31 / 54
疑念
しおりを挟む
それからひと月程経っても、彼と俺は図書室で良く話していた。
彼の名前は相変わらず知らないままだが、尽きない話題は面白いし、飽きない。
「ノエル君はその仏頂面をやめた方がいいと思うけど」
彼に突然言われ、俺は全力で首を振った。
「無理無理無理!笑った瞬間にヴィオレット様とランディに目を付けられたんだぞ?」
「ギャップって言葉知ってる?」
「し、知ってるけど…」
「ノエル君はずーっと無表情でしょ?そこで急に君のその容姿で微笑んだら一発でやられるのも無理はないと思うよ」
彼に言われ、ハッと気づく。確かに日本の姉は良く良く「ギャップ萌え」とか言っていた気がする。
まさか俺は今までそれをやり続けていたのか。
「けど今更やっても!」
逆効果で、むしろもっとランディみたいなやつが現れるのでは、と不安になる。
「まだまだこれから先学園生活は長いんだから。むしろ変えるなら今だと思うけどね。まぁ考えてみてよ」
俺はトボトボと図書室から教室へ向かう。
彼に言われたことをしたとして、俺は本当に目立たない学園生活を送れる保証はあるのだろうか。
実際ここ一ヶ月、何も起きていないし、このままでも十分ではないだろうか。
ヴィオレットからもらった腕輪やイヤリングは、ようやく効果を実感してくるほどには平和だ。
なら無理に現状を変える必要はなくないか。
「けど、まぁ…俺も思いっきり笑う時には笑いたいしなぁ…」
ジナルマーもライもテーヴも、俺の事情を知っているからこそ、無表情でいても何も言われずに友人でいてくれている。俺は別に日本の時とは違い、今はもう、たくさん友人を作りたい!というスタンスではないし、ぶっちゃけこの三人がいてさえくれれば学園生活は楽しいし平和だ。
けどやっぱり、笑いたい時に笑えないと言うのはきついものがある。
家ではようやく普通に笑うようになったけど、友人の前で笑えないのは少しずつ心も痛むし、何よりちょっとずつストレスも感じてきていた。
「うー…でもなー!」
わしわしと頭を両手で掻く。やっぱり現状維持が一番であると思った。だって、今平和なのは、自分が無表情を貫いてきたからだ。無理に変える必要はないはず。
そう思いながら歩いていると、いつの間にか教室に到着していた。
「…おかえり、ノエル」
ジナルマーに言われ、「ただいま」と返した。昼休みも終わりになりかけている頃、席について次の授業の支度を始めようとした。
すると、隣にいるジナルマーが俺の顔を覗き込んできた。
「ねぇ。最近昼休みの度にどこかに行ってるみたいだけど、一体どこに行ってるの?」
ジナルマーは、なんとなくムスッとしていた。
いつもの王子様のような微笑みではない表情に、俺は少し戸惑った。
「えっと…図書室だけど」
別に悪いことは何もしていないし、俺は隠さずそう言った。
「その割に、本はいつも借りてこないね。何してるの?」
「…別に、なんでも良いじゃんか」
なんだが、浮気をして問い詰められている夫の気分になってくる。でも本当に何も悪いことはしていない。でも、なんとなくムッとして素直に言いたくなくなってしまった。
「ね、ねぇ。ノエル。ジナルマーは心配してるんだよ?ほら、ノエルはいつも何か問題が起きるし…」
「問題なんか起こしてないし、本当に図書室に行ってるだけだ!」
「ライに当たるな。ライもジナルマーも心配してるだけだ。別に何もしてないならそれで構わない。本当に図書室に行って本を読んでるだけだな?」
テーヴに言われ、俺は無言で返事をしてしまう。
なんとなく言いたくなくて黙っていると、ジナルマーが少しだけため息をついた。
「ねぇ。やっぱり何かあるんでしょ。怒ったりしないから教えてよ。ライもテーヴも言った通り、本当に心配なの。別にこれは、ノエルが兄様の婚約者だからじゃなくて、友人として」
本当に心配した表情をするジナルマーに、俺は俯いてからモゴモゴと口を動かすように話した。
「…仲良くなった人がいて…話してた」
「そう。それは男の人?女の人?」
「お、男だけど」
「名前は?学年は?」
問い詰められるように、けどなるべく口調は優しくしようとしているのが伝わってくる。
「知らない…」
「…嘘でしょ。誰かもわからない人と一緒にいたの?まさか二人きりじゃないよね?」
「そうだけど。でも別に何も俺は」
そういうと、ジナルマーもテーヴも思いっきり深いため息をついた。
ライはそんな二人を見て、「ま、まぁまぁ、ノエルが素直に教えてくれたんだし、責めちゃダメだよ…」とフォローを入れてくる。
「明日から、その人に会うときは僕も行く。いいね?」
「え!なんで!」
