BLしたくない伯爵子息は今日も逃げる

お城に行きますって言っただけで大騒ぎ

  そして一週間後、俺はヴィオレットと王城に行くことになった。

  あ、あの後はしっかりお家に帰されました。返品されました。ヴィオレットはちょっと理性が強すぎると思う。もうちょっとチューしても良かったと思う。ぷくぷくと膨れる頬を不細工に潰された俺はブーブーと言いながら家に帰った。

  けどその後、家で夕食時のこと。

「今度ヴィオとお城に行ってくる」

  俺が言ったと同時に、ガシャーン！！と食後のティータイム中な父、クリスのティーカップが無惨にも床に砕け散った。
  母上であるセドが気に入っていたティーカップなのに。後でめちゃくちゃ怒られそうだなと思っていたら、ワナワナとクリスが震えだした。

「お…俺は、俺は認めないからなあああぁぁああぁあああ！！！」

  とドップラー効果の叫びで廊下へ駆け出していってしまった。ポカンとしているとセドも目を見開いていたし、エリクもちょっとお茶を零してる。え、なになに。なんで。

「父上はどうしたんだ？」
「ノエル、聞いてないよ！ヴィオ様と行くってことは、もうそういうこと？！」
「か、母さん！まだ分からないって！ノエル兄さんどういうこと？！」

  二人の慌てっぷりに俺は益々意味を理解できずに首を傾げた。

「？ ヴィオの友達である殿下に、俺のことを紹介するって話だけど」

  俺がそう言うと、二人のワタワタした動きはピタッと止まった。

「……な、なーんだ、てっきり国王陛下に結婚の申し込みしに行くのかと……」

  セドがホッと胸を撫で下ろししていた。ビックリした、とエリクまで安心したようにため息をついている。
  もうれっきとした婚約者なのだからいつ結婚してもおかしくないのになぜこんな驚かれるのだろうか。

「もー、ノエルがもう結婚して出てっちゃうのかと思っちゃったよー」
「流石に学生のうちはマズイからさ、ノエル兄さん。父さんも気が動転して泣いて走ってっちゃったじゃんよー」
「……俺はもう、結婚したいけど」

  セドとエリクがあはは、と笑っているところにモジモジボソボソと小さく言い返す。セドは応援してくれる側だし、言っても大丈夫だと分かっているので顔が火照るのが分かっていても俺は言った。

「……我が息子ながら思うけど、ヴィオ様の涙ぐましい我慢が見える気がしてなんか申し訳ないよ……」
「本当にノエル兄さんが『ヤダヤダ婚約破棄したい！男と結婚したくない！』って言ってたって……俺はジーナに言われても信じられないよ、母さん」
「言ってたんだって。大変だったんだってば。ツンだらけのノエルがこんなにデレするなんて誰も思わなかったんだから」

  誰がツンデレだ。

  とまあこんな感じでうちの家族は一瞬大騒ぎした。クリスはその後セドに説明されたらしく復活してた。「そうだよな！まだ結婚は早いよな？！」とニコニコ顔だったのでムカついて無視した。
  俺くらいの歳で嫁ぐ人は沢山いる。けど学生のうちに結婚するのはちょっとだけ、はしたないと言われることがあるらしい。別に良くない？むしろ俺は羨ましいとすら思うんだが。

「まぁノエルもさ、焦らず婚約期間を楽しんでよ。今しかない楽しいことは沢山あるから、ね？」
「もう十年待ってる！」
「まあまあそう言わないで、ノエル兄さん。それ以上言ったら父さん死んじゃう」

  ぷくぷくと膨れる頬を、セドとエリクに両側からつんつんされた。早く卒業したい！