寂しくて連絡くらいはして欲しいと怒ってるかもしれないと予想していたのに、見事華麗に外した。
「……それで、後はなんだって?」
「『あの公爵次期当主で非の打ち所もない完璧で理想の塊のメアが、しがない伯爵家三男の自分に、キスしてくれるわ愛は囁いてくれるわ抱いてくれるわ、神様みたいだった…超最高…思い出すだけで幸せすぎて脳汁が出る』だとさ」
「……へえ。ていうことは、私の言葉も行動もシュリには届いているようで一切届いてなかったってことだ」
わなわなと身体が小刻みに揺れるのを感じながら、執務机を叩き割りそうになるのを必死に抑える。
ヴァレリは、メアを見て肩を竦め、首を振った
「もういいから結婚しろよ。婚前交渉はシュリにとっちゃ『神からのお慈悲』くらいにしか思ってないぞ?」
「……慈悲ねぇ……」
メアはこの怒りをどこにぶつければいいか分からなかった。
そもそもシュリがどこからそんな思考回路になったのか、分からなかったからだ。
リリー子爵令嬢に怒った時は『メアは僕の婚約者だ!分かったら引っ込んでろブス!』と言い放っていた。この時までは恐らく婚約破棄の思考に至らないはず。
ということは、ターニングポイントはホテルでの伯爵とのやり取りだ。
メアはあの時、ハッキリと断らなかった。
あの伯爵は面倒臭いことで有名で、メアも曖昧に返事をしてしまった部分が多々あった。
伯爵が第二夫人を薦めて来た時に、ハッキリキッパリと愛人を作るつもりなどなく、自分が愛する人はシュリ一人だと言っていなかったからだ。
あの場で角が立つ様な言い方を避けようと小狡い考えをしていた自分に腹が立った。
「にしてもシュリの頭はぶっ飛んでんな……普通は婚約破棄されるかも、なんて考えに至ったらウジウジと悩むのがお決まりのパターンだろ?」
「…もしかしたら、悩みすぎて通り過ぎた……?」
「なるほど? 悩みすぎて、『むしろこの状況に感謝しなくては』という考えに至ったのか……」
どちらにせよ、メアにとって良い状況では無いことは確かだ。
確かにシュリはあの日、起き抜けにメアに向かって『ゴッド……』とか訳の分からないことを呟いていた気がした。
「……まさか、自分で全部準備してたのは……」
「あ?準備?」
シュリが自ら身を清め、更にそこを拡張しジェルを入れ込んであったのは、神のように崇めたメアの手を汚さず、煩わせず、慈悲を求めるためだったのではないか。
「はーーーー……エロ可愛いと思っていた自分を殴り飛ばしたい……」
「何の話だよ……お前ら二人訳わかんねぇよ」
85
お気に入りに追加
2,040
あなたにおすすめの小説
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
転生するにしても、これは無いだろ! ~死ぬ間際に読んでいた小説の悪役に転生しましたが、自分を殺すはずの最強主人公が逃がしてくれません~
槿 資紀
BL
駅のホームでネット小説を読んでいたところ、不慮の事故で電車に撥ねられ、死んでしまった平凡な男子高校生。しかし、二度と目覚めるはずのなかった彼は、死ぬ直前まで読んでいた小説に登場する悪役として再び目覚める。このままでは、自分のことを憎む最強主人公に殺されてしまうため、何とか逃げ出そうとするのだが、当の最強主人公の態度は、小説とはどこか違って――――。
最強スパダリ主人公×薄幸悪役転生者
R‐18展開は今のところ予定しておりません。ご了承ください。
純情将軍は第八王子を所望します
七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。
かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。
一度、話がしたかっただけ……。
けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。
純情将軍×虐げられ王子の癒し愛
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
ねぇ、きっと愛し合う運命なんだよ
ミクリ21
BL
前世で恋人に、魔物から庇われ恋人を亡くしたラース。
しかし、恋人に助けられたのに……その直後魔物に殺され亡くなってしまった。
今世ではアイリスという伯爵令息に転生したが、悲しみが消えないまま人形のように生活していた。
そんなある日、アイリスの専属護衛としてセルジュという元平民の青年が雇われた。
BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました
厘/りん
BL
ナルン王国の下町に暮らす ルカ。
この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。
ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。
国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。
☆英雄騎士 現在28歳
ルカ 現在18歳
☆第11回BL小説大賞 21位
皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
哀しい目に遭った皆と一緒にしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる