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59、神の心と秋の空
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「学祭? 慊人のとこの?」
厳しい残暑も終わり、ようやく涼しい季節となり始めた頃だ。カウンター越しの慊人がコーヒーを口にしながら突然言い出した。
「…ああ。俺は仕事もあるし、参加は厳しいかと思ったんだが……どうにも参加しなくちゃいけない理由があって」
「参加しない気だったの?!」
慊人はいつも忙しい。忙しい合間を縫うようにバイト先に来てくれていることは分かっていたが、まさか学祭まで参加しないつもりだったとは。
慊人の大学は有名な国立で、αか優秀なβばかりがいるらしく、僕は慊人から絶対に大学に近づかないで欲しいと言われていた。
何がある訳でもないのに、心配性だなぁ、なんていつも呑気に思っていた。それに、慊人の大学にわざわざ行く用事もないから近づくも何も、という感じだった。
「面倒。あと波瑠が居ないし」
「慊人くんらしい理由だ」
「でも参加するんでしょ?」
慊人は無言になった。ちょっとムスッとしている。首を傾げていると、慊人は渋々といった表情で頷いた。
「……周りがみんな番やら婚約者やら恋人やら連れてくるらしい。1人でいるのは辛いぞって言われた」
「みんな正しくαだねぇ。めんどくささが」
「でも慊人、大学に近づくなって……いいの?」
そして暫くの無言の後、重々しく慊人はもう一度頷いた。まさに苦渋の決断と言うべき頷き方だった。
「……別に波瑠を見せびらかしたいとかそういうんじゃないんだ、そういうんじゃなくて……くそ!」
「一体何があったの……」
「波瑠があの美人すぎる弓道部員として噂が流れただろ。アレのせいだ」
慊人が言うには、写真のデータが出回り、葵の大学と慊人の大学が近いせいもあって噂がとにかく広がったらしい。
その噂の美人は八潮グループの御曹司の恋人である、と。
しかし、慊人の周囲の友人は一癖も二癖もあるらしく、それを全く信じてないらしい。本物を連れてこなければ信じないし、葵の大学の友人経由で僕の所まで行くとまで言い出したそうだ。
自分の知らない所で、友人たちが僕に勝手に会いに行くのはめちゃくちゃ嫌だと思った慊人は渋々、本当に渋々、僕を学祭に連れていこうという結論に至った。
「なんかごめん…」
「波瑠は悪くない……波瑠が可愛すぎるのが悪い……」
それこそ慊人の欲目だし、そうだとしたら結局僕が悪いってことじゃないのかな…なんて苦笑した。
「でも、良いんじゃない?これでやっと慊人くんの機嫌も直るでしょ」
「……あはは」
「マスター、煩い」
慊人は普通に接してくれるものの、明らかに機嫌が良くなかった。居酒屋事件を未だに引き摺られているのだ。
葵には「波瑠が悪かった訳じゃないんだから、いい加減子供みたくウジウジしてんじゃないわよこの馬鹿犬」と言っていた。
慊人は葵に1番を取られたのが悔しいらしい。
合コンに行ったこと、お酒を飲んだこと、酔っ払った姿を見たこと。とにかく全てを取られたと血涙流しそうなほど悔しがっていた。
「楽しみにしてるね」
「……俺は嫌だ。波瑠をあんな野獣だらけの大学に連れて行きたくない……!」
「余裕ないとカッコ悪いよ~?」
マスターの言葉でカウンターに撃沈したそんな慊人を苦笑して見ていた。慊人をカッコ悪いと思ったことがないから大丈夫じゃないかな……なんて、マスターに聞かれたらため息つかれそうなことを思いながら泣いてる慊人の頭を優しく撫でてあげた。
厳しい残暑も終わり、ようやく涼しい季節となり始めた頃だ。カウンター越しの慊人がコーヒーを口にしながら突然言い出した。
「…ああ。俺は仕事もあるし、参加は厳しいかと思ったんだが……どうにも参加しなくちゃいけない理由があって」
「参加しない気だったの?!」
慊人はいつも忙しい。忙しい合間を縫うようにバイト先に来てくれていることは分かっていたが、まさか学祭まで参加しないつもりだったとは。
慊人の大学は有名な国立で、αか優秀なβばかりがいるらしく、僕は慊人から絶対に大学に近づかないで欲しいと言われていた。
何がある訳でもないのに、心配性だなぁ、なんていつも呑気に思っていた。それに、慊人の大学にわざわざ行く用事もないから近づくも何も、という感じだった。
「面倒。あと波瑠が居ないし」
「慊人くんらしい理由だ」
「でも参加するんでしょ?」
慊人は無言になった。ちょっとムスッとしている。首を傾げていると、慊人は渋々といった表情で頷いた。
「……周りがみんな番やら婚約者やら恋人やら連れてくるらしい。1人でいるのは辛いぞって言われた」
「みんな正しくαだねぇ。めんどくささが」
「でも慊人、大学に近づくなって……いいの?」
そして暫くの無言の後、重々しく慊人はもう一度頷いた。まさに苦渋の決断と言うべき頷き方だった。
「……別に波瑠を見せびらかしたいとかそういうんじゃないんだ、そういうんじゃなくて……くそ!」
「一体何があったの……」
「波瑠があの美人すぎる弓道部員として噂が流れただろ。アレのせいだ」
慊人が言うには、写真のデータが出回り、葵の大学と慊人の大学が近いせいもあって噂がとにかく広がったらしい。
その噂の美人は八潮グループの御曹司の恋人である、と。
しかし、慊人の周囲の友人は一癖も二癖もあるらしく、それを全く信じてないらしい。本物を連れてこなければ信じないし、葵の大学の友人経由で僕の所まで行くとまで言い出したそうだ。
自分の知らない所で、友人たちが僕に勝手に会いに行くのはめちゃくちゃ嫌だと思った慊人は渋々、本当に渋々、僕を学祭に連れていこうという結論に至った。
「なんかごめん…」
「波瑠は悪くない……波瑠が可愛すぎるのが悪い……」
それこそ慊人の欲目だし、そうだとしたら結局僕が悪いってことじゃないのかな…なんて苦笑した。
「でも、良いんじゃない?これでやっと慊人くんの機嫌も直るでしょ」
「……あはは」
「マスター、煩い」
慊人は普通に接してくれるものの、明らかに機嫌が良くなかった。居酒屋事件を未だに引き摺られているのだ。
葵には「波瑠が悪かった訳じゃないんだから、いい加減子供みたくウジウジしてんじゃないわよこの馬鹿犬」と言っていた。
慊人は葵に1番を取られたのが悔しいらしい。
合コンに行ったこと、お酒を飲んだこと、酔っ払った姿を見たこと。とにかく全てを取られたと血涙流しそうなほど悔しがっていた。
「楽しみにしてるね」
「……俺は嫌だ。波瑠をあんな野獣だらけの大学に連れて行きたくない……!」
「余裕ないとカッコ悪いよ~?」
マスターの言葉でカウンターに撃沈したそんな慊人を苦笑して見ていた。慊人をカッコ悪いと思ったことがないから大丈夫じゃないかな……なんて、マスターに聞かれたらため息つかれそうなことを思いながら泣いてる慊人の頭を優しく撫でてあげた。
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