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47、春の花冷え③
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入学式が終わると、サークルに入らないかという勧誘のアーチに囲まれた。 新入生は楽しそうにそれを見ている。
僕はサークルにあまり興味はなかったが、葵に「大学の試験で有利になるから幽霊でも良いから入りなさい」と言われた。
運動サークルに入るのだけは慊人に却下された。僕もそんなに運動は得意じゃないし、Ωに突然変異してから益々筋力が落ちた気がするので慊人の言う通りにすることに決めた。
文化系のサークルを探すことにして、ポスターを眺めていた。手話やらお化け屋敷やら折り紙やら……なんか色々ある。
「ねぇ。君…」
あまり興味が引かれるものはないし、どうしようかと悩む。
バイトもあるし、あまりサークルに力は入れられない。
「そこの君!」
大きな声が聞こえて驚き、振り返る。
声をかけてきたであろう人物は僕をまっすぐ見ていた。周りをキョロキョロしてから自分を指差すと、僕よりも少し小柄な男の子は満足そうに頷く。
「君、弓道部に興味ない?」
「きゅうどう、ですか?」
「うん、そう。ポスターに夢中で集中力がありそうで、周りに勧誘されても断る決断力、しつこくされても耐える忍耐力、そして何より!」
「わぁ!!」
いきなり腕を掴まれ、びっくりして叫んでしまう。僕の腕を真っ直ぐ伸ばし、グッと押される。
「腕が真っ直ぐだ!素晴らしい!」
「……あ、あの……褒めていただいて嬉しいのですが僕は別に運動部に入るつもりは」
「弓道の良い所は」
ニッコリと僕の腕を掴んで離さないこの人物に、たじ…と後ろに引きそうになる。しかし腕は引けなかった。この人物の握力が見た目の違って結構あることに気づく。
「文化系運動部と言っても過言ではない所だと私は思っているよ!」
そして、全弓道部員に謝罪した方が良いと思うことを言ってのけた。
□■□
「それで弓道部に入ったの」
「うん…そう、そうなんだよ……そのまま部室に連れてかれて、1時間くらい弓道の魅力を語られていたらいつの間にかサインしてた……」
バイト先に来てくれた葵が僕の出来事を聞いてくれる。ちなみに今は葵以外お客さんは居ない。マスターも面白がって僕の話を聞いていた。
「いつになっても押しに弱いわね」
「もうバイトの時間が、って逃げようとしても全然離してくれないし、Ωなんで運動は、って断っても僕もΩだから!って言われて何も言い返せなくなって…」
「まぁいいんじゃない? スポーツと言っても弓道は1人の世界のように見えるし、あんまり他の人と接触はないでしょう」
「うんうん。慊人くんもギリオッケーしてくれるって」
マスターがニコニコと言う。けど僕は首を横に振ることしか出来なかった。
慊人には『サークル何にした?』って連絡が来たので答えたら速攻で電話がかかってきたのだ。
「『教える時に身体が触れるから却下。俺が文句言いに行く』って……」
「番犬の事だから弓道着を着た波瑠を想像してるかと思ったのに」
「そういうのは部室に全部あるから買わなくても大丈夫みたいなんだ。それも慊人に言ったら……」
「……誰が着たかも分からない弓道着を着せたくないだけか」
マスターも「あー…」と納得しているようだった。
「番犬が行くまでどうするの?」
「慊人は大学と仕事の両立で忙しいし、暫くは来れないだろうから、それまで行かなくて良いって言われたけど……ちゃんと自分で明日断ってくる」
「……私は波瑠がそのまま弓を引く練習してるに1票だけど、マスターは?」
するとマスターはニコニコしながら「僕も断れないに1票」と言われ、ガックリとするのだった。
勧誘を断る決断力って…ただビクビクしてただけだったのにな……なんて思い返すのだった。
僕はサークルにあまり興味はなかったが、葵に「大学の試験で有利になるから幽霊でも良いから入りなさい」と言われた。
運動サークルに入るのだけは慊人に却下された。僕もそんなに運動は得意じゃないし、Ωに突然変異してから益々筋力が落ちた気がするので慊人の言う通りにすることに決めた。
文化系のサークルを探すことにして、ポスターを眺めていた。手話やらお化け屋敷やら折り紙やら……なんか色々ある。
「ねぇ。君…」
あまり興味が引かれるものはないし、どうしようかと悩む。
バイトもあるし、あまりサークルに力は入れられない。
「そこの君!」
大きな声が聞こえて驚き、振り返る。
声をかけてきたであろう人物は僕をまっすぐ見ていた。周りをキョロキョロしてから自分を指差すと、僕よりも少し小柄な男の子は満足そうに頷く。
「君、弓道部に興味ない?」
「きゅうどう、ですか?」
「うん、そう。ポスターに夢中で集中力がありそうで、周りに勧誘されても断る決断力、しつこくされても耐える忍耐力、そして何より!」
「わぁ!!」
いきなり腕を掴まれ、びっくりして叫んでしまう。僕の腕を真っ直ぐ伸ばし、グッと押される。
「腕が真っ直ぐだ!素晴らしい!」
「……あ、あの……褒めていただいて嬉しいのですが僕は別に運動部に入るつもりは」
「弓道の良い所は」
ニッコリと僕の腕を掴んで離さないこの人物に、たじ…と後ろに引きそうになる。しかし腕は引けなかった。この人物の握力が見た目の違って結構あることに気づく。
「文化系運動部と言っても過言ではない所だと私は思っているよ!」
そして、全弓道部員に謝罪した方が良いと思うことを言ってのけた。
□■□
「それで弓道部に入ったの」
「うん…そう、そうなんだよ……そのまま部室に連れてかれて、1時間くらい弓道の魅力を語られていたらいつの間にかサインしてた……」
バイト先に来てくれた葵が僕の出来事を聞いてくれる。ちなみに今は葵以外お客さんは居ない。マスターも面白がって僕の話を聞いていた。
「いつになっても押しに弱いわね」
「もうバイトの時間が、って逃げようとしても全然離してくれないし、Ωなんで運動は、って断っても僕もΩだから!って言われて何も言い返せなくなって…」
「まぁいいんじゃない? スポーツと言っても弓道は1人の世界のように見えるし、あんまり他の人と接触はないでしょう」
「うんうん。慊人くんもギリオッケーしてくれるって」
マスターがニコニコと言う。けど僕は首を横に振ることしか出来なかった。
慊人には『サークル何にした?』って連絡が来たので答えたら速攻で電話がかかってきたのだ。
「『教える時に身体が触れるから却下。俺が文句言いに行く』って……」
「番犬の事だから弓道着を着た波瑠を想像してるかと思ったのに」
「そういうのは部室に全部あるから買わなくても大丈夫みたいなんだ。それも慊人に言ったら……」
「……誰が着たかも分からない弓道着を着せたくないだけか」
マスターも「あー…」と納得しているようだった。
「番犬が行くまでどうするの?」
「慊人は大学と仕事の両立で忙しいし、暫くは来れないだろうから、それまで行かなくて良いって言われたけど……ちゃんと自分で明日断ってくる」
「……私は波瑠がそのまま弓を引く練習してるに1票だけど、マスターは?」
するとマスターはニコニコしながら「僕も断れないに1票」と言われ、ガックリとするのだった。
勧誘を断る決断力って…ただビクビクしてただけだったのにな……なんて思い返すのだった。
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