36 / 41
番外編
我儘 side ラヴェル
しおりを挟む
ラヴェル=アンデルベリの人生は、寝台の上が全てであった。
日々、よく分からない病気と戦い、治癒師もお手上げで対処療法のみが施される毎日。
この時の治癒師の腕も悪くは無い、評判のいい治癒師であった。しかし、この治癒師にはラヴェルの病気の原因が分からなかったのだ。色んな治癒師に診てもらったが、この治癒師が1番対応出来ていた。
父も母も、使用人も全員諦めかけていた。
そんな時に、父は縋るように『神の手』と呼ばれる程の才能を持った人物に屋敷まで訪問診療を頼んだ。
それが、後にラヴェルが求婚することになるレイリー=スタームであった。
レイリー=スタームは、今までの治癒師よりも若く、頼んだ父も母も使用人も、そしてラヴェル自身ですら本当に『神の手』なのだろうかと疑った。
それにプラチナブロンドの髪色は軽さを表しているようだったし、黄みがかったグリーンのマリガーネットはゴールデンライムのように品がありつつもどこか軽そうな印象を抱いた。
まずは1ヶ月、父は治療を頼んだ。すると、最初の2週間でラヴェルの顔色が明らかに良くなった。
この時点で父は治療の延長を頼み、1ヶ月経つ頃には、食事を摂りたいとラヴェルから言い出した。
レイリーは、食事にも口を出した。食べていいものを指定し、料理人に指示を出した。そして、メイドにも清拭の仕方を伝えたり、少しの埃も許さなかった。まるで姑のような対応に、使用人は最初は訝しんだ。
けれども、理由はたった1つ。
ラヴェルの為であった。
ラヴェルの病気は、流動食のような食事からスタートさせなければ喉の筋肉は弱り、胃での消化も上手く出来ない。
清拭の時に痒みが出ないようにと力強く拭けば傷ができる。そして小さな埃すら許さなかったこれら2つに関しては、ラヴェルが感染を起こしやすい身体だったからだ。
明らかに病状が良くなって来る事に、使用人は自らレイリーに気をつけた方が良い事を尋ねた。
レイリーは更に、シーツは埃を立てないように交換すること、空気の入れ替えをもっと細かくすること、しかし風邪をひかない様にすること、なるべく話しかけることで嚥下の訓練をさせるようにすること、リハビリは時間を決めて行い、どういったことから始めるのがいいのかなど、病気の治療以外で出来ることを細かく指示した。
使用人たちは、レイリーに言われた通りに行ってくれた。父も母も、なるべく時間が許す限りはラヴェルと話すようになった。
するとだんだん固形食を食べられるようになり、大きな感染症や風邪を引くことも無く過ごすことが出来てきた。
この間、レイリーは2、3日置きにラヴェルの元を通い続けた。
治療を行いつつ、沢山の話を聞いた。
レイリーはスターム家を飛び出していること。
最初は才能なんかなくて、擦り傷を治すことで精一杯だったこと。
沢山の勉強をして、そのうちに『神の手』と呼ばれるようになったこと。
可愛い弟が居たのに、その弟を置いて家を飛び出して後悔していること。
その弟も、『天使の手』と呼ばれて才能があるのに、自分では無いと思っていて悲しんでいること。
寝台の上が全てであったラヴェルにとって、レイリーは初めてまともに会話をした外の世界の人物だった。
最初は、兄が居たらこんな感じなのかもしれないと思っていた。
優しく、穏やかで、でもどこか厳しさもあって。
まるでラヴェルの兄のように思い、慕っていた。
病状が良くなり、ベッドから起き上がることも出来た頃に、父から婚約者を考え始めようと言われた。
ラヴェルの将来を支えてくれる人物が居れば、ラヴェルはもっと治療に希望を持つことができるだろうとの配慮だった。
けれども、ラヴェルは自分の将来をあまり上手く考えることは出来なかった。
支えてもらう将来など、外の世界を知らないラヴェルにはよく分からなかった。
それに、よく知りもしない人間が婚約者になることも理解出来なかった。
だから、父に頼んだのだ。
婚約者にするなら、よく知る人が良いと。
父は困ってしまった。
ラヴェルの世界はベッドの上だけであり、ようやく部屋の中なら多少歩くことができるようになった程度の者がよく知る人物と言うなら、家族か使用人くらいだった。
その時、ラヴェルはまるで、雷に打たれたように感じた。
レイリーの顔を思い浮かんだからだった。
普通の兄弟よりも歳の離れたレイリーしか婚約者にしたくない。そう思ったのだ。
父はもちろん渋った。
貴族とはいえ、歳が離れすぎているし、レイリーはスターム家を出ている。
しかし、ラヴェルは初めて我儘を言った。
自分の身体を1番に理解しているのはレイリーであり、レイリーならばラヴェルを支えられることは間違いない。
スターム家を出ているのはレイリーのせいではなく、父親がダメ人間だったせいで、むしろ無事に家を出れたことを喜ぶべきだ。
歳は離れているが、嫁として迎え入れるならば十二歳離れていることなど小さなことで、もっと離れている夫婦もいることをラヴェルは知っていた。
