【完結】巡る季節に恋をする

15、秋と傷②

  秋が深まり、慊人の誕生日が近づいてきた。もうすぐ、恋人の期限は三年ぴったりになる。


「慊人、誕生日今年は何が良い？」


  放課後の教室二人きりになった所で僕は聞いた。
  僕は毎年、慊人に直接聞くことにしている。
  慊人は僕には聞かないで誕生日プレゼントをくれる。けど大体、僕が欲しいと思ったものをくれるから毎年驚いたりしている。
  その能力は僕にも搭載して欲しい。


「波瑠」

「ん？」

「だから、波瑠」

「…？」


  何度も名前を呼ばれなくても、もう慊人の方を見ているのにどうしたのか分からず慊人を見上げる。
  慊人は至極真面目な顔をしていて目が太陽に煌めいて、むしろギラついているようにも見える。


「…え？え？慊…」

「誕生日、波瑠をちょうだい」

「………え、待って、え？あ、慊人…？」


  徐々に慊人の言っている意味が理解できてきた気がして、頬がカーッと熱くなるのを感じる。
  違ったら恥ずかしいから言えないけど、でも合ってる気がした。



「波瑠が欲しい」



  キラキラと芸能人ばりに爽やかに微笑みながら言われてしまう。

  僕は口をパクパクしてなんていいか分からずにいると、慊人に指で顎を捉えられる。
  ゆっくりと慊人の顔が近づいてくる、なんて考えていると唇に柔らかいものが触れる。


「あき…ん…っ、んん、ぁ…」

「人生最高の誕生日になりそうだ」

「慊人っ…、本当に言ってる…の？そ、ういうことだよね？」

「ちゃんと言う？波瑠の処女をちょうだいって言ってる」

「しょ…！」


  僕は恥ずかしくて慊人の顔を見れなくなってしまう。
  すると、僕の頭にポンと手が載せられた。


「実は波瑠。波瑠に言わなくちゃいけないことがあるんだ」

「え？な、何…？」

「急遽、留学することになった」


  何を言われたのか分からなくて、慊人をもう一度見る。嘘を言っているようには見えなかった。

  さっきまでの爽やかな笑顔は、寂しげに微笑むものに変わってしまっていた。


「どうして、こんな、時期に」

「…親父の意向で勝手にな。結構抵抗したんだけど、まぁ…どうにもならなくて」

「いつまで…」

「受験ギリギリまで、かな」


  行ってほしくない。そんなことを言えば、慊人は困ってしまう。


「…分かった」

「ごめん、波瑠…」

「誕生日、僕でいいよ」

「…本当にいいのか？」


  自分から言い出しておいて、慊人は不安そうにこちらを見てくる。


「別に今生の別れでもないけど…慊人がそれで頑張ってこれるなら、いいよ」

「…むしろ行きたくなく」

「行きたくなくなるならあげません」

「…頑張るから、波瑠をください…」


  そう言って慊人は僕に抱きついてきた。
  徐々に肌寒くなり始めた気候に、体温が当たって心地よい。慊人の香りが鼻腔をくすぐる。
  僕も慊人の背中に手を回した。


「……慊人」


  慊人を見上げると、自然に口付けをしていた。


  教室のカーテンが揺れている。
  どこか遠くで小さく笑い声が聞こえる。


  優しく蕩けるようなキスに、僕はこのままずっと一緒に居たいと思った。