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廉×碧

初めてのバイト

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「わぁ……」

  すぐさまバイトを頼まれたものだからどんな惨状なのかとビクビクしながら向かった先は大きなマンションだった。
  聳え立つマンションを見上げながらぽかんとして立ち尽くす。

  医者ってやっぱりお金持ちなのかな…
俺はじーちゃんと二人だし、木造の古い建物に暮らしてるからなんか異次元の建物な気がした。

  住む世界が違うってこういうことなのだろうか。




「お、お邪魔しまーす……、はぁ……」

  玄関に重い荷物を置いてため息をつく。

  あの後、筒香先生の家に入るまでコンシェルジュ?って人に質問され、筒香先生に確認が取れるまで中に入れず待ちぼうけをくった。その上後から来た住民に上から下までジロジロと見られ凄く居た堪れない気持ちになった。

  ちょっぴり挫けそうになりながらも首をぷるぷると振って気を取り直す。

「よし! やるぞ!」

  むんっ、と腕まくりしていざ部屋の中に入る。
  荷物をもう一度持ち上げ、リビングらしき部屋に行く。どんな惨状なのかなと想像していたのだが、多少脱ぎ着した服はソファに置いてあるが、それだけだ。まるでモデルルームのような綺麗な部屋に目を丸くした。

「え、綺麗じゃん。俺必要ある……?」

  荷物をまた下ろしてキッチンや風呂場、トイレなど探検して一通り見てみたが、どこも綺麗に整頓されていてハウスキーパーなんて必要あるようには見えなかった。

「……あれだけ忙しそうな人だし、もしかして他に雇ってる人がいるのかな」

  独り言を呟きながら掃除機を探すが見つからない。こんなに綺麗に保っているなら絶対にあるはず。そう思ってキョロキョロしていると、機械音がどこからか聞こえてきた。

「……え。ロボット掃除機……」

  本当に俺は居るのだろうか。床を舐めるように走る機械を見つめながら暫く立ち尽くしたのだった。





「神木くん、居る?」
「! 筒香先生!おかえりなさ……い……」

  リビングのトビラが開くと帰宅した家主が現れ、パッと顔を上げた。家主である私服姿の筒香先生はいつもの何倍もキラキラとしていた。

  いつも白衣の姿しか見たこと無かったから驚く。白衣の時だってみんなイケメンだって言ってたけど、私服姿もカッコイイ。

  びっくりして言葉尻が小さくなってしまう。同じ男の筈なのになんだか妙に色気があってドキドキしてしまった。筒香先生がキッチンに近づき、カウンター越しに目をキラキラとさせて覗き込んできた。

「わー、ご飯だぁ。もう今日から作ってくれたの?ありがとう」
「先生さぁ……俺必要ある? 家の中めちゃくちゃ綺麗じゃん」
「それはたまたまだよ。昨日たまたま片付けてたから。いつもは汚くて足の踏み場もないよ」
「でもさ」
「それより、神木くんは食べた?俺お腹空いちゃった。昼食べてないんだよねぇ」
「えっ! じゃあ早く食べよ!」

  ぐううぅ…とお腹の音が丁度よく聞こえてきてしょんぼりとされ、慌てて作った夕飯をテーブルに並べた。
  今日はなんの準備もなかったからとりあえずカレーとサラダにした。並べられていく料理に筒香先生はニコニコと嬉しそうにして「手ぇ洗ってくるねー」とリビングから離れていく。

  くるりと振り返り、やっぱり筒香先生は微笑んでいる。

「神木くんの分も、準備してね」

  筒香先生の分だけご飯をよそっていたが、「うん……」といつの間にか返事をしていた。





  テーブルに二人向かい合って食事を始めると、筒香先生は食べ方も綺麗なのに気づく。俺もじーちゃんに厳しく教えられたと思っているけれど、筒香先生はそれ以上に丁寧で洗練されていた。

「? 神木くん、食べてる?」
「あっ、うん。……味はどう? 俺、人に作ったの初めてで。じーちゃんには作るんだけど」
「うん、美味しいよ。誰かに作ってもらったのを食べるなんて何年ぶりだろ」

  え、と動きを止めた。
  俺の他に誰か雇ってると思ったけれど、誰も雇っていないのだろうか。筒香先生に聞くと、「それはほら、まぁ……あんまり誰かを家に上げたくなくてね」と少しに言葉を濁すように苦笑した。

  どうやら雇ったことはあるようで、家事一式お願いしていたらしい。けれど顔を合わすとストーカー化することが度々あって頼むのを止めたようだった。

「……イケメンでお金持ちも、苦労するんだね」
「神木くんて年の割に大人だね……うっ」

  とりあえず、お茶をついであげて慰めてあげた。

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