5 / 36
大阪
しおりを挟む
「元気か?」
『元気だよ。今日のお弁当唐揚げだった』
ひろこは大阪に引っ越した。
全く新しい環境で東京生まれ東京育ちのひろこにとっては大阪の人、その土地の事、新鮮さはあっただろう。
俺は毎月2.3回はひろこに会いに大阪に行っていた。
その間は東京で25歳の広瀬七海というグラビアアイドルのマネジメントをした。
ちょうど広瀬七海のマネージャーが産休に入ったのでそのタイミングだった。
広瀬七海も25歳にしては童顔でうちの事務所主催のオーディションで勝ち抜いたグラビアアイドルだけあり可愛い子だった。しかし広瀬を受け持ってからはあのひろこのような周りを圧倒する褒め言葉は聞こえてこなかった。
やはり自分がスカウトした手前ひろこを早く東京に戻したくて広瀬の宣伝傍らひろこの宣材や写真集も持ち回って営業に勤しんだ。
あの失恋したボロボロさはまったくなくなったが大阪へ行ってからひろこは生意気な口をきかなくなった。
自分でも自分なりに東京でブレイクしなかった都落ちの感はあったのだろう。
そんな屈辱と本人はそこまで思ってもいないかもだがひろこは一皮向け会うたびにどこか大人っぽくなっていった。
「性格はハタチを越えると変わらない」
大学時代の友達が言っていた。
ひろこは19歳。
ちょうど20歳前だ。
良いタイミングで子供らしさも抜けて大人に成長してくれるのかと思った。
失恋も癒えてこれから恋でもするのだろうか。
失恋から立ち直れれば誰でもいいから恋愛してくれ、とは思ったが相手が変な輩でない事を陰ながら祈っていた。
大阪放送の音楽番組司会という週1のレギュラーの傍らその局内での番組出演の依頼がチラチラと入り関西地区限定の雑誌の表紙、はたまた大阪ローカル局での番組出演と大阪での知名度は少しずつ広げていたつもりだった。
その最中、ひろこのグアムの写真集が重版がかかった。
やっぱり。
俺は出版社から取次経由で聞いてもらうとどうやら関西地区で売れているらしい。
ひろこのあの出来の良い写真集は見る人の心を絶対掴むと思っていた。
この写真集きっかけでいいからもっと知名度を広げてくれ、と俺は思いながら。しかし写真集2回重版ではそこまで仕事が殺到する訳でもない。
東京でのひろこのレギュラーは取れないものかと俺も動いてはいたが、手元に来る案件は単発ばかりだった。
雑誌とのタイアップでこのブランドの服着て1回掲載。
ドラマのほんのちょい役で1回出演。
CMで50人女の子を使うからその1人で。
俺はどれもこれも納得はしなかった。
「安売りしたくない」
多分そんな思いが強かった。
8月5日。
ひろこは20歳になった。
『誕生日おめでとう』
『ありがと。』
メールでお互い簡素だけどやり取りをした。
間もなく大阪に来て1年が経つ。
大阪での仕事は変わらないが、未だ東京でのレギュラーともいうべきオファーはなかった。
ひろこは20歳。
まだまだこれから。
俺はまた今日も広瀬を現場に連れて行きがてら、局内で知り合いのプロデューサーやディレクターと喫煙所で雑談をしてはそれとなく局員の動向や今後の番組制作上の必要な女性像などないか探っていた。
「ひろこ!」
「遊井さん!お疲れ様。」
大阪放送のロビーで待ち合わせしてひろこは局員のようにパスを出してくれて会議室に案内してくれた。
「ほら。買ってきたぞ」
「ありがとー!コーヒーとお皿持ってくるね」
思春期の娘と親は久々会うのがちょうど良い人間関係が保たれると聞いた話ではあるがよく言ったものだと思う。
俺はひろこの大好きな事務所近くにあるレアチーズケーキを毎回持っていく。
「遊井さんにも買っておいたよ。帰り食べて」
「おーサンキュー!」
俺のお気に入りのタコヤキ饅頭をひろこが手渡してくれてお菓子の交換は当たり前になった。