そう、ラヴェルの父と母は十五歳年の差があったのだ。
最後に、男だという点が父を渋らせた。
ラヴェルの後は、弟と妹のどちらかが産んだ優秀な子供に継いでもらえば良いとゴリ押した。
そして、父はラヴェルの常にない我儘に折れたのだった。
日々、よく分からない病気と戦い、治癒師もお手上げで対処療法のみが施される毎日。
この時の治癒師の腕も悪くは無い、評判のいい治癒師であった。しかし、この治癒師にはラヴェルの病気の原因が分からなかったのだ。色んな治癒師に診てもらったが、この治癒師が1番対応出来ていた。
父も母も、使用人も全員諦めかけていた。
そんな時に、父は縋るように『神の手』と呼ばれる程の才能を持った人物に屋敷まで訪問診療を頼んだ。
それが、後にラヴェルが求婚することになるレイリー=スタームであった。
レイリー=スタームは、今までの治癒師よりも若く、頼んだ父も母も使用人も、そしてラヴェル自身ですら本当に『神の手』なのだろうかと疑った。
それにプラチナブロンドの髪色は軽さを表しているようだったし、黄みがかったグリーンのマリガーネットはゴールデンライムのように品がありつつもどこか軽そうな印象を抱いた。
まずは1ヶ月、父は治療を頼んだ。すると、最初の2週間でラヴェルの顔色が明らかに良くなった。
この時点で父は治療の延長を頼み、1ヶ月経つ頃には、食事を摂りたいとラヴェルから言い出した。
レイリーは、食事にも口を出した。食べていいものを指定し、料理人に指示を出した。そして、メイドにも清拭の仕方を伝えたり、少しの埃も許さなかった。まるで姑のような対応に、使用人は最初は訝しんだ。
けれども、理由はたった1つ。
ラヴェルの為であった。
ラヴェルの病気は、流動食のような食事からスタートさせなければ喉の筋肉は弱り、胃での消化も上手く出来ない。
清拭の時に痒みが出ないようにと力強く拭けば傷ができる。そして小さな埃すら許さなかったこれら2つに関しては、ラヴェルが感染を起こしやすい身体だったからだ。
明らかに病状が良くなって来る事に、使用人は自らレイリーに気をつけた方が良い事を尋ねた。
レイリーは更に、シーツは埃を立てないように交換すること、空気の入れ替えをもっと細かくすること、しかし風邪をひかない様にすること、なるべく話しかけることで嚥下の訓練をさせるようにすること、リハビリは時間を決めて行い、どういったことから始めるのがいいのかなど、病気の治療以外で出来ることを細かく指示した。
使用人たちは、レイリーに言われた通りに行ってくれた。父も母も、なるべく時間が許す限りはラヴェルと話すようになった。
するとだんだん固形食を食べられるようになり、大きな感染症や風邪を引くことも無く過ごすことが出来てきた。
この間、レイリーは2、3日置きにラヴェルの元を通い続けた。
治療を行いつつ、沢山の話を聞いた。
レイリーはスターム家を飛び出していること。
最初は才能なんかなくて、擦り傷を治すことで精一杯だったこと。
沢山の勉強をして、そのうちに『神の手』と呼ばれるようになったこと。
可愛い弟が居たのに、その弟を置いて家を飛び出して後悔していること。
その弟も、『天使の手』と呼ばれて才能があるのに、自分では無いと思っていて悲しんでいること。
寝台の上が全てであったラヴェルにとって、レイリーは初めてまともに会話をした外の世界の人物だった。
最初は、兄が居たらこんな感じなのかもしれないと思っていた。
優しく、穏やかで、でもどこか厳しさもあって。
まるでラヴェルの兄のように思い、慕っていた。
病状が良くなり、ベッドから起き上がることも出来た頃に、父から婚約者を考え始めようと言われた。
ラヴェルの将来を支えてくれる人物が居れば、ラヴェルはもっと治療に希望を持つことができるだろうとの配慮だった。
けれども、ラヴェルは自分の将来をあまり上手く考えることは出来なかった。
支えてもらう将来など、外の世界を知らないラヴェルにはよく分からなかった。
それに、よく知りもしない人間が婚約者になることも理解出来なかった。
だから、父に頼んだのだ。
婚約者にするなら、よく知る人が良いと。
父は困ってしまった。
ラヴェルの世界はベッドの上だけであり、ようやく部屋の中なら多少歩くことができるようになった程度の者がよく知る人物と言うなら、家族か使用人くらいだった。
その時、ラヴェルはまるで、雷に打たれたように感じた。
レイリーの顔を思い浮かんだからだった。
普通の兄弟よりも歳の離れたレイリーしか婚約者にしたくない。そう思ったのだ。
父はもちろん渋った。
貴族とはいえ、歳が離れすぎているし、レイリーはスターム家を出ている。
しかし、ラヴェルは初めて我儘を言った。
自分の身体を1番に理解しているのはレイリーであり、レイリーならばラヴェルを支えられることは間違いない。
スターム家を出ているのはレイリーのせいではなく、父親がダメ人間だったせいで、むしろ無事に家を出れたことを喜ぶべきだ。
