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警戒
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俺は3人に視線で責められ、なんとなく居心地悪くなり、トイレに行くと嘘をついて教室を出た。
なんだよ、なんだよ!
最初に騙したのはヴィオレットの方だ。それは間違いないし、誰に聞いてもこのことに関してはヴィオレットが悪いと認めてくれる。
しかしその後のヴィオレットに対する態度が良くないと言ってくる。
いや、態度よく出来るか?詐欺師に向かって良い顔出来るのか?
大体ヴィオレットはそれで良いって感じで接してくるし、別に俺とヴィオレットが納得の上なら俺の対応になんら問題はないと思う。
「ううう……なのに……!」
どうして責められなくてはならないのか。
ヴィオレットが誠実なら、誠実で返せと? だから、相手は詐欺師なんだって!
『ノエル、いい加減にしなさい! ノエルに婚約者破棄する気があって、ヴィオレット様がそれを今は許してくれても、公爵家への対応としては最悪だよ! 大体勝手に婚約してきたノエルが悪いんだから!』と、母上であるセドには相当怒られた。
確かにそうだ。この婚約は、俺が単身乗り込んで勝手に契約してきたのだ。
「けどあれが詐欺だったわけで……やっぱ俺悪くないよな…!」
ごちゃごちゃと考えながら廊下を歩いていると、下を向いていた弊害か。ドンッと何か正面にぶつかってしまった。
「あてっ」
そのまま尻もちをついてしまう。
ぶつかった鼻頭を押さえながら前に立っていた人物を見上げる。どうやら背中にぶつかったようだった。
「あ。ごめんね、大丈夫かい?」
「や…俺が下向いてたから、ごめんなさい」
無事を確認しながら手を差し出してくれたので親切な彼の手を掴んで立ち上がった。
立つとかなりの長身で、俺が立ち上がっても見上げるままの視線は変わらず、少し首が痛い。
ヴィオレットの時も首が痛くなるので同じくらいかやや彼の方が背が高そうだった。
「あれ…君、見覚えあるなぁ」
「? 初対面だと思う」
「それは、そうだと思うけど…ああ! ヴィオレット様の婚約者か」
つい喉をひく、と引き攣らせてしまう。今まさに考えていた事柄だったので、油断して無表情を崩してしまった。
とはいえ笑顔になった訳でもないのでほっとする。
「へー君が…凄く有名だよ。あのヴィオレット様が婚約者をついに決めたってね」
「はぁ」
目の前の眼鏡を掛けた長身の男は、知的に見え、さらに整った顔立ちをしている。
しかし失礼ながらヴィオレットと比べるとどうにも見劣りするが、こういうのが好きな女子もいるだろうな、と思う。
「何か悩み事でも?」
「え?」
「いや、下を向いて歩くくらいだから何か悩みでもあるのかなと」
「いや…大したことは」
初対面の知らない男に言う話でも無い。
誰かに相談出来ればそれはありがたいが、両親や友人たち同様に責められる未来しか見えないし、そもそもヴィオレットを多少なりとも知っている奴に言ってもいいことなど何も無い。
ランディの件で相当懲りたのだ。
「そうだよね、知らない人に言われたら警戒するか」
「あ、いや…」
「でも知らない奴の方が、相談ってしやすくない?」
その言葉に俺は、少しだけ口を開けてぽかんとしてしまう。
目の前にいる男はにっこりと微笑み、俺の警戒を少しだけ解いていく。
「君が何かに悩んでて、考えがまとまらないなら、まとめるためのノートと思えば良いよ」
この世にはこんな良い奴もいるのか、とジーンとした。
「……じゃ、じゃあ少しだけ……」
そうして俺は、微笑むメガネの長身の男に警戒を少しずつ解いて語り始めることになった。
なんだよ、なんだよ!
最初に騙したのはヴィオレットの方だ。それは間違いないし、誰に聞いてもこのことに関してはヴィオレットが悪いと認めてくれる。
しかしその後のヴィオレットに対する態度が良くないと言ってくる。
いや、態度よく出来るか?詐欺師に向かって良い顔出来るのか?
大体ヴィオレットはそれで良いって感じで接してくるし、別に俺とヴィオレットが納得の上なら俺の対応になんら問題はないと思う。
「ううう……なのに……!」
どうして責められなくてはならないのか。
ヴィオレットが誠実なら、誠実で返せと? だから、相手は詐欺師なんだって!
『ノエル、いい加減にしなさい! ノエルに婚約者破棄する気があって、ヴィオレット様がそれを今は許してくれても、公爵家への対応としては最悪だよ! 大体勝手に婚約してきたノエルが悪いんだから!』と、母上であるセドには相当怒られた。
確かにそうだ。この婚約は、俺が単身乗り込んで勝手に契約してきたのだ。
「けどあれが詐欺だったわけで……やっぱ俺悪くないよな…!」
ごちゃごちゃと考えながら廊下を歩いていると、下を向いていた弊害か。ドンッと何か正面にぶつかってしまった。
「あてっ」
そのまま尻もちをついてしまう。
ぶつかった鼻頭を押さえながら前に立っていた人物を見上げる。どうやら背中にぶつかったようだった。
「あ。ごめんね、大丈夫かい?」
「や…俺が下向いてたから、ごめんなさい」
無事を確認しながら手を差し出してくれたので親切な彼の手を掴んで立ち上がった。
立つとかなりの長身で、俺が立ち上がっても見上げるままの視線は変わらず、少し首が痛い。
ヴィオレットの時も首が痛くなるので同じくらいかやや彼の方が背が高そうだった。
「あれ…君、見覚えあるなぁ」
「? 初対面だと思う」
「それは、そうだと思うけど…ああ! ヴィオレット様の婚約者か」
つい喉をひく、と引き攣らせてしまう。今まさに考えていた事柄だったので、油断して無表情を崩してしまった。
とはいえ笑顔になった訳でもないのでほっとする。
「へー君が…凄く有名だよ。あのヴィオレット様が婚約者をついに決めたってね」
「はぁ」
目の前の眼鏡を掛けた長身の男は、知的に見え、さらに整った顔立ちをしている。
しかし失礼ながらヴィオレットと比べるとどうにも見劣りするが、こういうのが好きな女子もいるだろうな、と思う。
「何か悩み事でも?」
「え?」
「いや、下を向いて歩くくらいだから何か悩みでもあるのかなと」
「いや…大したことは」
初対面の知らない男に言う話でも無い。
誰かに相談出来ればそれはありがたいが、両親や友人たち同様に責められる未来しか見えないし、そもそもヴィオレットを多少なりとも知っている奴に言ってもいいことなど何も無い。
ランディの件で相当懲りたのだ。
「そうだよね、知らない人に言われたら警戒するか」
「あ、いや…」
「でも知らない奴の方が、相談ってしやすくない?」
その言葉に俺は、少しだけ口を開けてぽかんとしてしまう。
目の前にいる男はにっこりと微笑み、俺の警戒を少しだけ解いていく。
「君が何かに悩んでて、考えがまとまらないなら、まとめるためのノートと思えば良いよ」
この世にはこんな良い奴もいるのか、とジーンとした。
「……じゃ、じゃあ少しだけ……」
そうして俺は、微笑むメガネの長身の男に警戒を少しずつ解いて語り始めることになった。
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