ひろこは嬉しそうにケーキを頬張るが、いつもより嬉しそうに美味しそうに食べる。表情が豊かでどことなく足取りも軽やかだ。
「なんか、いい事でもあったのか?」
「え?そお?」
ひろこはケーキを食べながら俺を見た。
「まぁ、1年前よりかは顔はイキイキしてるよな。早いよなぁ」
「そうだね。」
鞄から資料を出して渡しながら俺はひろこに言った。
「去年のグアムの写真集が重版かかったよ。」
「え?本当?」
ひろこの目がパッと明るく輝いた。
「出版社に取次経由で聞いてもらったら関西の書店で売れてるんだ。やっぱり大阪でファンがジワジワ増えてるんだと思うぞ」
「えーでも売れてるなら嬉しいよ」
ひろこはケーキを食べ終えて嬉しそうに話した。
「・・東京で、仕事してみるか?」
「え?東京?何それ?東京でできるの?レギュラー?」
「うーん。。いや、ファッション誌で1回ブランドとタイアップ。単発だから」
「そっか」
『有名になるまで東京には帰りたくない。』
ひろこの気持ちはそこだった。
年末年始の休みになってもひろこは東京へ帰らなかった。
失恋した男を見返す。
言ったのは俺だがひろこも確固たる信念を持って大阪に来ていた事は俺が1番知っていた。
「バーンと全国区でCM決まればトントンといける気もするんだけどなー。決まんねーかなぁ。あと週刊誌の表紙。関西版ね。これは抑えたから。大阪で撮影だって。来月15日な」
「うん。分かった。15日ね」
ひろこは手帳に予定を入れた。
「ひろこ、成人式どうするんだ?1月だろ?休みとって東京来るか?お母さん達も心配してるぞ。年末は仕事入れちゃったけど、年始は元旦から多めに休み取っていいから。」
俺は手帳を1月のページにしてペンを持っていた。
ひろこはその1月のページを見ながらしばらく黙ってこう言った。
「・・・考えとくね。」
『元気だよ。今日のお弁当唐揚げだった』
ひろこは大阪に引っ越した。
全く新しい環境で東京生まれ東京育ちのひろこにとっては大阪の人、その土地の事、新鮮さはあっただろう。
俺は毎月2.3回はひろこに会いに大阪に行っていた。
その間は東京で25歳の広瀬七海というグラビアアイドルのマネジメントをした。
ちょうど広瀬七海のマネージャーが産休に入ったのでそのタイミングだった。
広瀬七海も25歳にしては童顔でうちの事務所主催のオーディションで勝ち抜いたグラビアアイドルだけあり可愛い子だった。しかし広瀬を受け持ってからはあのひろこのような周りを圧倒する褒め言葉は聞こえてこなかった。
やはり自分がスカウトした手前ひろこを早く東京に戻したくて広瀬の宣伝傍らひろこの宣材や写真集も持ち回って営業に勤しんだ。
あの失恋したボロボロさはまったくなくなったが大阪へ行ってからひろこは生意気な口をきかなくなった。
自分でも自分なりに東京でブレイクしなかった都落ちの感はあったのだろう。
そんな屈辱と本人はそこまで思ってもいないかもだがひろこは一皮向け会うたびにどこか大人っぽくなっていった。
「性格はハタチを越えると変わらない」
大学時代の友達が言っていた。
ひろこは19歳。
ちょうど20歳前だ。
良いタイミングで子供らしさも抜けて大人に成長してくれるのかと思った。
失恋も癒えてこれから恋でもするのだろうか。
失恋から立ち直れれば誰でもいいから恋愛してくれ、とは思ったが相手が変な輩でない事を陰ながら祈っていた。
大阪放送の音楽番組司会という週1のレギュラーの傍らその局内での番組出演の依頼がチラチラと入り関西地区限定の雑誌の表紙、はたまた大阪ローカル局での番組出演と大阪での知名度は少しずつ広げていたつもりだった。
その最中、ひろこのグアムの写真集が重版がかかった。
やっぱり。
俺は出版社から取次経由で聞いてもらうとどうやら関西地区で売れているらしい。