歳は離れているが、嫁として迎え入れるならば十二歳離れていることなど小さなことで、もっと離れている夫婦もいることをラヴェルは知っていた。
そう、ラヴェルの父と母は十五歳年の差があったのだ。
最後に、男だという点が父を渋らせた。
ラヴェルの後は、弟と妹のどちらかが産んだ優秀な子供に継いでもらえば良いとゴリ押した。
そして、父はラヴェルの常にない我儘に折れたのだった。
11
お気に入りに追加
340
あなたにおすすめの小説
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
王子様と魔法は取り扱いが難しい
南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。
特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。
※濃縮版
ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~
てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」
仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。
フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。
銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。
愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。
それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。
オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。
イラスト:imooo様
【二日に一回0時更新】
手元のデータは完結済みです。
・・・・・・・・・・・・・・
※以下、各CPのネタバレあらすじです
①竜人✕社畜
異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――?
②魔人✕学生
日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!?
③王子・魔王✕平凡学生
召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。
④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――?
⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜
エル
BL
(2024.6.19 完結)
両親と離れ一人孤独だった慶太。
容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。
高校で出会った彼等は惹かれあう。
「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」
甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。
そんな恋物語。
浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。
*1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。
魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん
古森きり
BL
魔力は豊富。しかし、魔力を取り出す魔門眼《アイゲート》が機能していないと診断されたティハ・ウォル。
落ちこぼれの役立たずとして実家から追い出されてしまう。
辺境に移住したティハは、護衛をしてくれた冒険者ホリーにお礼として渡したクッキーに強化付加効果があると指摘される。
ホリーの提案と伝手で、辺境の都市ナフィラで魔法菓子を販売するアイシングクッキー屋をやることにした。
カクヨムに読み直しナッシング書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLove、魔法Iらんどにも掲載します。
神獣様の森にて。
しゅ
BL
どこ、ここ.......?
俺は橋本 俊。
残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。
そう。そのはずである。
いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。
7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる