友達の彼女

みのりみの

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クリスマス

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「24日の夜に帰国して、25日はお決まりのクリスマススペシャルライブ番組。
翌26日が午前中雑誌の取材とスタジオ。27日が、」

分かってはいたが、こんなにのんびりできたのだから覚悟はしていたが年末まで予定はびっしりだ。

「また年始はスノボーでも行くか」

聖司からそんな話も出た。
懐かしいと思っても一昨年の出来事だ。ひろこが来たスノボー。あの雪を被った可愛かったひろこの姿が脳裏にチラついた。

23日に中継が入りツリーの前から時差の関係で早朝の寒さの中俺たちは出演した。

春の声も寒さで悴むほどでそれがやたらと切ないバラードには心にきた。

中継が終わった流れでレコーディングスタジオに戻り聖司が新曲を聞かせてくれた。

来年は2曲同時リリースを狙って1位2位獲得を滲ませている。

「略奪」という曲ともうひとつは日本に帰ってから聞かせるからお楽しみという。

ビジュアルバンドらしいハイテンポなこの略奪という曲は切ないバラードから売って変わって1人の女を誘惑的に好きになるけど彼氏がいても奪うぞ的な歌詞。

聖司、私情が絡んでないか?とも思ったがこれはまたいいサウンドで。

手直しも出たが満足がいく出来。

「この曲、彼氏いる子を好きになったけど奪いたいって言ってる」 

優希が楽譜を見ながらポツリと言った。

「聖司片思い中なのー?」
「そうなんだよ。」
「聖司の片思いはだれー!ひろこー?」 
「その通り」

ゆるい会話に出てきてびっくりした。
春がブースに入っていたから3人こっきりだからよかったけど、これは春には聞いてもらいたくない。

「で、聖司の片思いの相手である最強のカード安藤ひろこはなんか言ってたか?」

聖司は目をつぶりギターを調節しながら言った。
「ひろこちゃんにとって、春は必要な人なんだって。大切だって、それに気づいたみたいだよ」

「聖司!それ春に早く言ってやれよ!」

俺も昨日最強カードはだした。それで春も心は動いたはずだ。

「今朝、中継終わった帰りに言ったよ。そろそろ迎えに行ってあげてって。帰国したらクリスマスだし、サンタの出番だしな。結局ふたりともまだ好き同士なんだよ。」

俺は数年前に里佳子と別れた聖司の事を思い出した。
すれ違いばかりで別れた聖司と里佳子。
春も二の舞になってばダメだ。

「この略奪って曲の意味も話した。いい意味で春が嫉妬すればいいかなって。俺のひろこちゃんに対しての気持ち。」

「聖司、俺たち失恋だな」

俺がギターの音をギャインと鳴らして言った。

「え?ケンもひろを好きだったの?僕もずっと好きなんだけど!」

優希がビックリしていた。

3人でひろこへの失恋を味わい「略奪」という曲は世にでる準備をする。



「それでは歌って頂きましょう。SOULで『会いたい』です」

クリスマスの生番組は帰国翌日にせわしく始まった。




『すぐ戻るから』

ニューヨークでホテルをチェックアウトする前に春が1人出かけたのを知っている。
ホテルのブッフェのパンが美味しいって毎朝食べてたのに、そのパンも食べずに出て行った。
小1時間くらいで戻ってきて何かを買ったらしい。
税関に引っかかり高額物購入の申請書を書いていたのを俺は見逃さなかった。

「赤い、カルティエの包み紙見えた」

優希はコソコソと俺に話してきた。

「春、、」
「絶対そうだよね」
「俺にも教えて」

聖司が言うので俺がまたコソコソと耳打ちする。
「まじ?それはでかくでたな」
聖司もニヤリと笑った。

ひろこへのクリスマスプレゼントか結婚指輪かわからないが絶対そうだ。


春はもうふっきれたかのように切ないラブソングを歌い上げメリークリスマスと高らかにセクシー目線でカメラに向かって言い放つ。

生中継が終わるとアーティスト達はスタジオにはもう戻らず、必然的に局側が用意した打ち上げ会場に動線が引かれ流れた。

アーティストとそのマネージャーと音楽関係者、局員、賑やかな会場で今放送中の映像は大画面のテレビに流されている。

ふと、はじめて見るひろこのCMが流れた。
ビールのCMだった。

『もう1回』
『飲んで』
『美味しい?』

少し乱れた髪にトロそうに気怠く映るCMのひろこはまるで男と情事の後を想定したかのごとくアダルトに映っていてみんな目が釘付けになった。レコード会社のスタッフと話していた俺たちは話が中断してしまった。

「これ、最近放送されだしたのか?はじめて見るぞ」
「これ、ビールのCMだよね?」
「今日から放送みたいですよ。男はたまらないでしょ。安藤ひろこだもん」
「でもさーこんなやった後みたいなCM安藤ひろこの彼氏なら怒るよな。これは男ならそそるわ」

レコード会社の男の言葉に春はそのCMをしばらく黙って見ていたが、何を思ったのだろう。
顔が少しニヤけたかと思ったがつまらなそうな顔になった。

「怒るっつーの」

春のつぶやきを俺は聞き逃さなかった。
多分メンバーもスタッフも聞いていただろう。

事務所の車で会場を後にしたのは24時近くをまわってしまっていた。
春は今日サンタにならないのか。少し心配になった。多分みんなもそう思っていた。

「俺、ここで降りるよ」

聖司のマンションの近所、代官山と恵比寿の間のところで春は言い出した。

「何言ってんだよ。物騒だから家まで行くよ」

今日のドライバーである山ちゃんが言った。

「クリスマスのこんな時間にひとりで歩く男が物騒なワケないじゃない。大丈夫だよ。」

春は車から降りた。

「メリークリスマス!」
「もう日付変わったからクリスマスじゃねーよ!」

俺は春に窓を開けて言った。

「ニューヨークはまだ25日だよ」

それだけ言い残し春は暗い道を歩いて行った。

「ここから、ひろこちゃんちまで歩いて10分くらい?」
「だろうな」

俺たちは口々に言った。

「仲直り、するのかな?」「復縁?」「あのCM見てやりたくなったのかな?」

車内でそれぞれの思いが交錯する。
ふたりのクリスマスはどうゆう結末になるのだろうと思いながら。


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