8 / 9
8.病院
しおりを挟む
久々の朝食の後は着替えなければならないのだが、身体が重く着替えることが億劫であった。あまりの身体の重さに再び布団に潜り込んだ。
すっかり太陽は昇り、カーテンの隙間からその光がさしこんできている。その光が眩しくて、なぜかつらく感じてカーテンを完全に閉めた。
暗い部屋でうだうだしていると、扉をノックする音が聞こえた。
「凛乃さん、入りますよ~」
自分の家なのだから勝手に入ればいいものを。
「おはようございます!朝ご飯食べましたか?」
「…うん、美味しかった。」
「それはよかったです!行きたいところあるので着替えましょ?」
…なんとなく子供扱いされているのは気のせいだろうか。
「服、ないから貸して。」
「そこに入っているやつ適当に着ていいですよ!じゃ、玄関で待ってますね~」
言いたいことだけ言って風のように去っていった。こうなったら仕方ない。
クローゼットからパーカーとジーンズを拝借した。正直ズボンは履けるか心配だったが杞憂であった。ここで履けなかったら精神に別の角度からダメージを喰らうところであった。
ついでに帽子も借りて外に出ると、見慣れない白色の軽自動車があった。免許はお互い持っているが車は所持していない。ということはレンタカーであろうか。
「見てください!買っちゃったんです!」
自分の研究を語る時のように目を子犬のようにキラキラさせている。
「なんで?」
「凛乃さんも知っての通り、研究所って僻地にあることが多いじゃないですか。交通の便が悪すぎてやっぱり必要だな~と。」
根っからの車好きでもない限り車の購入の理由なんてそのようなものかもしれない。口には出さなかったが伝わったらしい。
「ささ、乗ってください!」
後ろに乗るのも気まずいため助手席に乗り込む。新車特有の匂いがした。和人も乗りシートベルトを締める。
「どこ行くの?」
「着いてからのお楽しみ、で。」
思わず怪訝な顔をしてしまった私を横目に見ながら、和人はエンジンをかけて発車した。
日光が眩しく、帽子を目深にかぶった。その状態で10分経った頃だろうか、目的地に着いたと言われたので窓の外を見た。
病院だった。
思わず睨みつけてしまった。
「だって凛乃さん、こうでもしないと病院行かないじゃないですか…」
「別にどこも悪くないのに…」
「最近急激に痩せてしまったので何か病気じゃないか心配なんですよ。僕の不安を取るためにも行ってきてください。…終わったらプリン買ってあげますから…」
病院嫌いは認めるがあまりにも子供扱いすぎやしないか。幸い保険証は常に財布に入れてあるため持ってはいる。ただ、
「何科に行けばいいの?」
「とりあえず内科ですかね。必要なら検査してくれるでしょうし。何も異常なかったら心療内科行きましょ?」
という流れを経て内科を受診することになった。
車を降りて病院内へと入る。受付で保険証と診察券と引き換えに問診票と体温計を渡され、体温計を脇に挟みつつ問診票と睨めっこしていた。
「本日はどのような症状でお越しですか」という質問、すなわちのっけからつまづく。和人が急激に痩せた、と言っていたのでその他でそう書けば良いのだろうか。
そんなことを考えていると体温計がピピッと鳴った。体温は35.6度。体温は低いが熱はない。問診票の残りを埋めて受付に体温計とともに提出した。
呼ばれるまで暇である。読書をしたくとも、文字が頭に入ってこない。スマホも画面の光がしんどい。目を瞑っても眠れるわけでもない。このような状況で過ぎる1分は1時間のように感じた。そもそも自ら進んで受診したわけでなく、半ば騙し討ちの形で連れてこられたようなものである。そのせいで余計に苦痛に感じた。
「小山凛乃さーん、中へどうぞー」
やっと呼ばれた。重い腰を上げて移動する。
またソファに座って順番を待つように言われた。無意味に目を瞑って待つことにした。
「小山さーん、どうぞー」
本日二度目のお呼び出し。目を開けて診察室へと入った。
