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会見
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アッキーが事前に作られた結婚報告FAXのフォーマットを社長に提出しようと用意していた。
「アッキー、俺自筆で書くよ」
その場にいた社長とアッキー、澤本沢村が俺を見た。
「秋元、スミさんの方はどおなってるの?うちよりスミさんの方が大変じゃない?ちゃんと調整して」
「はい!」
アッキーは軍隊のような返事をして俺は事務所入口すぐにある部屋のテーブルで自筆で報告の文書を書いた。なぜか澤本沢村も立ち会いの中、自分で書きたかった。
書いていると遊井さんとひろこの事務所の面々が来て社長室に通されていた。
「アッキー書けたよ。」
俺が振り返ると遊井さんとひろこの事務所の人がいたので頭を下げた。
アッキーが文書を遊井さんに渡し、遊井さんはFAXを送っていた。ひろこに送っているのだろう。機械的な文章だけど、すでに用意されているフォーマットの当たり障りのない言葉でも変わらないだろうけど、自分の言葉でどうしても書きたかった。
俺はすぐ近くにあるコーヒーメーカーで遊井さん達に出すコーヒーを用意して持って行った。
「これで いいよね?」
みんな俺の文書を無言で見ていた。間も無くひろこからFAXが届いた。俺の名前の下に安藤ひろこ と書かれていた。
その文書をアッキーが社長の元へ持って行こうとする時、社長が俺の元へ来た。
「やっぱり会見はしろよ、春。安藤さんはしなくても春だけはしなさい。」
「わかりました」
俺は素直に返事をした。
するとアッキーはバタバタといなくなった。
「17時、マスコミ各社FAX流して、会見は19時のラジオ収録の後で。場所はラジオ局の地下駐車場。今許可とれたから。」
午後になるとアッキーが現れて早口で俺に言ったと思ったらすぐいなくなった。
いよいよだ。
17時ちょうどにFAXを流すとメディアは一斉に騒がしくなった。
夕方のニュースは俺とひろこの画像が画面に半分半分。
テロップは『SOUL・HARU 安藤ひろこ電撃入籍』とあった。
そしてさっき書いたFAXをもう読み上げていた。
『詳細は19時からの会見で、との事ですが年始早々ビッグニュースですね!』
『安藤さんとは年末のカウントダウン番組で知り合い、そのまま入籍というスピード婚の詳細も知りたいですね』
『安藤さん22歳でしょ。番組で知り合ったメンバーの聖司さんを介して秋頃から交際という話もありますね』
『普通22歳の子が結婚なんてどんだけ好きか若気の至りかどちらかですよ」
TVもネットも言いたい放題騒ぐ。若気の至り。世間の目はそう見るのは当たり前だろう。
ネットはもっと酷かった。
『安藤ひろこデキ婚確定!』そんな文字が並んだ。
その日のあるだけの情報でメディアは俺たちの入籍をこぞってとりあげた。
「妊娠とか電撃婚とか言われてるけど。まぁ想定内ですよね。」
沢村が俺に心配して声をかけてきた。
「会見で、ちゃんと話すから。」
俺はいつも通りラジオの収録へ向かった。
『デキ婚って言われてるね。』
ひろこからメールが来た。
『ちゃんと話すから心配しないで』
ひろこも心配だろう。
メンバーもきっと心配してる。
楽屋に入るとスタイリストと澤本沢村、山ちゃん五十嵐までもが一緒にいてくれた。アッキーがめちゃくちゃ走り回っているのでそのフォローもあるんだろうけど、みんなソワソワと落ち着かない表情をしていた。
その時ドアがバタンと開くと遊井さんが入ってきた。
「遊井さん、お騒がせしてすいません」
俺は立ち上がって頭を下げた。
「会見してくれるなんてありがとう。ひろこは家で見てるから。しっかりね。」
遊井さんも走り回っていたのか、肩で息をするかのように、髪は風で乱れていた。
「ネクタイ、本当にこのままでいくの?他にもあるけど?」
ひろこが結んだ紺色のネクタイは生地のカッティングでかすかに裏面の濃いピンクが見えるような作りになっている事を今気づいた。
「これでいいよ。」
「HARUさん、入ってください。時間です。」
時計はぴったり19時になっていた。
駐車場への扉を開いた途端無数のフラッシュがたかれた。
「おめでとうございます!」
「HARUさんおめでとうございます!」
「HARUさーん!おめでとうございます」
報道陣の声がかかり一斉に俺の元に集まって来た。
あぁ、これがTVでよくある結婚会見なんだなと思った。でもやたら俺は冷静だった。
ありがとうございます、と会釈をしてマイク越しで改めて話した。