ひろこのあの出来の良い写真集は見る人の心を絶対掴むと思っていた。
この写真集きっかけでいいからもっと知名度を広げてくれ、と俺は思いながら。しかし写真集2回重版ではそこまで仕事が殺到する訳でもない。
東京でのひろこのレギュラーは取れないものかと俺も動いてはいたが、手元に来る案件は単発ばかりだった。
雑誌とのタイアップでこのブランドの服着て1回掲載。
ドラマのほんのちょい役で1回出演。
CMで50人女の子を使うからその1人で。
俺はどれもこれも納得はしなかった。
「安売りしたくない」
多分そんな思いが強かった。
8月5日。
ひろこは20歳になった。
『誕生日おめでとう』
『ありがと。』
メールでお互い簡素だけどやり取りをした。
間もなく大阪に来て1年が経つ。
大阪での仕事は変わらないが、未だ東京でのレギュラーともいうべきオファーはなかった。
ひろこは20歳。
まだまだこれから。
俺はまた今日も広瀬を現場に連れて行きがてら、局内で知り合いのプロデューサーやディレクターと喫煙所で雑談をしてはそれとなく局員の動向や今後の番組制作上の必要な女性像などないか探っていた。
「ひろこ!」
「遊井さん!お疲れ様。」
大阪放送のロビーで待ち合わせしてひろこは局員のようにパスを出してくれて会議室に案内してくれた。
「ほら。買ってきたぞ」
「ありがとー!コーヒーとお皿持ってくるね」
思春期の娘と親は久々会うのがちょうど良い人間関係が保たれると聞いた話ではあるがよく言ったものだと思う。
俺はひろこの大好きな事務所近くにあるレアチーズケーキを毎回持っていく。
「遊井さんにも買っておいたよ。帰り食べて」
「おーサンキュー!」
俺のお気に入りのタコヤキ饅頭をひろこが手渡してくれてお菓子の交換は当たり前になった。
ひろこは嬉しそうにケーキを頬張るが、いつもより嬉しそうに美味しそうに食べる。表情が豊かでどことなく足取りも軽やかだ。
「なんか、いい事でもあったのか?」
「え?そお?」
ひろこはケーキを食べながら俺を見た。
「まぁ、1年前よりかは顔はイキイキしてるよな。早いよなぁ」
「そうだね。」
鞄から資料を出して渡しながら俺はひろこに言った。
「去年のグアムの写真集が重版かかったよ。」
「え?本当?」
ひろこの目がパッと明るく輝いた。
「出版社に取次経由で聞いてもらったら関西の書店で売れてるんだ。やっぱり大阪でファンがジワジワ増えてるんだと思うぞ」
「えーでも売れてるなら嬉しいよ」
ひろこはケーキを食べ終えて嬉しそうに話した。
「・・東京で、仕事してみるか?」
「え?東京?何それ?東京でできるの?レギュラー?」
「うーん。。いや、ファッション誌で1回ブランドとタイアップ。単発だから」
「そっか」
『有名になるまで東京には帰りたくない。』
ひろこの気持ちはそこだった。
年末年始の休みになってもひろこは東京へ帰らなかった。
失恋した男を見返す。
言ったのは俺だがひろこも確固たる信念を持って大阪に来ていた事は俺が1番知っていた。
「バーンと全国区でCM決まればトントンといける気もするんだけどなー。決まんねーかなぁ。あと週刊誌の表紙。関西版ね。これは抑えたから。大阪で撮影だって。来月15日な」
「うん。分かった。15日ね」
ひろこは手帳に予定を入れた。
「ひろこ、成人式どうするんだ?1月だろ?休みとって東京来るか?お母さん達も心配してるぞ。年末は仕事入れちゃったけど、年始は元旦から多めに休み取っていいから。」
俺は手帳を1月のページにしてペンを持っていた。
ひろこはその1月のページを見ながらしばらく黙ってこう言った。
「・・・考えとくね。」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる