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引きこもり
しおりを挟む「えー! じゃあメイナード様、正妃になられるの?!」
驚いた声を上げるのはライだ。誰もいない部屋を選んで良かった。学園内でこんなに叫んだら一発で広がってしまう。貴族が通う学園だし、噂はあっという間である。
「メイナードは悩んでるみたいだけどな」
「悩む必要あるの? 兄様に紹介を頼んでたくらいなのに」
ジナルマーはキョトンとして言う。
そう、メイナードはあの後テンパってしまい、『考えさせてくれ!!』と顔を真っ赤にして叫んでしまった。あのメイナードが王太子に向かってとっさに敬語を使えなかった時点で、意識しているのは丸わかりなのだけど……メイナードはあの一瞬で未来を想像したらしい。
「今まで婚約者も居なかった王太子が適齢期を過ぎた相手を選ぼうとしてるって大臣たちに知られたらなんて言われるか分からない。メイナードの家は喜ぶだろうけど……自分は正妃の器ではないってさ」
「メイナード様的にはユリウス殿下の事どう思ってるの?」
「友人だってずっと思ってたらしい。マジでビビってた」
「はぇ~…」
そもそも、ユリウス殿下は幼い頃からずっとメイナードが気になっていたらしい。けど自分と結婚すれば正妃となって窮屈な思いをさせてしまうかもしれない。しかもメイナードはヴィオレットを熱く見ている(ただの憧れだったらしいけど)し、ヴィオレットと結婚した方が幸せになれると考えていた。まーだから俺が鬱陶しいと本気で思っていたようだ。メイナードの幸せを良くもぶち壊してくれたと。
実際のメイナードはヴィオレットを好きにはなっておらず、貴族らしく家のための結婚をしようとか考えていただけだ。
「まあ、めでたしめでたしだな。後はユリウス殿下とメイナード様自身で解決すべきことだ」
「うんうん。テーヴの言う通りだよ」
テーヴとライが、良かったな、お疲れ。と俺を労う。けれど俺の顔は浮かばない。
「え?ノエルまだなにかあるの?」
「……ユリウス殿下が、ヴィオレットに圧をかけてるんだよ」
「兄様に?なんで。もうユリウス殿下は想いを伝えられたのだし、メイナード様にアプローチすればいいだけの話じゃないか」
「そのメイナードが逃げてるんだよ!」
そう。あの日『考えさせてくれ!!』と叫んだ後、メイナードは全速力で逃げた。俺もユリウス殿下もポカンと呆気に取られたまましばらく立ち竦んでいた。
ユリウス殿下は暫くすると「え……?ふ、フラれた訳ではないよね?」と俺に泣きそうな顔で訴えてきたので、俺はブンブンと首を縦に振るしか無かった。
とりあえずメイナードを探そうとしたら、心配していたヴィオレットが来ていたらしい。王城の一室でメイナードはソファに座ったり立ったり、歩き回ったりととにかく落ち着かないのでヴィオレットもハラハラしていた。ヴィオは何があったのか聞き出せず、俺が合流してようやく事の次第を理解したのだった。
「そんで、ヴィオレットはユリウス殿下の所に行って、とりあえずメイナードは帰宅させるってなったんだけど……帰る前にもう一度会わせて欲しい、 とか、むしろ泊まっていくべきだとか言って……めちゃくちゃしつこかった」
「そんな状態で話しても何もならないでしょ」
兄様の言う通り、帰って冷静になった方が良いよね?とジナルマーが言う。二人もうんうん、と頷いた。
「いやー…ヴィオも何度もそう言ったけど…ユリウス殿下が『貴様!婚約者だけじゃなくてメイナードも手放さないつもりか!』って余計大変なことになった」
「おおお……ユリウス殿下って落ち着いてて、優しさと厳しさも兼ね備えてて王の資質もちゃんとあるって専らの噂なのに……好きな人にはただの男なんだね…」
恋って怖い、とヤバい姉を持つライが言うと説得力がある。
「そんな訳で、俺は暫くヴィオの所に行くことになったから!よろしくジナルマー!」
「え? 僕は大歓迎だけど、どうして?」
「メイナードがあまりにも落ち着かないから実家に帰せなくて、ヴィオの客人として公爵家に居るんだよ」
「え!気づかなかった!」
「引きこもってるらしいからな。俺が様子見に行って欲しいってヴィオに頼まれた」
事情を知ってる者が会った方がメイナードも安心するだろうってことで俺が選ばれた。
「……ヴィオ様、浮気を一ミリも疑われたくないんだろ」
「あ、テーヴ思った?相談役にあんまり向かないノエルを選んだってことはそういうことだろーなって思った」
テーヴとライがなんか言ってるけど、暫くずっとヴィオと一緒に居られるとルンルンの俺には聞こえてなかった。
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連載当初からずっと好きで何回も読み直してます。
本当に何年かかっても完結して欲しいです😭
本当に好きなんです。楽しみにずっと待っています。
読んでくださってとても嬉しいです!
ノエルをまだまだ幸せにしたい、とは思ってます……!頑張ります……!
感想ありがとうございます。
更新ありがとうございます‼️
地味に待ってました🎀
感想ありがとうございます!
一年以上お待たせしてしまいすみません。読んでくださって嬉しいです!
感想ありがとうございます!
一番マイペースに書かせてもらってますが、頑張ります……!
読んで下さってありがとうございます!