「本日僕はタレントの安藤ひろこさんと入籍をしました。一部報道でありましたスピード婚ではなく、知り合ったのは2年半ほど前の大阪での番組共演です。」
何個ものカメラのフラッシュに会見はスタートした。フラッシュがどれもこれも強くて前が見えない。
「結婚を決めた理由はなんですか?」
「一言で言うと大切な人なので。このまま恋人同士もいいけど誰かに取られたら嫌だなってその気持ちだけです。」
「安藤さんはまだ22歳とお若いのですが、お子さんのご予定は?」
マスコミが1番気になるところになると分かりやすくフラッシュは余計に強くなった。
「今のところないです。彼女もまだ仕事は続けますし、しばらくは2人でいたいねと」
当たり前だがこれだけはハッキリ言いたかった。それは双方事務所も思っている事だろう。
「プロポーズのことばは?」
「普通に」
「普通にとはどんなHARUさん流のセリフで言ったのですか?」
俺は正直照れた。言いたくないけど、冷静に言おうと思った。
「奥さんにならないかと言いました」
「安藤さんは!安藤さんのお返事はなんだったのですか?」
「よろしくね、と」
「春さん!春さんは安藤さんのどこに魅かれたのですか!?」「深夜の女神を射止めた気分を一言!」「春さーんかねてから安藤さんを口説いていた支倉大介さんに一言!」
芸能レポーターの熱くなる質問攻めにアッキーが1人づつ質問するよう注意を促した。
俺は言葉を選びながら丁寧に記者達に対応した。
ここで俺がしっかりしないとひろこはもちろん遊井さん、ひろこの事務所、理解してくれたうちの事務所やメンバーやスタッフにも迷惑をかける事になる。
俺はひとり責任を負った気持ちだったけど、これで世間に周知できてひろこと結婚できたのだから晴れ晴れとした気持ちになった。
むしろしばらく会見を受けててもいいかな、くらいだった。
きっと今、ひろこはこの会見を見てる。
ひろこの事を好きな男達も見てる。
「安藤さんと、どのような家庭を築きたいですか?お子さんは、何人ほしいとかありますでしょうか。」
「子供何人ってより、2人でいたくて結婚するのでそういうビジョンがまだ見えなくて、すいません。」
「じゃあ本当にしばらくはお二人での生活、ですね」
「はい」
「HARUさーん!2人でいたいって思う気持ちの原点はやはり、HARUさんの想いと安藤さんの想い、どちらが強いのでしょうか」
「・・・僕ですね。」
そうなんだ。もう惚れた方が負け。
好きに勝ち負けなんてないけど、もうひろこを独占しなきゃいられなかったんだ。
それだけなんだ。
「アッキー、俺自筆で書くよ」
その場にいた社長とアッキー、澤本沢村が俺を見た。
「秋元、スミさんの方はどおなってるの?うちよりスミさんの方が大変じゃない?ちゃんと調整して」
「はい!」
アッキーは軍隊のような返事をして俺は事務所入口すぐにある部屋のテーブルで自筆で報告の文書を書いた。なぜか澤本沢村も立ち会いの中、自分で書きたかった。
書いていると遊井さんとひろこの事務所の面々が来て社長室に通されていた。
「アッキー書けたよ。」
俺が振り返ると遊井さんとひろこの事務所の人がいたので頭を下げた。
アッキーが文書を遊井さんに渡し、遊井さんはFAXを送っていた。ひろこに送っているのだろう。機械的な文章だけど、すでに用意されているフォーマットの当たり障りのない言葉でも変わらないだろうけど、自分の言葉でどうしても書きたかった。
俺はすぐ近くにあるコーヒーメーカーで遊井さん達に出すコーヒーを用意して持って行った。
「これで いいよね?」
みんな俺の文書を無言で見ていた。間も無くひろこからFAXが届いた。俺の名前の下に安藤ひろこ と書かれていた。
その文書をアッキーが社長の元へ持って行こうとする時、社長が俺の元へ来た。
「やっぱり会見はしろよ、春。安藤さんはしなくても春だけはしなさい。」
「わかりました」
俺は素直に返事をした。
するとアッキーはバタバタといなくなった。
「17時、マスコミ各社FAX流して、会見は19時のラジオ収録の後で。場所はラジオ局の地下駐車場。今許可とれたから。」
午後になるとアッキーが現れて早口で俺に言ったと思ったらすぐいなくなった。
いよいよだ。
17時ちょうどにFAXを流すとメディアは一斉に騒がしくなった。
夕方のニュースは俺とひろこの画像が画面に半分半分。
テロップは『SOUL・HARU 安藤ひろこ電撃入籍』とあった。
そしてさっき書いたFAXをもう読み上げていた。
『詳細は19時からの会見で、との事ですが年始早々ビッグニュースですね!』
『安藤さんとは年末のカウントダウン番組で知り合い、そのまま入籍というスピード婚の詳細も知りたいですね』