「こんにちは。」
「こんにちは、どうぞおかけください。」
と声をかけて下さったのは女医さんだ。プレートを見ると名前は佐々木さんというらしい。お言葉に甘えて示された黒色の丸椅子に腰をかける。
「本日はどうなさいましたか?」
「ここ1ヶ月不眠気味で文字も読めなくなっていて…人にここ1ヶ月で急激に痩せたので受診したら?ということだったので受診しました。」
「なるほど…食欲はありますか?」
「ありません…自分からは食べずに人に言われてようやく食べる状態です。」
「最近何かストレスに感じることはありますか?」
「上司とうまくいっていないとは感じていますが、それが原因ではないと思います。」
「そうですか、甲状腺の病気の可能性もあるので血液検査をしたいと思います。採血をするので左右の腕どちらか出してください。」
採血…自分の血を見るのは大丈夫なのだが、針を刺す瞬間のチクッという感覚が嫌いである。また、血管が細いらしく、幼少期に点滴をするのに左右で計5回失敗された挙句手の甲に刺されたのが苦い記憶になっているというのもあるのかもしれない。経験者は少ないかもしれないが、手の甲に針を刺される時の痛みは腕の内側に刺される時の2倍は痛みが強い気がする。
渋々左腕の袖をまくり、内側を差し出す。
1回目、血管が細かったらしく採血開始早々抜かれる。右腕を出すように指示される。
2回目、無事に採血される。2回で済んだのはありがたいが、苦手な行為を2回もされた時点であまり嬉しくない。
結果が出るまで待機させられた。この頃にはもう一刻も早く帰りたい、という気持ちしかなかった。
「結果が出ました。特に問題はないようですね。」
「そうですか…ありがとうございます。」
すっかり太陽は昇り、カーテンの隙間からその光がさしこんできている。その光が眩しくて、なぜかつらく感じてカーテンを完全に閉めた。
暗い部屋でうだうだしていると、扉をノックする音が聞こえた。
「凛乃さん、入りますよ~」
自分の家なのだから勝手に入ればいいものを。
「おはようございます!朝ご飯食べましたか?」
「…うん、美味しかった。」
「それはよかったです!行きたいところあるので着替えましょ?」
…なんとなく子供扱いされているのは気のせいだろうか。
「服、ないから貸して。」
「そこに入っているやつ適当に着ていいですよ!じゃ、玄関で待ってますね~」
言いたいことだけ言って風のように去っていった。こうなったら仕方ない。
クローゼットからパーカーとジーンズを拝借した。正直ズボンは履けるか心配だったが杞憂であった。ここで履けなかったら精神に別の角度からダメージを喰らうところであった。
ついでに帽子も借りて外に出ると、見慣れない白色の軽自動車があった。免許はお互い持っているが車は所持していない。ということはレンタカーであろうか。
「見てください!買っちゃったんです!」
自分の研究を語る時のように目を子犬のようにキラキラさせている。
「なんで?」
「凛乃さんも知っての通り、研究所って僻地にあることが多いじゃないですか。交通の便が悪すぎてやっぱり必要だな~と。」
根っからの車好きでもない限り車の購入の理由なんてそのようなものかもしれない。口には出さなかったが伝わったらしい。
「ささ、乗ってください!」
後ろに乗るのも気まずいため助手席に乗り込む。新車特有の匂いがした。和人も乗りシートベルトを締める。
「どこ行くの?」
「着いてからのお楽しみ、で。」
思わず怪訝な顔をしてしまった私を横目に見ながら、和人はエンジンをかけて発車した。
日光が眩しく、帽子を目深にかぶった。その状態で10分経った頃だろうか、目的地に着いたと言われたので窓の外を見た。
病院だった。
思わず睨みつけてしまった。
「だって凛乃さん、こうでもしないと病院行かないじゃないですか…」
「別にどこも悪くないのに…」
