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10、決意の夏

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  それから、季節は夏に変わった。まだ、恋人期間は三年近くある。


「波瑠、明日は暇?」


  昼休みに空き教室でご飯を食べている時に慊人が僕に聞いてきた。
  口に含んだ卵焼きを嚥下してから僕は答えた。


「明日?暇だよ。何、急に…今までだって普通に遊んだりしてるのに…」


  スマホで連絡を取って、その日に約束して遊んだりしているのに、突然改まって聞かれて少し驚く。
  最近は僕と良く居る事が多い慊人は、本当は友達が多い。
  クラスの友人たちと休日は遊んだりしているようだった。


「ならデートしよう」

「でっ…!な、あ、慊人!ちょ、ちょっと何、急に…!」

「まぁ俺は放課後もデートしてるつもりだったんだけど、波瑠ははっきり言わないと意識しなそうだったから」

「えぇ!?」


  付き合ってからは放課後一緒に帰って、どこか寄ったり、遠回りしてみたりしていた。
  あれが、まさか慊人の中ではデートだったとは思わず、頬を熱くして変な声をあげてしまった。

  今日帰る時から既に意識してしまいそうなことを言われている。


「やっぱり分かってなかったのか。だろうな、とは思ってたけど」


  慊人は少しショックを受けているようだった。
  慊人はデートのつもりだったのに、僕は友達感覚でいたら落ち込むよな、と思い少し申し訳なさを感じた。


「う…ご、ごめん…」

「詫びるなら明日はデートのつもりで来ること」

「…っ、は、はい…」


  慊人の顔を見れなくて、俯きながらお弁当にある小さなハンバーグを食べた。


「幼馴染でいた期間が長すぎて、気持ちが切り替えられないのもわかるけど」


  慊人が僕の顔に手をゆっくり差し出してくる。慊人の長い指が僕の口元に触れて、何かを拭われた。指先に、さっき食べたハンバーグのソースがついている。
  あ、と思った時にはもう遅くて。


「そろそろちゃんと意識して?」


  ペロ、と赤い舌を見せながら指先を舐める。そんな慊人の姿があまりにも色っぽくて全身が熱くなっていった。
  動けなくて、口をパクパクと開閉するしかできないまま、耳まできっと真っ赤になってる。


「あ…う…」

「波瑠、俺の顔好きだよな」

「うぐ…」

「ま、俺も波瑠の顔、好きだけど」

「~~~っ!!」


  暑いのに、さらに頭まで沸騰してしまいそうだった。
  春から夏に変わって、時が経つにつれて徐々に慊人は恋に冷めていくかもしれないと思っていた。

  そんな僕の見通しは甘かった。


「楽しみだなー、明日」

「慊人は僕をどうしたいの…」

「デロデロに甘やかして俺から離れられなくしたい」

「っ…!こ、困る…!」

「困ってほしいからやってるしな」


  僕はこの先どうなってしまうのか不安だった。

  慊人は冷めるどころかどんどん甘くなってく。
  心地よい甘ったるさに、溺れて浮上できなくなりそうだった。



  三年後、僕は本当に慊人から離れられるのだろうか。
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