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26、夢描く春②

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  僕は自分の部屋で、こんなにも緊張して正座することになるとは思いもしなかった。
  目の前に座る久しぶりに会う慊人はニコニコとしているのに、全くもって笑っていない。


「あ、慊人…これには訳が…」

「どういう言い訳をするの?波瑠には俺というものがありながら他のαを引っ掛けてたことに対してどんな言い訳が?」

「引っ掛…ち、違うよ!そんなことしてない…!」

「じゃああの駅前でのやりとりは一体なんなの?ちゃんと俺に分かるように説明して?」

「うう…」


  慊人には、僕と百崎くんの出会いを説明し、その時にあった事と一週間の出来事を詳細に説明した。
  慊人はずっとニコニコとしている。僕は怖くて辿々しく説明するしかなかった。


「へぇ…じゃあなに。波瑠は笑顔を振り撒きまくって新入生を誘惑したわけだ」

「そんなことしてない…っ」

「はー?じゃああの百崎ってヤツはどう説明するんだ?誘惑したからああいうことになってる訳だろ?」

「も、百崎くんは、その…恋人がいるって言っても、諦めてくれなくて…」


  モジモジというと、慊人はさらにドス黒いオーラを纏って僕を見る。


「…波瑠が優しいから迫ってくるってこと?へー…殺すか」

「ちょ、ちょっと!慊人!」


  慊人が立ち上がりかけたので、本気で殺しにいきかねない雰囲気がして慊人の腰を掴んで止めた。


「波瑠?そんなに止めるほど百崎ってヤツに絆されたの?俺が恋人なのに?」

「絆されたとかじゃなくて…っ」

「じゃあ何。俺よりもあいつの方が良いの?」


  僕はちゃんと恋人がいるって伝えているし、葵もずっと一緒にいて百崎くんが暴走しないように止めてくれている。

  せっかく慊人が帰ってきてくれたのに、どうしてこんな言い合いをしなくちゃいけないんだろう。


  じわ、と目が熱くなっていくのを感じる。  


「なんでそういうこと言うの…!」


  どうして久しぶりにあった恋人にそんなふうに言われなくちゃいけないんだろうか。
  ボロボロと両眼から大粒の雫が出てくる。

  すると慊人からの威圧がフッと緩んでいき、焦ったような顔に変わったのが伝わる。


「っ!は、波瑠!ご、ごめん!言いすぎた!」

「ううう…」

「波瑠…ごめんな、ごめん…」

「慊人の馬鹿ぁ…っ」


  涙をボロボロこぼしながら、慊人にギュッと抱きしめられる。

  ずっと待ち望んでいた体温だった。久しぶりに感じる慊人の香りは少し鼻が詰まっていて分からないけど、僕はやっと安心できた。

  慊人もいつもと同じように僕の首に額を擦り付けてくれる。くすぐったいけど、気持ちいい。


「波瑠を驚かせたくて内緒で帰ってきたんだ…やっと会えると思ったのに、あんなの見たから…頭に血が登った」

「ん…ぐす、僕は、ちゃんと…恋人がいるって、言って断ってる…」

「あー、そうだよな。悪かった、波瑠。悪かったから泣き止んで」


  まだぐずついている僕の涙を拭うように頬に触れる手は優しい。慊人の声も徐々に穏やかになってきて、僕はやっと身体の力が抜けてくる。


「慊人…会いたかった…」

「…っ、波瑠!俺も会いたかった…!」


  抱きしめる腕の力が強くなって、少し苦しいけど僕は嬉しくて抱きしめ返した。慊人の鼓動を感じて、しばらくそうやっていると慊人の腕の力が少し緩まる。


「波瑠…」

「ん、あき…んっ…は、ふ…んんっ」


  慊人の長い指で顎を持ち上げられ、少し上を向くとゆっくりと近づいてくる唇に触れる。柔らかい感触を感じていると、慊人の舌が僕の口内に入ってきて、僕の舌を少し痛いくらい吸い上げてきた。それすら気持ちよくて声が勝手に漏れてしまう。
  慊人を抱き締める腕を強くすると、まるで喜んでいるように僕の口内を慊人の舌が舐る。


「んん…ぁ、んっ」


  慊人の舌が上顎をなぞる。僕の身体はビクと感じてしまい、さらに慊人はそこをなぞった。
  長いキスに溜まる唾液を飲み込みきれず、ツー…と僕の口端から垂れている。

  ようやく離して貰えた頃、僕の目はトロンとしていた。


「はー…蕩けてる波瑠見るの久しぶりすぎてヤバい…」

「ん、慊人…もっと…」

「うわああああ…もう向こう戻りたくなくなる…ヤバい…!」


  慊人は僕をギュッと抱きしめて大きくため息をついて、もう一度貪るようなキスをした。

  気持ちよくて、僕は味わうようにキスに夢中になった。
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