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8.病院

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 久々の朝食の後は着替えなければならないのだが、身体が重く着替えることが億劫であった。あまりの身体の重さに再び布団に潜り込んだ。

すっかり太陽は昇り、カーテンの隙間からその光がさしこんできている。その光が眩しくて、なぜかつらく感じてカーテンを完全に閉めた。

 暗い部屋でうだうだしていると、扉をノックする音が聞こえた。

「凛乃さん、入りますよ~」
 
自分の家なのだから勝手に入ればいいものを。

「おはようございます!朝ご飯食べましたか?」

「…うん、美味しかった。」

「それはよかったです!行きたいところあるので着替えましょ?」

…なんとなく子供扱いされているのは気のせいだろうか。

「服、ないから貸して。」

「そこに入っているやつ適当に着ていいですよ!じゃ、玄関で待ってますね~」

言いたいことだけ言って風のように去っていった。こうなったら仕方ない。

クローゼットからパーカーとジーンズを拝借した。正直ズボンは履けるか心配だったが杞憂であった。ここで履けなかったら精神に別の角度からダメージを喰らうところであった。

 ついでに帽子も借りて外に出ると、見慣れない白色の軽自動車があった。免許はお互い持っているが車は所持していない。ということはレンタカーであろうか。

「見てください!買っちゃったんです!」

自分の研究を語る時のように目を子犬のようにキラキラさせている。

「なんで?」

「凛乃さんも知っての通り、研究所って僻地にあることが多いじゃないですか。交通の便が悪すぎてやっぱり必要だな~と。」

根っからの車好きでもない限り車の購入の理由なんてそのようなものかもしれない。口には出さなかったが伝わったらしい。

「ささ、乗ってください!」

後ろに乗るのも気まずいため助手席に乗り込む。新車特有の匂いがした。和人も乗りシートベルトを締める。

「どこ行くの?」

「着いてからのお楽しみ、で。」

思わず怪訝な顔をしてしまった私を横目に見ながら、和人はエンジンをかけて発車した。

 日光が眩しく、帽子を目深にかぶった。その状態で10分経った頃だろうか、目的地に着いたと言われたので窓の外を見た。

病院だった。

思わず睨みつけてしまった。

「だって凛乃さん、こうでもしないと病院行かないじゃないですか…」

「別にどこも悪くないのに…」

「最近急激に痩せてしまったので何か病気じゃないか心配なんですよ。僕の不安を取るためにも行ってきてください。…終わったらプリン買ってあげますから…」

病院嫌いは認めるがあまりにも子供扱いすぎやしないか。幸い保険証は常に財布に入れてあるため持ってはいる。ただ、

「何科に行けばいいの?」

「とりあえず内科ですかね。必要なら検査してくれるでしょうし。何も異常なかったら心療内科行きましょ?」

という流れを経て内科を受診することになった。

 車を降りて病院内へと入る。受付で保険証と診察券と引き換えに問診票と体温計を渡され、体温計を脇に挟みつつ問診票と睨めっこしていた。

「本日はどのような症状でお越しですか」という質問、すなわちのっけからつまづく。和人が急激に痩せた、と言っていたのでその他でそう書けば良いのだろうか。

そんなことを考えていると体温計がピピッと鳴った。体温は35.6度。体温は低いが熱はない。問診票の残りを埋めて受付に体温計とともに提出した。

 呼ばれるまで暇である。読書をしたくとも、文字が頭に入ってこない。スマホも画面の光がしんどい。目を瞑っても眠れるわけでもない。このような状況で過ぎる1分は1時間のように感じた。そもそも自ら進んで受診したわけでなく、半ば騙し討ちの形で連れてこられたようなものである。そのせいで余計に苦痛に感じた。

「小山凛乃さーん、中へどうぞー」

やっと呼ばれた。重い腰を上げて移動する。

またソファに座って順番を待つように言われた。無意味に目を瞑って待つことにした。

「小山さーん、どうぞー」

本日二度目のお呼び出し。目を開けて診察室へと入った。

「こんにちは。」

「こんにちは、どうぞおかけください。」

と声をかけて下さったのは女医さんだ。プレートを見ると名前は佐々木さんというらしい。お言葉に甘えて示された黒色の丸椅子に腰をかける。

「本日はどうなさいましたか?」

「ここ1ヶ月不眠気味で文字も読めなくなっていて…人にここ1ヶ月で急激に痩せたので受診したら?ということだったので受診しました。」

「なるほど…食欲はありますか?」

「ありません…自分からは食べずに人に言われてようやく食べる状態です。」

「最近何かストレスに感じることはありますか?」

「上司とうまくいっていないとは感じていますが、それが原因ではないと思います。」

「そうですか、甲状腺の病気の可能性もあるので血液検査をしたいと思います。採血をするので左右の腕どちらか出してください。」

採血…自分の血を見るのは大丈夫なのだが、針を刺す瞬間のチクッという感覚が嫌いである。また、血管が細いらしく、幼少期に点滴をするのに左右で計5回失敗された挙句手の甲に刺されたのが苦い記憶になっているというのもあるのかもしれない。経験者は少ないかもしれないが、手の甲に針を刺される時の痛みは腕の内側に刺される時の2倍は痛みが強い気がする。

渋々左腕の袖をまくり、内側を差し出す。

 1回目、血管が細かったらしく採血開始早々抜かれる。右腕を出すように指示される。

2回目、無事に採血される。2回で済んだのはありがたいが、苦手な行為を2回もされた時点であまり嬉しくない。

結果が出るまで待機させられた。この頃にはもう一刻も早く帰りたい、という気持ちしかなかった。

「結果が出ました。特に問題はないようですね。」

「そうですか…ありがとうございます。」



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