「…あのね。仮にも婚約者がいる人間が、男と二人っきりなんてダメに決まってるでしょ?その人もどうしてノエルに言わないのか…はなんとなく理由はわかるけど」
「でも…」
でもじゃない、とジナルマーが諭すように俺の言葉を遮り、説明した。
「さっきも言った通り、僕は兄様の婚約者だからノエルを心配してるんじゃなくて、友人として心配してるの。ノエルは何度も被害に遭ってて、今回も被害に遭わない保証は一体どこにあるの?」
「う…でも、本当に良い人で」
「ランディだって、別に暴走しちゃっただけでとっても良い人だよ」
そこで俺はムッとする。
「会ったこともないのに、どうしてランディとその人を一緒にするんだよ」
「一緒かもしれないでしょ?どうしてもっと危機感持てないのかな…!」
そして俺は、ついにジナルマーの言葉にカチンときてしまった。
ガタッと大きな音をさせて席を立って、拳を震わせる。俺の突然の行動に、三人はびっくりした様子で目を丸くする。
「うるさい!俺だって好きでこんなことになってない!!」
そして、授業が始まるのも忘れて教室を出ていった。
彼の名前は相変わらず知らないままだが、尽きない話題は面白いし、飽きない。
「ノエル君はその仏頂面をやめた方がいいと思うけど」
彼に突然言われ、俺は全力で首を振った。
「無理無理無理!笑った瞬間にヴィオレット様とランディに目を付けられたんだぞ?」
「ギャップって言葉知ってる?」
「し、知ってるけど…」
「ノエル君はずーっと無表情でしょ?そこで急に君のその容姿で微笑んだら一発でやられるのも無理はないと思うよ」
彼に言われ、ハッと気づく。確かに日本の姉は良く良く「ギャップ萌え」とか言っていた気がする。
まさか俺は今までそれをやり続けていたのか。
「けど今更やっても!」
逆効果で、むしろもっとランディみたいなやつが現れるのでは、と不安になる。
「まだまだこれから先学園生活は長いんだから。むしろ変えるなら今だと思うけどね。まぁ考えてみてよ」
俺はトボトボと図書室から教室へ向かう。
彼に言われたことをしたとして、俺は本当に目立たない学園生活を送れる保証はあるのだろうか。
実際ここ一ヶ月、何も起きていないし、このままでも十分ではないだろうか。
ヴィオレットからもらった腕輪やイヤリングは、ようやく効果を実感してくるほどには平和だ。
なら無理に現状を変える必要はなくないか。
「けど、まぁ…俺も思いっきり笑う時には笑いたいしなぁ…」
ジナルマーもライもテーヴも、俺の事情を知っているからこそ、無表情でいても何も言われずに友人でいてくれている。俺は別に日本の時とは違い、今はもう、たくさん友人を作りたい!というスタンスではないし、ぶっちゃけこの三人がいてさえくれれば学園生活は楽しいし平和だ。
けどやっぱり、笑いたい時に笑えないと言うのはきついものがある。
家ではようやく普通に笑うようになったけど、友人の前で笑えないのは少しずつ心も痛むし、何よりちょっとずつストレスも感じてきていた。
「うー…でもなー!」
わしわしと頭を両手で掻く。やっぱり現状維持が一番であると思った。だって、今平和なのは、自分が無表情を貫いてきたからだ。無理に変える必要はないはず。
そう思いながら歩いていると、いつの間にか教室に到着していた。
「…おかえり、ノエル」
ジナルマーに言われ、「ただいま」と返した。昼休みも終わりになりかけている頃、席について次の授業の支度を始めようとした。
すると、隣にいるジナルマーが俺の顔を覗き込んできた。
「ねぇ。最近昼休みの度にどこかに行ってるみたいだけど、一体どこに行ってるの?」
ジナルマーは、なんとなくムスッとしていた。
いつもの王子様のような微笑みではない表情に、俺は少し戸惑った。
「えっと…図書室だけど」
別に悪いことは何もしていないし、俺は隠さずそう言った。
「その割に、本はいつも借りてこないね。何してるの?」
「…別に、なんでも良いじゃんか」
なんだが、浮気をして問い詰められている夫の気分になってくる。でも本当に何も悪いことはしていない。でも、なんとなくムッとして素直に言いたくなくなってしまった。
「ね、ねぇ。ノエル。ジナルマーは心配してるんだよ?ほら、ノエルはいつも何か問題が起きるし…」
「問題なんか起こしてないし、本当に図書室に行ってるだけだ!」
「ライに当たるな。ライもジナルマーも心配してるだけだ。別に何もしてないならそれで構わない。本当に図書室に行って本を読んでるだけだな?」
テーヴに言われ、俺は無言で返事をしてしまう。
なんとなく言いたくなくて黙っていると、ジナルマーが少しだけため息をついた。
