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廉×碧
家
しおりを挟む「ふぅ……」
筒香先生のハウスキーパーを始めて1ヶ月。ようやく慣れてきた。
本当に綺麗だったのは最初だけで、次に来た時からは足の踏み場もなくて玄関を開けて思わず「うわ!」と声を上げた。
ホコリで汚いとかそういうのではなく、ゴミ袋が置いてあって、服が脱ぎ散らかされているような感じだ。これじゃあのロボット掃除機だって意味をなさない。
ようやくやり甲斐のある仕事だと腕をまくって気合を入れ、掃除やら洗濯、買い物に行って食事の準備して…と本格的に家政婦となった。
食事の準備をして気づいたのは、筒香先生は以外にも子供っぽいご飯が好きだということ。
お高いディナーなんか俺には作れない。
けど先生は「お家でハンバーグ食べれるなんて…」と箸を口にしながらジーン…と感動していたくらいだ。
『俺は、あんまり家庭的な家で育ってきてないからね。温かいご飯が食卓にあるだけで嬉しいよ。それに、一緒に食べてくれる人もいるし』と。俺はじーちゃんと二人だけど、じーちゃんとは必ず朝も夜も一緒にご飯を食べていたし、これが普通のことだと思った。
筒香先生にとったら普通は普通じゃないんだと喜んでいるのだから、自分はそういう面では恵まれていたのだと理解した。
「今日はまたじーちゃんも鴨志田さんが夜ご飯作りに来るって言ってたし、先生と一緒に食べちゃお」
最近のじーちゃんは恋人が出来た。恋愛に歳なんか関係ないんだと二人を見てると思う。鴨志田さんは良い人だし、じーちゃんが素直じゃないのも理解してくれてる心の広い女性だ。
鴨志田さんも一人暮らしだから、俺が家を出るようになったら一緒に暮らすと言っていた。そんなの待たなくていいって言ったけど、じーちゃんは『お前が独り立ちするまではダメだ』と頑固一徹。鴨志田さんはニコニコうふふと嬉しそうに笑っていた。
「早く家出ないとなぁ…」
はぁ、とシチューをかき混ぜながらため息。
「え? 神木くん、家出でもするの?」
「しないよ! ってわぁ! び、びっくりさせないでよもー!」
「ごめんごめん。 家出じゃないなら一人暮らしするの?」
俺の肩に手を当てて後ろから声をかけられた。振り返ると仕事帰りの筒香先生がそこにいた。
いつの間に。帰ってきたことに気づかなかった。
「え?あ、うーん…じーちゃんに最近、彼女出来て」
「神木さん、やるなぁ」
「だから早く家出た方が良いかなぁって」
「じゃあここに住む?」
「軽くない?!」
何でもないようにサラッと言った。
「心配しなくてもバイト代は別で出すよ?」
「ええ…う、うーん……」
「ちゃんと神木さんに許可とるし、俺のとこに住むなら神木さんも一人で暮らすより心配しないよね」
それは確かに。
俺の主治医だし、バイト先だけど学校からも近い。筒香先生の身元もハッキリしてるからじーちゃんは多分、筒香先生ならって許可するだろう。
下手に友達とルームシェアするとか、一人暮らしするとかよりもこのセキュリティの高いマンションの方がよっぽど安心するはず。
でもこんなに甘えてしまって良いのだろうか。バイトも住むところも悩まないままトントン拍子に進んでいる。
というかそれ以前に家賃が払えない。
「でも先生、俺ここに住むお金払えないけど…」
「家賃かー、いらないって言いたいけど、神木くんが遠慮するよね」
コクコクと頷く。
筒香先生はうーんと顎に手を当てて考えた後、手をポンと叩いて俺の方を見てニコニコしていた。
「副業も禁止で、週5回は必ず夕飯を一緒に食べるってのはどう?」
「ええ? それ家賃って言うの…?」
「遅くなる時は連絡するし、神木くんの夜遊び防止が目的なだけだからね」
つまり、一緒に食べなくてもいいけど家には帰ってこいということだ。週5で良いのも週1、2回は当直があるからだそうだ。
「どう?かなり破格だと思うけど」
ニッコリ。有無を言わさぬ微笑みがそこにあった。
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