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第1章 病院での日々

3.医者と現実と初恋と

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 その後はもうがむしゃらであった。幸いその後は珍しく緊急搬送がなかったから比較的のんびりできるはずだった。

 彼女の検査結果を見るまでは。

 なんだかんだで夜勤も無事に終わった。いつもなら一旦家にシャワーを浴びに帰るところだが今日はそんな気になれなかった。医局でうだうだとしていると颯爽とタキが入ってきた。

「おはよう、ムネ~朋花ちゃん運ばれたって聞いたよ、どうだったんだい?」

「あぁタキか…その通りだよ、心室頻拍だった。それにしても情報早いな。」

「心室頻拍?運ばれたってことは看護師のことみちゃんから聞いたんだ。で、結果は?」

「CTを取ったら明らかに心臓の拡大が見られた。冠動脈に特に異常はないから恐らく…」

いつもどこかおちゃらけているタキが無表情で黙った。夜間からの雪は相変わらず降り続けており、全くの無音の世界が広がっていた。

 何分経過しただろうか。次々と同僚が出勤してタキはその後何も言わずに自分の患者の回診へと向かっていった。それと同時にようやく僕も重い腰を上げてシャワーを浴びに帰った。

 僕の部屋は病院から徒歩3分のところにある寮の一部屋である。築年数はそこそこだが、エレベーター完備なのがありがたい。

「ただいまー…」

誰もいないのに実家にいた頃の癖でそう言いながら3歩歩いて洗濯機の前で服をおもむろに脱ぎ、服を洗濯機に突っ込んだ。本当はシャワーも浴びずに布団に直行したいところだが、「お風呂入ってから寝なさい」という母の声が聞こえる気がしてなんだかんだでちゃんと入っている。

 洗濯機からさらに2歩進んで浴室にたどり着いた。そのまま無造作に引き戸を引く。体を滑り込ませ、力の限り戸を引いた。

無言でお湯の方の蛇口を捻る。初めは毛孔がぞわりとする程の冷たい水が出るため、普段なら3分ほど体にシャワーの水が当たらないようにするが、今日は頭から水を被っていても何も感じなかった。

---やっぱりきついな。

医者になってからまだ1年目の新米だが、現代の医療では進行を遅らせることしかできない人達がいる、という事実を分かっていたはずだった。そして触れてきたはずだった。

彼女もその中の1人に入ってしまっただけ、それだけのはずなのに。

どうしてこんなに苦しいのだろう。

現代の医療では完治はできないと分かっているのに、何か絶対にあるはずだとすがりたくなってしまうのは。

気がついたら体を温かい水が流れていた。知らぬ間に水からお湯になっていたらしい。何も考えずに体と髪を洗い流した。

 浴室から出ると、畳んでおいたはずの布団が床に敷いてあった。どうやら畳んでいたというのは記憶違いで実際はたたまずに出勤してしまっていたようだ。

布団をみた瞬間に電池が切れたかのように倒れ込み、そこで意識が途切れた。
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