「ねぇ。やっぱり何かあるんでしょ。怒ったりしないから教えてよ。ライもテーヴも言った通り、本当に心配なの。別にこれは、ノエルが兄様の婚約者だからじゃなくて、友人として」
本当に心配した表情をするジナルマーに、俺は俯いてからモゴモゴと口を動かすように話した。
「…仲良くなった人がいて…話してた」
「そう。それは男の人?女の人?」
「お、男だけど」
「名前は?学年は?」
問い詰められるように、けどなるべく口調は優しくしようとしているのが伝わってくる。
「知らない…」
「…嘘でしょ。誰かもわからない人と一緒にいたの?まさか二人きりじゃないよね?」
「そうだけど。でも別に何も俺は」
そういうと、ジナルマーもテーヴも思いっきり深いため息をついた。
ライはそんな二人を見て、「ま、まぁまぁ、ノエルが素直に教えてくれたんだし、責めちゃダメだよ…」とフォローを入れてくる。
「明日から、その人に会うときは僕も行く。いいね?」
「え!なんで!」
「…あのね。仮にも婚約者がいる人間が、男と二人っきりなんてダメに決まってるでしょ?その人もどうしてノエルに言わないのか…はなんとなく理由はわかるけど」
「でも…」
でもじゃない、とジナルマーが諭すように俺の言葉を遮り、説明した。
「さっきも言った通り、僕は兄様の婚約者だからノエルを心配してるんじゃなくて、友人として心配してるの。ノエルは何度も被害に遭ってて、今回も被害に遭わない保証は一体どこにあるの?」
「う…でも、本当に良い人で」
「ランディだって、別に暴走しちゃっただけでとっても良い人だよ」
そこで俺はムッとする。
「会ったこともないのに、どうしてランディとその人を一緒にするんだよ」
「一緒かもしれないでしょ?どうしてもっと危機感持てないのかな…!」
そして俺は、ついにジナルマーの言葉にカチンときてしまった。
ガタッと大きな音をさせて席を立って、拳を震わせる。俺の突然の行動に、三人はびっくりした様子で目を丸くする。
「うるさい!俺だって好きでこんなことになってない!!」
そして、授業が始まるのも忘れて教室を出ていった。
10
お気に入りに追加
1,871
あなたにおすすめの小説
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ねぇ、きっと愛し合う運命なんだよ
ミクリ21
BL
前世で恋人に、魔物から庇われ恋人を亡くしたラース。
しかし、恋人に助けられたのに……その直後魔物に殺され亡くなってしまった。
今世ではアイリスという伯爵令息に転生したが、悲しみが消えないまま人形のように生活していた。
そんなある日、アイリスの専属護衛としてセルジュという元平民の青年が雇われた。
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
回顧
papiko
BL
若き天才∶宰相閣下 (第一王子の親友)
×
監禁されていた第一王子 (自己犠牲という名のスキル持ち)
その日は、唐突に訪れた。王国ルーチェントローズの王子三人が実の父親である国王に対して謀反を起こしたのだ。
国王を探して、開かずの間の北の最奥の部屋にいたのは――――――――
そこから思い出される記憶たち。
※完結済み
※番外編でR18予定
【登場人物】
宰相 ∶ハルトノエル
元第一王子∶イノフィエミス
第一王子 ∶リノスフェル
第二王子 ∶アリスロメオ
第三王子 ∶ロルフヘイズ
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが
松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。
ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。
あの日までは。
気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。
(無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!)
その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。
元日本人女性の異世界生活は如何に?
※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。
5月23日から毎日、昼12時更新します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる