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リミッターは壊れているかも

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「は? 王太子に会う?」

  俺は聞き覚えの無い言葉を聞いたので首を傾げて尋ねると、深く深く溜息をつく婚約者のヴィオレットは心底面倒くさそうにしていた。

「ああ。今までずっと断り続けてきたんだが、最近の様子を誰かから聞いて気になったようでな」
「なに、様子って。誰のこと?」
「俺とノエルのことだ」

  なんで。ヴィオレットと俺? 
  最近の俺たちの様子を聞いて会いたくなるってどういうこと?

  ヴィオレットは公爵家だし、親類縁者繋がりで多分王太子とも会う事があるんだろうけど俺は貴族といえども下の方に居るので会ったことない。

「ノエルに会ってみたいそうだ」
「俺ぇ? 会ったこともないのに?」
「会ったことないから気になるんだろう。はぁ……俺としては結婚するまで会わせるつもりは毛頭なかったんだが」
「そ、それって、俺が」

  ヴィオレットの言葉に少しだけ声が震える。
  最近の俺はメイナードに鍛えられてだいぶマシになったと思う。ヴィオレットがそのままでいいと言う雑な口調だって、二人きり以外の時はちゃんとするようにしている。けど本当は出来てないんだろうか。世に出して恥ずかしいから会わせたくないのか。

「……なんか変な方向に考えてるな。お前はどうしてそう…はぁ」
「な、なんだよ…」
「お前のことだから殿下に会わせるのが恥ずかしいと俺が思っているとかそんな所だろう」
「うぐ」

  なんなんだこいつ、エスパーか。

「いいか。ノエル、いい加減自覚しろ。お前は今や女でも男でも所構わず魅了する人間で、変わってるのはメイナードやらジナルマー達の方だからな」
「それずっと言うじゃん……」
「自覚するまで言い続ける」

  思い切り断言されてちょっと戸惑う。ジナルマーは俺の弟のエリクと既にフラグが立ってるし、テーヴとライだって婚約してる。だから変わってるというか、どう足掻いても俺とフラグの立ちようがないのだから安心出来るのだ。

  じゃあメイナードは?と聞かれると、メイナードは元々ヴィオの婚約者候補だし。まぁ前世でいう当て馬みたいな役割なところがあったから、フラグなんて立たない。

  他の人は?と聞かれるとちょっと分からない。魅了してるつもりは一ミリだってない。だいたい、魅了するなら不特定多数の人間ではなく、この目の前にいる婚約者に…

「…………お前は本当に、俺に感謝してくれ。俺の、理性に」

  耳やら頭頂部やらを真っ赤にした俺は、想像なんかしてない。目の前にいるこの婚約者をメロメロにして、今すぐこの間みたく、ちゅ、チューして欲しい、なんて。

  ヴィオはぐぐ、と喉を獣のように鳴らした。それを見てカッコイイ、なんて思う俺こそヴィオに魅了されているんだと思う。

「とにかくだ。王太子に会うからな。誰彼構わずそうやって振り撒くな」
「俺なにを振り撒いてんの……?」

  そう言うとヴィオレットは盛大なため息をついた。
  怒らせたかな、なんて首を傾げると俺の顎に指を添えてクイッと、そう。クイッと少女漫画のようにほんの少し上に向けさせられた。

  あ、チューされる……

「そうやって、ノエルは突然ポヤポヤしだして…色気を振り撒いてるんだ」
「いろ、け……? っ!んん…ん…」

  前の時見たく優しいバードキスなんかじゃなくて、肉食獣のように食らいつくキスだった。

「んっ…っ、ぁ、ふ、ん…っ!んんっ」

  くぐもった声と時折漏れる空気の音が混ざり合い、そこにくちゅくちゅとした唾液と粘膜の重なる四重奏に翻弄される。耳までキスをされているかのような感覚に陥り、苦しいのに気持ちよくて、離して欲しくなくてヴィオの服をギュッと掴む。
  ヴィオはそれに気づいて優しく俺の手を掴んで指をするりと絡ませて俺の顔の横に恋人繋ぎで固定した。  俺はさっきまで座っていたソファにいつの間にか押し倒されていた。

  なんだこの、流れるようなキスは。おかしい。ヴィオレットが、野獣になってる…?!あ、もう片方の手も恋人繋ぎされちゃうんですね。うわー……やばい。やばい……!ヴィオのカッコイイ顔がまた近づいて、またチューされる…っ

「……ノエル、そろそろ止めてくれ」

  しかしヴィオは鼻と鼻がつくかという距離でピタリと動きを止めた。

  え?止める必要あった?


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