『安藤さん22歳でしょ。番組で知り合ったメンバーの聖司さんを介して秋頃から交際という話もありますね』
『普通22歳の子が結婚なんてどんだけ好きか若気の至りかどちらかですよ」
TVもネットも言いたい放題騒ぐ。若気の至り。世間の目はそう見るのは当たり前だろう。
ネットはもっと酷かった。
『安藤ひろこデキ婚確定!』そんな文字が並んだ。
その日のあるだけの情報でメディアは俺たちの入籍をこぞってとりあげた。
「妊娠とか電撃婚とか言われてるけど。まぁ想定内ですよね。」
沢村が俺に心配して声をかけてきた。
「会見で、ちゃんと話すから。」
俺はいつも通りラジオの収録へ向かった。
『デキ婚って言われてるね。』
ひろこからメールが来た。
『ちゃんと話すから心配しないで』
ひろこも心配だろう。
メンバーもきっと心配してる。
楽屋に入るとスタイリストと澤本沢村、山ちゃん五十嵐までもが一緒にいてくれた。アッキーがめちゃくちゃ走り回っているのでそのフォローもあるんだろうけど、みんなソワソワと落ち着かない表情をしていた。
その時ドアがバタンと開くと遊井さんが入ってきた。
「遊井さん、お騒がせしてすいません」
俺は立ち上がって頭を下げた。
「会見してくれるなんてありがとう。ひろこは家で見てるから。しっかりね。」
遊井さんも走り回っていたのか、肩で息をするかのように、髪は風で乱れていた。
「ネクタイ、本当にこのままでいくの?他にもあるけど?」
ひろこが結んだ紺色のネクタイは生地のカッティングでかすかに裏面の濃いピンクが見えるような作りになっている事を今気づいた。
「これでいいよ。」
「HARUさん、入ってください。時間です。」
時計はぴったり19時になっていた。
駐車場への扉を開いた途端無数のフラッシュがたかれた。
「おめでとうございます!」
「HARUさんおめでとうございます!」
「HARUさーん!おめでとうございます」
報道陣の声がかかり一斉に俺の元に集まって来た。
あぁ、これがTVでよくある結婚会見なんだなと思った。でもやたら俺は冷静だった。
ありがとうございます、と会釈をしてマイク越しで改めて話した。
「本日僕はタレントの安藤ひろこさんと入籍をしました。一部報道でありましたスピード婚ではなく、知り合ったのは2年半ほど前の大阪での番組共演です。」
何個ものカメラのフラッシュに会見はスタートした。フラッシュがどれもこれも強くて前が見えない。
「結婚を決めた理由はなんですか?」
「一言で言うと大切な人なので。このまま恋人同士もいいけど誰かに取られたら嫌だなってその気持ちだけです。」
「安藤さんはまだ22歳とお若いのですが、お子さんのご予定は?」
マスコミが1番気になるところになると分かりやすくフラッシュは余計に強くなった。
「今のところないです。彼女もまだ仕事は続けますし、しばらくは2人でいたいねと」
当たり前だがこれだけはハッキリ言いたかった。それは双方事務所も思っている事だろう。
「プロポーズのことばは?」
「普通に」
「普通にとはどんなHARUさん流のセリフで言ったのですか?」
俺は正直照れた。言いたくないけど、冷静に言おうと思った。
「奥さんにならないかと言いました」
「安藤さんは!安藤さんのお返事はなんだったのですか?」
「よろしくね、と」
「春さん!春さんは安藤さんのどこに魅かれたのですか!?」「深夜の女神を射止めた気分を一言!」「春さーんかねてから安藤さんを口説いていた支倉大介さんに一言!」
芸能レポーターの熱くなる質問攻めにアッキーが1人づつ質問するよう注意を促した。
俺は言葉を選びながら丁寧に記者達に対応した。
ここで俺がしっかりしないとひろこはもちろん遊井さん、ひろこの事務所、理解してくれたうちの事務所やメンバーやスタッフにも迷惑をかける事になる。
俺はひとり責任を負った気持ちだったけど、これで世間に周知できてひろこと結婚できたのだから晴れ晴れとした気持ちになった。
むしろしばらく会見を受けててもいいかな、くらいだった。
きっと今、ひろこはこの会見を見てる。
ひろこの事を好きな男達も見てる。
「安藤さんと、どのような家庭を築きたいですか?お子さんは、何人ほしいとかありますでしょうか。」
「子供何人ってより、2人でいたくて結婚するのでそういうビジョンがまだ見えなくて、すいません。」
「じゃあ本当にしばらくはお二人での生活、ですね」
「はい」
「HARUさーん!2人でいたいって思う気持ちの原点はやはり、HARUさんの想いと安藤さんの想い、どちらが強いのでしょうか」
「・・・僕ですね。」
そうなんだ。もう惚れた方が負け。
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