「最近急激に痩せてしまったので何か病気じゃないか心配なんですよ。僕の不安を取るためにも行ってきてください。…終わったらプリン買ってあげますから…」
病院嫌いは認めるがあまりにも子供扱いすぎやしないか。幸い保険証は常に財布に入れてあるため持ってはいる。ただ、
「何科に行けばいいの?」
「とりあえず内科ですかね。必要なら検査してくれるでしょうし。何も異常なかったら心療内科行きましょ?」
という流れを経て内科を受診することになった。
車を降りて病院内へと入る。受付で保険証と診察券と引き換えに問診票と体温計を渡され、体温計を脇に挟みつつ問診票と睨めっこしていた。
「本日はどのような症状でお越しですか」という質問、すなわちのっけからつまづく。和人が急激に痩せた、と言っていたのでその他でそう書けば良いのだろうか。
そんなことを考えていると体温計がピピッと鳴った。体温は35.6度。体温は低いが熱はない。問診票の残りを埋めて受付に体温計とともに提出した。
呼ばれるまで暇である。読書をしたくとも、文字が頭に入ってこない。スマホも画面の光がしんどい。目を瞑っても眠れるわけでもない。このような状況で過ぎる1分は1時間のように感じた。そもそも自ら進んで受診したわけでなく、半ば騙し討ちの形で連れてこられたようなものである。そのせいで余計に苦痛に感じた。
「小山凛乃さーん、中へどうぞー」
やっと呼ばれた。重い腰を上げて移動する。
またソファに座って順番を待つように言われた。無意味に目を瞑って待つことにした。
「小山さーん、どうぞー」
本日二度目のお呼び出し。目を開けて診察室へと入った。
「こんにちは。」
「こんにちは、どうぞおかけください。」
と声をかけて下さったのは女医さんだ。プレートを見ると名前は佐々木さんというらしい。お言葉に甘えて示された黒色の丸椅子に腰をかける。
「本日はどうなさいましたか?」
「ここ1ヶ月不眠気味で文字も読めなくなっていて…人にここ1ヶ月で急激に痩せたので受診したら?ということだったので受診しました。」
「なるほど…食欲はありますか?」
「ありません…自分からは食べずに人に言われてようやく食べる状態です。」
「最近何かストレスに感じることはありますか?」
「上司とうまくいっていないとは感じていますが、それが原因ではないと思います。」
「そうですか、甲状腺の病気の可能性もあるので血液検査をしたいと思います。採血をするので左右の腕どちらか出してください。」
採血…自分の血を見るのは大丈夫なのだが、針を刺す瞬間のチクッという感覚が嫌いである。また、血管が細いらしく、幼少期に点滴をするのに左右で計5回失敗された挙句手の甲に刺されたのが苦い記憶になっているというのもあるのかもしれない。経験者は少ないかもしれないが、手の甲に針を刺される時の痛みは腕の内側に刺される時の2倍は痛みが強い気がする。
渋々左腕の袖をまくり、内側を差し出す。
1回目、血管が細かったらしく採血開始早々抜かれる。右腕を出すように指示される。
2回目、無事に採血される。2回で済んだのはありがたいが、苦手な行為を2回もされた時点であまり嬉しくない。
結果が出るまで待機させられた。この頃にはもう一刻も早く帰りたい、という気持ちしかなかった。
「結果が出ました。特に問題はないようですね。」
「そうですか…ありがとうございます。」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?
すず。
恋愛
体調を崩してしまった私
社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね)
診察室にいた医師は2つ年上の
幼馴染だった!?
診察室に居た医師(鈴音と幼馴染)
内科医 28歳 桐生慶太(けいた)
※お話に出てくるものは全て空想です
現実世界とは何も関係ないです
※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる