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after 楓
楓と礼生②
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人生最大に困った事が起きた。
ダラダラと汗が止まらない。こんなことは初めてだった。
ついこの間の事だ。桜さんと立夏さんがようやく番になった。
桜さんはどうしようもなく女関係にダラしない人だった。まぁ分からなくもない。両親が毎日毎日イチャコラしていて、尚且つ家の何処でも致してしまうのだから。桜さんがグレずに済んだのは、恐らく母親の人柄と父親の放任加減のおかげだったと見ていて思った。
そして立夏さんは、そんな桜さんをずっと好きだった。桜さんは気づいていてなかったのか、気付かないふりをしていたのか、その辺はよく分からなかった。
どうして俺が立夏さんがずっと片思いしていることに気づいていたのか。それは簡単だ。桜さんとセフレらしき人物のキスシーンをたまたま一緒に見かけてしまった。玄関でやるなよ……と呆れながら立夏さんを見上げると、泣きそうになっていたので俺は手を引いて近くの公園まで連れていった。
『……βだし、分かってるんだ。諦めなきゃいけないって。でもさぁ……ズルくない?あんなカッコイイやつがずっとそばに居るし、家族ぐるみの付き合いだし…』
小学生に愚痴らなくちゃいけないほど、心が参っているようだった。立夏さんを哀れとも思った。
『Ωなら良かったのに』
そう涙を流しながら呟く立夏さんも、俺みたく考えれば良かったのに。
「ねぇ、聞いてる?礼生」
「………………ハイ」
そんな過去にぶっ飛んでいたのに、目の前の人物に引き戻されていく。
立夏さんに偉そうなこと言わなくて本当に良かったとあの頃の自分を盛大に褒め讃えたい。無口で無表情な自分を、この時ばかりは賞賛した。
「礼生?」
「…………ハイ。聞いてます」
立夏さんも俺みたく、『1番近い人間を好きにならないようになればいい』そう言いたかった。
俺は今汗をかく原因となった人物とは2つ違いだ。俺の方が年下で、金魚の糞で、下僕のような者だ。彼がYESと言えばYESにするし、出来ることは叶えてきた。
けど、今1番叶えて欲しいと言うことは、俺にはどうしても叶えてはならない事だった。
「礼生は何でも僕の言う事、聞いてくれるもんね?」
天使のような可愛い笑顔で、なんて狡い言葉を息するように言うようになってしまったのか。誰のせいだ。この目の前の人物、楓を最大に甘やかしたのは、楓の父親である慊人さんと。
「…………いや、その」
「聞いてくれるよね?」
「……ハイ」
俺だ。
「あー良かった! 立夏くんと桜お兄ちゃんが番になったから八潮家の跡取り問題も片付いたし、僕はなんにも悩まなくて済むもん!」
「そ、うだな……」
「うんうん! それにダニエルも葵ちゃんも応援してくれてるし、ママもね、『礼生くんなら安心だね』って言ってくれてるよ?パパはちょっとうるさいけど」
あー! ほんとこの天使のような悪魔を育てた親の顔が見たい!いや見たくない!
「でもパパも、僕が黙らせてあげるから!大丈夫だよ!」
全然大丈夫じゃない! 説得じゃなくて黙らせるって時点で大丈夫じゃないんだが!
「だから安心して、僕と番になろうね!礼生!」
そう。これが人生最大級に困っている原因なのである。
ダラダラと汗が止まらない。こんなことは初めてだった。
ついこの間の事だ。桜さんと立夏さんがようやく番になった。
桜さんはどうしようもなく女関係にダラしない人だった。まぁ分からなくもない。両親が毎日毎日イチャコラしていて、尚且つ家の何処でも致してしまうのだから。桜さんがグレずに済んだのは、恐らく母親の人柄と父親の放任加減のおかげだったと見ていて思った。
そして立夏さんは、そんな桜さんをずっと好きだった。桜さんは気づいていてなかったのか、気付かないふりをしていたのか、その辺はよく分からなかった。
どうして俺が立夏さんがずっと片思いしていることに気づいていたのか。それは簡単だ。桜さんとセフレらしき人物のキスシーンをたまたま一緒に見かけてしまった。玄関でやるなよ……と呆れながら立夏さんを見上げると、泣きそうになっていたので俺は手を引いて近くの公園まで連れていった。
『……βだし、分かってるんだ。諦めなきゃいけないって。でもさぁ……ズルくない?あんなカッコイイやつがずっとそばに居るし、家族ぐるみの付き合いだし…』
小学生に愚痴らなくちゃいけないほど、心が参っているようだった。立夏さんを哀れとも思った。
『Ωなら良かったのに』
そう涙を流しながら呟く立夏さんも、俺みたく考えれば良かったのに。
「ねぇ、聞いてる?礼生」
「………………ハイ」
そんな過去にぶっ飛んでいたのに、目の前の人物に引き戻されていく。
立夏さんに偉そうなこと言わなくて本当に良かったとあの頃の自分を盛大に褒め讃えたい。無口で無表情な自分を、この時ばかりは賞賛した。
「礼生?」
「…………ハイ。聞いてます」
立夏さんも俺みたく、『1番近い人間を好きにならないようになればいい』そう言いたかった。
俺は今汗をかく原因となった人物とは2つ違いだ。俺の方が年下で、金魚の糞で、下僕のような者だ。彼がYESと言えばYESにするし、出来ることは叶えてきた。
けど、今1番叶えて欲しいと言うことは、俺にはどうしても叶えてはならない事だった。
「礼生は何でも僕の言う事、聞いてくれるもんね?」
天使のような可愛い笑顔で、なんて狡い言葉を息するように言うようになってしまったのか。誰のせいだ。この目の前の人物、楓を最大に甘やかしたのは、楓の父親である慊人さんと。
「…………いや、その」
「聞いてくれるよね?」
「……ハイ」
俺だ。
「あー良かった! 立夏くんと桜お兄ちゃんが番になったから八潮家の跡取り問題も片付いたし、僕はなんにも悩まなくて済むもん!」
「そ、うだな……」
「うんうん! それにダニエルも葵ちゃんも応援してくれてるし、ママもね、『礼生くんなら安心だね』って言ってくれてるよ?パパはちょっとうるさいけど」
あー! ほんとこの天使のような悪魔を育てた親の顔が見たい!いや見たくない!
「でもパパも、僕が黙らせてあげるから!大丈夫だよ!」
全然大丈夫じゃない! 説得じゃなくて黙らせるって時点で大丈夫じゃないんだが!
「だから安心して、僕と番になろうね!礼生!」
そう。これが人生最大級に困っている原因なのである。
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